196話 秘密の訓練②
チェリブスのナワバリがある北西に向かって進み始めた俺は冥霊剣からファウトルを出してあげた。冥霊剣の中から出てきたファウトルが口を開いた。
「健斗貴様、我が敵が味方か区別出来ない愚か者だとは考えていないだろうな」
「そんなことないよ。ファウトルは理知的だしちゃんと分別ある大人だと思ってるよ」
「なら何故ドルイドを前にした時我を冥霊剣の中に閉じ込めた? 分別ある大人ならあの場面で攻撃するとは思えないのだが?」
「一応デュラハンって怖いタイプのモンスターだからそんなデュラハンを連れてる俺も怖い奴って思われたく無かったし、あのドルイドを怖がらせそうだなって思ったからかな」
本当はファウトルが興奮してて優しいモンスターなのに誤って攻撃しないかどうか心配だったからなのは言わないようにした。ファウトルは俺が嘘をついていないか確かめるためか目を見つめてきた。しばしの間見つめられていたが視線を逸らすことなくファウトルの目を見つめていると俺の嘘を見抜けなかったファウトルは歩き始めた。と思ったが、すぐに振り返り俺が普段と違う反応をしていないかどうか確認してきた。油断も隙もあったものじゃないと思った。俺たちはしばらく黙ってチェリブスのナワバリに向かって歩いているとファウトルが言った。
「歩いてるだけじゃ時間がかかるな。走るか」
「分かった。俺は飛ぶけどファウトル追いつけるか?」
「モンスターの身体能力を舐めてもらっちゃ困るな」
「それじゃあ飛ぶけどあんまりスピード出し過ぎないでくれよ。見失ったりしたら嫌だし」
「逐一確認しながら走るから安心しろ」
随分と余裕そうだったので飛び始めるとファウトルは俺の少し前に来るまでスピードを上げて一定の距離を保ちながら一緒に移動してくれた。本当に飛ぶのと同じぐらいのスピードを出せるんだと少し感心した。全力で飛べばさすがに飛ぶ方が早いだろうが、モンスターから逃げる時は油断したらダメだなと思い知らされた。そんなことを思っていると、ファウトルが時々俺の位置を確認するように一瞬だけ振り返っていてちゃんと確認してくれてるんだと思っていると視界の奥に手前とは木々の色が違う場所が見えてきた。
「ファウトル、チェリブスのナワバリが見えてきたからちょっとペース落として」
「分かった。上からチェリブスは見えないか? あのドルイドの話通りだと結構デカいだろうから木の間とかから見えたりしないか?」
「ここからじゃ見えないよ。普通に樹高結構あるし密度もすごいからチェリブスが見えることはないと思う」
「そうかそれじゃあさっさと行くか」
俺たちはチェリブスのナワバリへと足を踏み入れた。俺は遠くまで見渡せるように飛びながら移動していると俺たちのすぐ横からガサと誰かが落ち葉を踏んだような音がした。音のした方を向いたが、そこには誰もいないためおかしいなと思ったが木の実か何かが落ちたのだろうと思い歩みを続けた。チェリブスのナワバリに入ってからしばらくすると、森の奥の方から鳥たちが移動してくるのに気がついた。チェリブスが動き始めたと確信した俺たちは鳥たちとは反対方向に向かって進んだ。森の奥まで進むと地面から微かな揺れを感じた。チェリブスが動いているのだと思った俺たちはそこから慎重に歩みを進めた。周囲の警戒をしながら進んでいると段々と揺れが大きくなってきてチェリブスが近いことをひしひしと感じた。そんな時視界の奥に薄茶色の何かが動いているのに気がついた。その何かは木と遜色ないほど大きく、それがチェリブスだと確信した。
「ファウトル、前にチェリブス発見」
「我が先に仕掛ける。健斗はチェリブスの背後をとれ」
そう指示を出された俺は素直に従い忘れられた記憶の断片から万物潰崩を取り出した。ファウトルがチェリブスに向かって攻撃を仕掛けようとしたその時、チェリブスが俺たちの方を見つめた。目は赤色に光っており明らかにヤバい感じがしたが、ファウトルは恐れることなく立ち向かった。俺はファウトルと対角線上に位置取りをするように動いた。チェリブスは近くにいたファウトルに向かって脚や角での攻撃を繰り出したが、ファウトルのスピードには追いつけないようでまともに攻撃は当たっていなかった。チェリブスがファウトルに気を取られているうちに後ろから万物潰崩で叩き潰そうとしたが、草食動物特有の視界の広さで俺はバレてしまい強烈な後ろ蹴りをくらいそうになったが、なんとかガードが間に合いダメージにはならなかった。
「その程度でやられるなよ!」
激励とも煽りとも捉えられるファウトルからの言葉に自分を奮い立たせた。アークシィリュームを発動させてどんな攻撃にも対処出来るようにしているとチェリブスは俺たちのことを正面に捉えられるように移動した。不意打ちは失敗したが、ここからは本気の俺たちと戦うことになるとチェリブスが少しかわいそうにも思えた。でも、そんなこと気にせず俺たちは空中からと地面からの二方向攻撃を行いチェリブスが対処出来ないようにしたが、チェリブスは野生の勘なのか俺の攻撃は的確に避けており決定打に欠ける状態だった。冥霊剣の攻撃はチェリブスに対して大きなダメージを与えられることは出来ないためどうしようかと思っているとファウトルがチェリブスに向かって冥霊剣を突きつけて言った。
「フォテスターテ・モルティス」
そう言ったファウトルは今までと比べ物にならないほどのオーラを見に纏いチェリブスに向かって攻撃を繰り出した。その攻撃一撃一撃がさっきの十倍以上の威力で、チェリブスはたちまちに膝をついた。そして、ファウトルは膝をついたチェリブスの首を落とし勝利を収めた。
「ドルイドの元へ戻るぞ」
「う、うん……」
あまりにも強いファウトルに驚いていると武帝が言った。
(こんな力を隠し持っているとは嬉しい誤算だな)
「デュラハンを舐めてもらっては困る。本気ならあの時の健斗も容易く倒せたであろうからな」
武帝の言葉にファウトルが反応した。いいぶりからしてまだ力を隠しているらしく、本気になったファウトルも見てみたいなと思った。ドルイドの元へと戻る道中ファウトルにさっきの力は何だったのか聞いた。あの力は殺した者の力を一時的に自分のものに出来る力らしい。他にも隠している力を教えてくれないか聞いたが、もったいぶって教えてくれなかった。そんな話をしているとドルイドの元へと戻ってきた。さすがにチェリブスの頭をそのまま持って行くのはよくないなと思いどうしようかと思っていると、ファウトルが勝手にチェリブスの頭をドルイドの元へと持って行ってしまった。一瞬目を離した隙にやられたと思ったが、起きてしまったことは仕方がないと謝ろうとした時ドルイドが言った。
「まさかこんなすぐにチェリブスを倒してくれるとは……本当にありがとうございます。約束通りファチェロフラウスをお渡ししますので少しお待ちください」
これで良かったんだと何だか納得がいかなかったが、まぁいいやと思っているとドルイドが木で出来た目と口の形に穴が空いているだけのお面を持って来た。これが本当に他人の顔になれるアイテムなのかと思っているとドルイドが俺にファチェロフラウスを手渡し言った。
「戦いで損傷した場合などは私の元に持って来ていただければ直して差し上げます。他のドルイドでも直せますが、おそらくやってくれないでしょうから再びお越しください」
「分かりました。ありがとうございます」
とりあえず受け取りこれからどうしようかとファウトルの方を見ると満足そうにしていた。表情は分からないが、腕を組み自慢げにしていたので満足しているのは間違いないと思った。
「それじゃあこれで失礼します」
ドルイド相手ならヤンウェイを使っても問題ないだろうと思ったが、不思議には思われるため離れた場所まで飛んでから帰った。家に帰りファウトルと共に冥霊剣をアルカディアリベルの中にしまい今日のところは休むことにした。寝る前にユースからメールが届いているのは確認したが、今日はもういいやと寝た。
次回もお楽しみに




