190話 手練れのダンジョン⑤
透が勝者の帳簿を見て言った言葉に俺はどうなるのか気になった。勝者の帳簿に名前が記録されているなら呼び出せるはずだが、それが二つ同時となると変わって来るのではないかと思った。魔法を二つ同時に使うのとアイテムを使うのとでは全く異なるため一概にこうとは言えないだろうが、何か制約があったりするのではないかと思った。だが、よくよく考えてみれば魔法を二つ同時に使ったことはあるのにアイテムを二つ同時には使ったことがないため予想も出来ないことが起こったりするのではないかと感じた。でも、勝者の帳簿は一つのアイテムだから大丈夫なのかなと思っていると透が言った。
「次モンスターと出会したらカニスの二体呼び出してみたいから倒すの待ってね」
どうなるのだろうとそわそわしているとそれに気がついた勝が問うてきた。
「どうしたんだ? なんかそわそわしてるけど」
「勝者の帳簿で二体同時に呼び出したらどうなっちゃうのかなって思って。魔法を二つ同時に使うのとは訳が違うからちょっと心配なんだよ。まぁそういうアイテムだから大丈夫だろうけど」
「まぁ確かにどうなるのかは分かんないし心配だけど、そこまで心配しなくても大丈夫だろ。一体しか呼び出せないなんてことないだろうし。もしかしたら何か条件があって呼び出せないとかはあったとしても爆発したりしないだろうし大丈夫だって」
「そうだな」
俺たちがそんな話をしていると透が言った。
「そもそも健ちゃんが心配することじゃないし大丈夫だよ。もし何か反動があったとしても健ちゃんが治してくれるでしょ」
「そりゃそうだけどさ」
そんな話をしながら歩いていると結構な大きさの池に着いた。こんな場所に水源があるんだと驚いているとその池の中央にワニの頭のようなものが見えた。まさかクロコディウスかと思っていると透がカニスを呼び出すために勝者の帳簿を見ながら言った。
「スキーリ」
勝者の帳簿からカニスの思念体が現れた。一度発しただけでは二体出て来なかったのでもう一回名前を呼ぶのかなと考えているともう一度スキーリと名前を呼んだ。すると、もう一体のカニスの思念体が現れた。
「おぉ! いけた」
透は嬉しそうに言ったが、カニスとしてはさっき殺されたばっかりなので復讐のために襲ってこないか心配だったが、二体のカニスは嬉しそうに体を寄せ合ったり匂いを嗅いだりお尻を高く上げており普通の犬と同じようにしていた。俺たちのことは覚えていないのかと思っていると二体のカニスが俺たちの存在に気がついた。一瞬構えたが、カニスたちは俺たちに殺されたという記憶自体がさっぱり抜け落ちているような感じだった。もしかしたら勝者の帳簿から呼び出されたものは使用者に殺された記憶や不都合な記憶は抹消された状態になっており使用者に従うようになっているのかなと思うとアイテムの力の恐ろしさに恐怖した。一人で勝手にそんなこと思っているとユースが池に雷魔法を撃った。すると、池からクロコディウスがこちらに向かって来た。ユースが透に聞いた。
「カニスの思念体に戦わせる?」
「そうだね。戦わせたらどうなるのか気になるし、もし負けちゃった場合でも知識にはなるからね」
そんな会話をしているとクロコディウスが池から姿を現した。透はカニスたちに戦わせるためにエピーテシィと指示を出した。すると、カニスたちは陸地に上がって来たクロコディウスに噛みついた。クロコディウスは二体のカニスを相手に翻弄されていたが、尻尾を大きく振り回して攻撃を繰り出した。思念体とは言え相手に攻撃出来るため実体がありクロコディウスの尻尾の攻撃をくらったカニスたちは痛そうにしていた。エピーテシィは攻撃をさせる指示であるため回避はしないのかなと思っていると透がエレフェリアと自由に行動させる指示を出した。カニスたちは透の指示に従い一度距離をとってから同時に攻めた。カニスたちは噛みついたり引っ掻いたりしていたが、クロコディウスの外皮はかなり硬いため有効打にはなっていなかった。カニスたちとクロコディウスの戦闘を見ながらユースが言った。
「天災級と破滅級でここまで差が出るんだね」
「クロコディウスって破滅級の中ではそこまで強くないけど、それは俺たちが魔法を使えるからだもんな。あと普通にアイテムで倒すから強さが分からないんだろうな」
そんな話をしているとカニスたちはクロコディウスに自分たちの攻撃が効いていないのを理解したのか攻撃を回避するのに専念していた。その様子を見ていた勝が言った。
「カニスじゃ勝てなさそうだしもう倒さねぇか?」
俺たちはそうだなとクロコディウスを倒した。カニスたちは俺たちがあっさりとクロコディウスを倒したのに驚き口が開いたままだった。間抜け面ではないが面白い反応にクスッと笑ってしまい一体のカニスに文句を言うような声で吠えられた。その反応がより俺たちの笑いを誘いみんなして笑っていた。透はカニスたちが機嫌を損ねる前に帳簿に戻し俺たちは攻略を続けた。しばらく歩いていると誰かのお腹が鳴った。それを聞いたユースが言った。
「次のモンスター倒したらご飯と休憩とろっか」
ユースの提案に賛成し俺たちは次のモンスターを探した。少し歩いていると開けた空間があることに気がついた。ゲームで言うところのボス部屋みたいな感じだなと思っているとユースが足を止めた。俺たちは何がいるんだと思ってユースの前を見てみると、そこには人間の女性のような形をした何かがいた。長い髪の毛はボサボサで首から上が小刻みにカクカクと動いているのに首から下は座禅をしているような体制で何も動いていないのに不気味さを覚えた。俺たちがユースにあのモンスターは何かと問うとユースが答えた。
「おそらくインビーディアね。亡くなった人の体を乗っ取るモンスターよ。亡くなった人の後悔や念が強ければ強いほどインビーディアも強くなるから気をつけてね。ここで無念にも亡くなった攻略者の体を乗っ取ってるんでしょうけど、ここからじゃどのぐらい強いか分からないからカニス呼んでくれない?」
「分かった。スキーリ。エレフェリア」
カニスが二体現れると透は自由に戦うように指示を出した。カニスたちはインビーディアに向かって行ったが、インビーディアは動くことなく髪の毛を自在に操りカニスたちの首に髪の毛を刺した。カニスたちは煙のように消えてしまい、それが思念体としても死んでしまったことを意味しているのは明白だった。カニスたちが瞬殺されたことに驚いたのと同時にアイツがかなりの強さを有しているのが分かり少し恐怖した。すると、インビーディアのカクカクと動いていた首から上が動きを止めたと思ったその瞬間顔が俺たちの方に向いた。初めて背筋がゾクゾクとなるのを感じた。
次回もお楽しみに




