191話 早めに
インビーディアが俺たちの方を向いた瞬間背筋がゾクゾクとなるのを感じた。モンスターとは異なる感覚で体感したことはないが、幽霊とかそっち系に出会した時のような感じがした。インビーディアの亡くなった人の体を乗っ取るという生態からもそうだろうなと思っているとインビーディアが再び首をカクカクと動かし始めた。さっきも同じように動いていたが、今回は顔がこちらに向いており血だらけの女性の人相が確認出来る状態であるため余計に悍ましかった。そんなことを思っているとインビーディアが髪の毛を俺たちに向かって伸ばしてきた。俺は咄嗟に火魔法で髪の毛を燃やし怪我はしなかったが、インビーディアは燃やされた髪の毛を即座に生やして攻撃を続けた。さすがに髪の毛を燃やし続けるのは現実的じゃないとプライシディウムで道全体を塞いだ。だが、髪の毛は天井や地面とプライシディウムの隙間を難なく通り抜け俺たちの方までやって来ていた。その髪の毛を透たちが燃やしてくれている間にヌラ・レフラリフレクティブを発動させて俺たちが逃げたように思わせることにした。
「ヌラ・レフラリフレクティブで不意打ちするから黙ってね」
俺はみんなに指示を出した。そして少し時間を置いてからプライシディウムを消した。インビーディアはしばらく俺たちの方を見つめながら頭をカクカク動かしていたが、俺たちがいなくなったと分かると顔を正面に向けた。それを確認した俺はみんなにゆっくりと進むように合図した。ゆっくりと音を立てないようにインビーディアの背後まで移動したその時、声が聞こえて来た。
「許さない……許さない……許さない……」
その声に俺たちは顔を見合わせた。インビーディアが喋っているのは分かったが、どういうわけで許さないとずっと繰り返してるのかと疑問に思った。でも、相手はモンスターである以上会話なんて出来ないだろうし考えるだけ無駄かと思っていると、透がスマホでメモを見せて来た。
『勝者の帳簿に記録されたらインビーディアになる前の人のことも分かるんじゃない?』
俺たちは確かにと頷きインビーディアを倒すことにした。全員が準備を終えたのを確認したユースが指で三秒カウントした。俺たちは全員で一斉に攻撃し少しでもインビーディアが苦しまないようにした。背後からの攻撃で防ぐ隙は無かったためインビーディアは苦しむことなく即死しただろう。肝心なのは勝者の帳簿に記録されているかということだ。透が勝者の帳簿を確認するとそこに名前が記録されており早速呼び出した。
「ミシィカキィヤ」
獣人語だとそんな名前になるんだと思っているとインビーディアの思念体が現れた。普通のモンスターとしていた時より遥かに落ち着いており血なども見えず話さそうだなと思った。だが、誰が質問するかが問題だなと思っていると透が質問した。
「あなたはどうして亡くなってしまったんですか?」
ストレートに聞くんだと驚いているとその女性が答えた。
「殺されたの……仲間だと思ってた人たちに……」
「その人たちとはどのぐらいの付き合いだったんですか?」
「あなたたちみたいに心を許すほどでは無かったけど、数ヶ月一緒にダンジョンを攻略した仲だったのに……お互いに助け合って攻略出来る良いパーティだと思ってたのに! アイツら、私がアイテム見つけた瞬間目の色が変わったの。後衛だった私にわざとモンスターの攻撃が来るようにしたり、防げる攻撃を回避したりして何度も死にかけた。そしてついにはモンスターの攻撃をくらって助けてって言ったのに……傷が開くから人を呼んでくるって言ってそのままここを離れて私が衰弱死するまで誰一人帰って来なかったわ……だから、私はこうやってインビーディアに体を乗っ取られてモンスターになっちゃったの。でも、アイツらに復讐出来るならモンスターになったって構わなかった。アイツらが私の死体からアイテムを持ち去ろうとした時、インビーディアがアイツらを殺してくれて本当に幸せだった。復讐は何も生まないって言うけど、あの時ばかりはそんなことどうでもよかった。まだ若いあなたたちにこんな話してごめんなさいね。それより私死んだはずなのにどうしてこんなことになってるの?」
透が簡単に勝者の帳簿について説明すると女性が続けた。
「そうなのね。それじゃあまだもう少しお世話になるって感じかしら? 人を殺した罪滅ぼしじゃないけど、あなたたちの役に立てるように頑張るわ」
「頼りにしてます」
透がそう言うと女性を帳簿に戻した。人間の闇と言うか金、アイテムに目が眩んだ攻略者の本性が見える出来事だった。あの女性がインビーディアに体を乗っ取られなかったらその攻略者たちは今ものうのうと生きていたかも知れないし、今の社会にもそんな攻略者がいるんじゃないかと思うと人間の欲深さと罪人が生きていることに対する怒りが湧き上がって来た。でも、事実確認も出来ないため罪人が野放しにされるのも仕方がないのかもなと思った。とは言え出来ることなら罪人は全員司法で裁いてほしいが無理なんだろうなと思っているとユースが風魔法で自分の体を浮かしながら休憩をしていた。それを見た勝たちも各々休憩しながら持って来ていたナッツやドライフルーツ、ジャーキーなどを食べていた。それを見て俺も持って来ていた携行食を食べてゆっくりした。俺たちの所までモンスターがやって来ることもなく休憩をしているとユースが言った。
「ここから先進んでも帰るの面倒だし休憩施設に戻ろっか」
俺はスマホで日時を確認すると五日目の午後三時過ぎだった。まだ時間に余裕はあるとは言え手練れのダンジョンは全方位に道があるため先に進んで迷い迷惑をかけるぐらいなら、帰り道が分かっている今のうちに戻っておこうという考えなんだろうなと理解し俺は賛成した。すると、勝たちも賛成してくれ俺たちは休憩施設へと戻った。休憩施設までの帰り道にモンスターが出て来たりしたが、天災級の弱いモンスターであったため何の苦戦もすることなく休憩施設に戻って来た。俺たちはとりあえず疲れを癒そうと残り時間は好きに過ごすことにした。俺は久しぶりに湯船に浸かろうと、休憩施設のお風呂にお湯を張った。試しに火と水の混成魔法で自分のちょうどいい温度に出来るかなとやってみたところ見事成功しのんびりと湯船を楽しんだ。俺が湯船で疲れを癒していると浴場の外から勝の声がした。
「俺も入りたいから変わってくれよー」
「もう出るー」
湯船から上がり風魔法で水気を飛ばした俺は勝も湯船に浸かりたいかなと思いパンツだけを履いて聞いた。
「勝も湯船浸かる?」
「溜めてるなら浸かる」
「それじゃあ風呂掃除してね」
「ういー」
そんな会話をしていると透が言った。
「僕も入りたいから掃除は僕がやるよ」
「オッケー」
勝は掃除をしなくてよくなり少しだけ嬉しそうだった。そんな他愛もない会話をしてその日は過ぎていった。
次回もお楽しみに




