195話 秘密の訓練①
デュラハンもといファウトルと武帝の稽古を受けた翌日、今日は日曜日ということで自由に過ごせる。遊びに行ってもいいし家でゴロゴロするのもいいなと思っていると武帝の声が聞こえてきた。
(ファウトルがどこでもいいからダンジョンに行って実力を確かめたいんだと。龍王に教えてもらったテレポートの魔法で適当なダンジョン連れて行ってやってくれ)
ファウトルの実力を実戦で確かめるのはいいが、どこのダンジョンに行けばいいかなと悩んだ。逆さのダンジョンだと気持ち的に嫌だろうし、悪魔のダンジョンは前みたいに強いやついたら面倒だし、困難のダンジョンはヴェナトレスの調査がまだ行われてるかも知れないしなと思っているとトールさんたちは今どうしてるんだろうと気になりユースにその旨のメールを送った。
気を取り直してファウトルと行くダンジョンだが、鬱蒼のダンジョンがいいのではないかと思った。鬱蒼のダンジョンは一般的な洞窟タイプのダンジョンじゃなく、ダンジョンの中が森になっている珍しいダンジョンだからファウトルも気に入ってくれるだろうしなと思った。でも、ヴェナトレスの刺青の男がアルトロポーファティを放ったダンジョンでもあるから少し心配だし、見たこともないモンスターが出てきそうだなと思っていると武帝が言った。
(何をそんなに悩む必要があるんだ? 健斗ほどの実力なら今まで行ったダンジョンのどれでもいいだろ)
武帝に普通に言い返しそうになったが、側から見たら一人で喋っている変な奴なので言い返しはせず独り言のように呟いた。
「鬱蒼のダンジョンにでも行こっかなー」
そう呟いたはいいものの父さんと母さんにはどう説明しようかなと思っていた時自室のドアをノックされた。扉を開けたのは父さんだった。どうしたのかなと思っていると父さんが言った。
「母さんと買い物行くけど一緒に行くか?」
「俺はいいかな。二人で楽しんで来て」
「そうか。晩ご飯は買って帰るからちょっと遅くなるだろうけど、カップ麺とか食べるんじゃないぞ」
「はーい」
父さんはそう言い終えると母さんと買い物に出かけた。ちょうどいいタイミングで買い物に行ってくれたことに感謝しつつ俺は忘れられた記憶の断片を持ち鬱蒼のダンジョンにヤンウェイでテレポートした。前アルトロポーファティがいたところを思い浮かべてテレポートしたが、辺りは足元に草が生い茂っており植物の強さを実感した。木々は枯れてしまっていたためどうしようもなく切株だけになっていたが、ちゃんと管理されてるんだと思っていると武帝が言った。
(早く冥霊剣を取り出せファウトルがうるさくて仕方ない)
「エクシィミート」
冥霊剣を取り出すとファウトルがすぐに現れた。ファウトルは生い茂っている植物を見るのが久しぶりなのか辺りをキョロキョロして足元の草を手で触ったりした。かわいいところあるじゃんと思っているとファウトルが言った。
「久しぶりの植物はいいな。心が浄化される感じがする」
「デュラハンにも癒しは必要だったか」
「当たり前だ。我は人間と同等の知性を持つ。喜怒哀楽も感じるし、ヴェナトレスとやらの一部のイかれた人間より我の方が人間らしいとすら思う」
「確かにそうかもな。それじゃあ攻略しようか」
俺たちは鬱蒼のダンジョンの奥に向かって進み始めた。しばらくの間モンスターが出てくることなくファウトルと喋りながら森を歩いているだけだった。もうしばらくすればモンスターが出てくるだろうと思いながら歩いても一向にモンスターが出てくる様子は無かった。なんでモンスターが出てこないんだと思っているとファウトルが言った。
「もしかしてこのダンジョンにいるモンスターが我の存在を感知して出会さないように逃げてる?」
そんなわけないんじゃないかと言いたかったが、ファウトルと初めて会った時死の告げる者とか言ってたしモンスターも生き物だから死は怖いだろうから逃げてるんだろうなと思った。でも、それをそのまま伝えるとガッカリしたりするんじゃないだろうかと思っていると武帝が言った。
(そりゃそうだろ。格上のモンスターと楽しそうに喋ってる人間に挑むバカがどこにいるんだ。攻略者でも近づかねぇぞ)
「盲点……」
武帝の言葉はファウトルにも聞こえるんだと新たな知見を得た。アルカディアリベルの中に入ったことがあれば声が聞こえるのか、冥霊剣が俺の所有物として認識されているからファウトルにも声が聞こえているのかどれなんだろうと考えた。でも、答えは出ないだろうと考えるのをやめて今はファウトルのことを気にかけた。
「とりあえずファウトルは冥霊剣の中に戻ってもらって、モンスターが出てきたら一緒に戦う方針で」
「分かった」
ファウトルは素直に従い冥霊剣の中に戻った。これでモンスターが出てくると歩みを再開した。しばらく歩いていると視界の先に人型の何かがいた。その人型の何かは明らかに身長三メートルは超えていたため人間ではなかった。人間ではないのは分かったが、そのモンスターの名前や特徴は一切知らないため戦うかどうか悩んでいるとファウトルが冥霊剣の中から出て来て言った。
「やろう健斗。我らの連携を試すには絶好の相手だ」
「まぁいいけど、俺あのモンスターについて何も知らないけど大丈夫?」
「貴様ほどの実力を有している者が何を言うか。とりあえず今回は健斗も近接でやれ。我が武帝にしごかれどれだけ強くなったのか見せてやる」
「それじゃあやろうか」
俺とファウトルはその人型のモンスターに向かって歩みを進めた。ハッキリとそのモンスターがどんな外見をしているのか分かるぐらいまで近づいた。そのモンスターは植物そのもののような外見をしており木で体が形成されて、所々に草花が咲いていた。小鳥やリスたちと何かを話しているようでゲームなどに登場するドルイドのような雰囲気だった。さすがにこいつらは人間に害なすモンスターではないと判断した俺はファウトルが手を出す前に強制的に冥霊剣の中に戻した。別のモンスターを見つけるまでファウトルには耐えてもらうしかないと移動しようとした時、背後から声が聞こえてきた。
「心優しい人間もいるのだな」
まさかドルイドのようなあいつが言ったのかと驚き振り返ると、肩や手のひらに小鳥を乗せた状態の木で出来た大男がいた。顔つきと声で男と判断したがそもそも性別があるのかと疑問に思っているとその大男が言った。
「貴方の思ってる通り私はドルイドであり性別はありません。このような見た目にしているのは少しでも人間が私の姿を見て恐れてもらうためです。それより貴方たちモンスターを倒しに来たのでしょう? それなら私の願いを聞いてくれませんか? もちろん報酬は払います。そちらの剣の中にいる方もそれなら納得してくれるでしょう?」
「わ、分かりました。で、その願いとは?」
願いと報酬も気になるがなんで俺の心の中が読めているのかとファウトルのことを把握出来てるのか気になった。すると、ドルイドが言った。
「私は植物を通して相手の考えていることが分かるのです。本題に戻りまして、私の願いと言うのはこのダンジョンの最奥の地を支配してるチェリブスという全長十メートルは無いほどのとても大きな鹿のようなモンスターです。性格は凶暴でモンスターのみならず野生動物も殺され植物にも多大な被害が出ているのです。そこで貴方たちにチェリブスを倒していただきたいのです。報酬はファチェロフラウスという私が作った顔を他人に偽装出来る仮面なんてどうでしょう」
「任せてください。そのチェリブスはいったいどこに?」
「ここから北西に進み植生が変わった場所からがチェリブスのナワバリです。気をつけてください」
「それでは行ってきます」
顔を他人に偽装出来る仮面という喉から手が出るほど欲しいアイテムを貰えるとなれば断ることなんて出来まい。俺はすぐにチェリブスがいる北西に向かった。
次回もお楽しみに




