20話 指導
目を覚ますと保健室にいた。ベッドから体を起こし保健室の中を見回すと、松本先生は不在だった。俺はどうして自分が保健室にいるのか思い出してみることにした。春奈とユースさんと戦って勝ったけどそのまま力尽きてから記憶がない。体の不調は感じず保健室を後にしようとしたが、いなくなるのは松本先生に迷惑になるだろうと思いスマホで春奈に連絡した。
『今保健室にいるんだけどそっちどうなった?』
返信が来るのに時間がかかるだろうと思いスマホを閉じようとしたが、思っていたよりも早く返信が来た。
『こっちは特に変わりないよ。先生たちに怪我も治してもらったし大丈夫。トップ10のアイテムは後日貰えるらしいから安心して。今日は一年の部だけで終わったから今は勝の近接戦闘部を透と見てたところ』
『そっか。松本先生と話してからそっち行くよ』
『待ってるねー』
春奈と連絡を取っていると松本先生が保健室に戻ってきた。
「どう? 具合悪いところない?」
「はい大丈夫です」
「それなら良かった。一応治癒魔法使ってあるから今後悪化することは無いと思うけど一応安静にね」
「はい。ありがとうございました」
俺が保健室を後にしようとすると、松本先生が俺の手を取り保健室に引き留めた。
「小出くん、治癒魔法をいつ覚えたのか教えてもらってもいい?」
「えーと……」
さすがに武帝に教えてもらったって言うのは事実だけど嘘っぽいし、まともに取り合ってもらえないだろう。どうしようか悩んでいると松本先生が言った。
「話したくないなら話さなくていいわ。ごめんなさいね引き留めちゃって。それと、もしよかったら他の生徒にも治癒魔法教えてくれない? みんなが使える方が私の負担が減るからさ」
松本先生が微笑みながら言った。松本先生の魅力に思春期男子が勝てるわけもなく俺は即答してしまった。
「頑張ります!」
「そう? ありがとう」
「失礼します」
俺は何とか自分を律し毅然とした態度を取ろうと頑張った。でも、松本先生にはそんなことバレバレだっただろう。こんな教師が居ていいのかと心底思った。訓練場に向かう道中、どの部活も活動がいつもより活発だった。俺たちは一年生が二、三年生のやる気を刺激したのだろうかと思っていると先輩と思しき人と目が合った。俺はすぐに他所を向いたが、その人は俺の方に一直線に向かってきた。
「ね、君小出くんだよね? 私二年の魔法使いなんだけど魔法教えてくれない? 君の魔法の才能は光正一だって確信してるんだ。だからお願い。私に魔法を教えてください!」
「い、いや俺なんかが先輩に教えるなんて……」
「そこを何とか!」
俺がどうしようか考えていると、周りにいた先輩たちも集まってきて断ろうにも断れない状況になり仕方なく教えることになった。
「まずみなさんがどのぐらい魔法を使えるのか知らないので見せてもらえますか?」
先輩たちは各々魔法を見せてくれた。でも、先輩たちに教えなくてはいけないような事は無いと感じた。率直に事実を伝えても引き留められるだろうから逆に聞くことにした。
「分かりました。自分に何を教えて欲しいのかいまいち把握できていないので具体的に教えてもらってもいいですか?」
俺がそう聞くと先輩たちが口々に教えて欲しいことを言った。早く魔法を発動するコツや土壇場で使う魔法のコツなど主に選抜戦に向けての事だった。それなら教えられることもあると俺は先輩たちに実践して見せることにした
「みなさんが選抜戦に向けて実戦的な魔法について聞きたいのは分かりました。それでは自分が戦う時に意識していることや気をつけていることを実践します。
まず、相手が魔法使いの場合です。この時、相手がどんな魔法を使うのかは分からない状況で言います。最初は様子見しながら自分の得意な事を相手に押し付けてください。実戦は自分の有利な事を押し付ける事が最も重要です。逆に相手が近接職の場合は相手に有利を押し付けられる事が多いです。今日の自分の選抜戦を見てくださっていたのなら分かると思います。そのような場合どうすれば良いのかですが、爆発魔法を使っていた宮村さんのように相手が近づいてきた時の対処法が必須です。自分はそのような魔法は使った事がないので教えられませんが、意識する事としてはこのぐらいです。後、実戦中は常にマナを集中させていつでも魔法を使えるようにしておかないと急な対処が難しくなるので気をつけてください。早速一対一で試してみてください。分からないことがあれが都度聞いてください」
先輩たちに指示を出して今のうちに春奈に連絡を入れた。
『ごめん。先輩たちに魔法教えて欲しいって捕まったからそっち行くの遅れる』
『了解。頑張ってねー』
連絡を終えると先輩の一人が話しかけてきた。
「小出くん、相手が近接職の時って開幕どんな事するのがいいの? もし、自分ならどんな事やられるのが嫌?」
「そうですね、対戦が始まる前から速攻で魔法を撃つ事を念頭に置いておく事がいいですね。自分としても速攻で魔法を撃たれたら出鼻くじかれる感じなので」
「ありがとう!」
そこから先輩たちに色んなアドバイスをしたが、先輩たちはいまいち自分のものにできていなかった。なら、実戦で試す方がいいのではないかと思い金田先輩に提案することにした。訓練場に行き金田先輩に先輩たちに魔法を教えていることを伝え、合同訓練しないかと提案してみた。最初金田先輩は悩んでいたが、他の先輩たちが楽しそうだと言い合同訓練をすることになった。
「先輩方、これはあくまで訓練ですので本気にならないように注意してください。それと、近接職と魔法使いの互いの弱点、有利点を確認して自分のものにする事を目的としてますので戦うことではなく、翌日の選抜戦に活かせることを探してください。一対一で訓練を行いますが、止められる人はいませんので熱くなりすぎないように気をつけてください。それでは各々お願いします!」
先輩たちは各々一対一で訓練を始めた。俺たち一年は今日選抜戦をしたばかりだから見学しておいた。その時勝が話しかけてきた。
「おい健斗、何でお前が先輩たち魔法教えてるんだよ」
「俺にもよく分からん。普通に訓練場に行こうって歩いてたら話しかけられて魔法教えてくれって言われて今に至る。そもそも俺そんなに魔法上手くないのに何でだろうな?」
俺がそう言うと透が言った。
「先輩たちは魔法を使う事は健ちゃんより何倍も上手いけど、実戦となるとそうはいかないんじゃない? 健ちゃんの戦い見てたけど魔法使いと近接職の両方の利点を押し付けられるから教えてもらうのにちょうどいいんだと思うよ」
「なるほどな」
そんな話をしていると魔法使いの先輩たちの何人かが俺の所にやってきて言った。
「もし、小出くんが自分と同じような人と対戦するってなったらどう戦う?」
急な質問に悩んでいると、金田先輩が言った。
「コイツらはお前に魔法と近接職どっちが強いか、優ってるか劣ってるか聞いてるだけだ。答えなくていいぞ」
「そ、そんな事ないし!」
「私たちはただ疑問に思っただけよ!」
案外図星なようで顔が赤くなっていた。俺は先輩たちを落ち着かせるために言った。
「そもそも俺たちが相手にするのは同じ人じゃなくてモンスターですよね? どっちが優ってる劣ってるかじゃなくて互いの弱点を補うようにすればいいんじゃないですか?」
俺の言葉にその場にいた先輩たちが動きを止めた。先輩たちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。まさかこの人たちはどちらが上か下かを争っていたのかと心底落胆した。この意識のまま攻略者とならなくて良かったと安心した。
「はい、先輩方聞いてください。今日の訓練で分かったと思いますが、近接職、魔法使い両者に出来ること出来ないことがあります。だから、攻略者として活躍している方々はパーティを組んでいるんですよね? 攻略者となる先輩方が闘争心を燃やして成長するのは喜ばしいことです。ですが、そのままの考えで攻略者にはならないでくださいね。俺たちは人間で、知性のないモンスターではありません。それに、敵はモンスターです。同じ攻略者ではありません。互いに協力してください。そして、攻略者チャートの上位に名を連ねるような攻略者になってください。後輩として先輩方の名前をチャートで見れるのを期待しています。選抜戦頑張ってください。自分たちはこれで失礼します」
俺たちはその場を去った。きっと、俺たちがいない方が先輩たちにとっていいだろうと思ったのだ。それに、俺があんなことを言ったのにその場に留まるのはさすがに気まずいのもある。勝と透は帰り道よくあんなこと言ったなと笑いながら茶化してきた。でも、俺は自分が間違いを犯したとは思っていない。攻略者となる人が協力するべき人たちと対立関係なのはよろしくないからだ。これで少しは関係改善になればいいなと思った。
ゆっくりお待ちください




