189話 手練れのダンジョン④
春奈がデチペルを殺してくれたおかげで徐々に幻覚作用が治ってきた俺たちは自分たちがいる場所に驚いた。なんと休憩施設のすぐ隣だったのだ。こんな場所にデチペルがいたというのにも驚きだったが、誰かに幻覚を見ている最中の姿を見られたんじゃないかと思うと恥ずかしくて仕方がなかった。勝たちも同じように思っていたのか少し顔が赤くなっていたが、ユースは違った。すぐに休憩施設にいる先生にデチペルの報告に行った。デチペルは殺したことと幻覚作用を引き起こす匂いは風で飛ばしたことを報告してくれている間、俺たちは特に何をするでもなく壁を見つめているとデチペルの姿がはっきりと見えるようになった。デチペルの大きさは手のひらサイズだったが、触手が生えておりタコに似たフォルムをしていた。だがタコのように見慣れた外見ではなく、触手の大きさや長さが不揃いで目はタコの胴体部分の最上部についており、体には石や砂が付着してより汚く見えた。そんなデチペルの外見を見ているとユースが報告から戻ってきた。
「先生たちに報告もしてきたし気を取り直して攻略しましょうか」
いつもと変わらぬユースに俺たちは素直に従った。気を取り直して南の道へと歩みを進めた。今回はデチペルに幻覚を見せられていないよなと疑心暗鬼になったが、デチペルはさっき春奈が殺したため大丈夫かと思って特に何も言わないようにした。俺が何か言うことでみんなも疑心暗鬼になってしまっては攻略どころではないからだ。そんなことを思いながら道を進んでいるとデチペルに幻覚を見せられていた時とは違い、俺たちの前にオーガが現れた。俺たちは自然と戦闘体制に入り戦闘を始めた。勝とユースが前衛としてオーガを攻撃してくれている間、俺たち後衛はオーガにだけ攻撃を当てられる隙を探していた。勝がオーガを凍らせてくれたりしたら簡単なんだけどなと思っていると、ユースが帯電槌をオーガの頭に叩き込んだ。オーガは電気と槌で叩かれた衝撃で意識を失った。ユースは躊躇することなく雷王の剣でオーガの首を落とした。
「幻覚見せられてた状態でこっちの道まで来てなくて良かったわね。あの状態のままだったらモンスターの姿は見えないのに攻撃だけされてるような状態だったでしょうし。休憩施設の近くで逆に助かったわ」
ユースの発言に確かにそうだと頷いた。再び歩みを進めてしばらくすると俺たちの前に可愛らしくも大きい猫のようなモンスターが現れた。その外見はそのまま家猫を大きくしたような感じで可愛らしさに気を取られているとユースが言った。
「分かってると思うけどアレモンスターだからね。名前はフェリネって言って大体は家猫と一緒。攻略者に甘えてモンスターを狩ってもらっているところを背後から騙し討ちなんてことする猫の皮を被ったバケモノよ。強さはそこまでじゃないから容赦なしで戦ってね」
俺たちはユースの言葉を聞いて戦闘体制に入るとフェリネはさっきまでの可愛らしい表情から一転、猛獣のような鋭い目つきに変わった。これがフェリネの本性かと思っているとフェリネが爪を剥き出しにして俺たちに飛び掛かってきた。透が空掴の遊び人で掴むと、フェリネは離せと言わんばかりに体を動かして声を荒げた。俺はフェリネが苦しまないように爆発魔法で一撃で葬った。ダンジョンの中で自分を守るために進化するのではなく、攻略者に守ってもらうためそして、その攻略者を食うために見た目は進化させないという選択をしたフェリネは、寄生生物としては正解だったのだろうなと思っていると春奈が言った。
「他にもフェリネみたいに攻略者を騙すモンスターっているの?」
春奈の質問にユースが答えた。
「他にもいるけどフェリネほど強くて狡猾なモンスターはいないかな。フェリネもたまたま強い攻略者が生きて帰って来たから情報が広まっただけで、運が悪かったら私たちもヤバかったかも知れないモンスターだよ」
フェリネってそんなに厄介なモンスターなんだと思っていると研鑽のダンジョンにもファルスムフェリスって言う化け猫みたいなモンスターがいたけど、猫系のモンスターは性格の悪いやつしかいないのかと思った。そんな時透が時間を確認して言った。
「もうそろそろ攻略授業五日目に差し掛かるから把握しておいてね」
まだ時間に余裕はあるため先へと進んだ。しばらく歩いているとデチペルに幻覚を見せられた時のような下りの道が現れた。俺たちはデチペルがいるんじゃないかと辺りを見渡したが、それらしいものはいなかったが警戒を続けていると春奈が精霊水晶で水の精霊を生み出した。
「この先の道にモンスターがいないかどうか調べて来て。デチペルってモンスターだったら帰って来た時に分かりやすいように合図して。普通のモンスターだったら帰って来るだけでいいから。行って」
春奈がそう指示を出すと水の精霊は下りの道を進んだ。俺たちは水の精霊が帰って来るまでの間周囲を警戒していると水の精霊が帰って来た。分かりやすい合図はしておらずただ春奈の元に帰って来たのを確認した俺たちは下りの道を進むことにした。進んでから少しすると俺たちの耳にイビキのような音が聞こえて来た。何の音だと思っているとユースが言った。
「結構大きいモンスターだね。みんな気をつけて」
ユースの言葉に俺たちは警戒しながらゆっくり進むとイビキのような音がどんどんと大きく近くに感じれた。この先にモンスターがいるんだと思っていると、春奈が言った。
「さっきのフェリネみたいに大きな犬みたいなモンスターが見えるんだけど……」
「頭の数は?」
「一つだけ」
「なら良かったわ。それはカニスって言う犬のようなモンスターなんだけど、頭が二つとか三つだったらオルトロスとかケルベロスだったから良かったわね」
まぁ神話級のモンスターよりはマシかと思って聞いていたが、出来ることなら戦うことなく安全に進めるのが一番だと改めて思った。
「作戦はどうする?」
透がそう問うとユースが作戦を言った。
「勝が凍界無別でカニスを凍らせてそこを魔法で一斉に攻撃するでいいと思う。寝てるうちにやっちゃお」
というわけで勝が凍界無別をカニスの大きさに合わせて地面に刺し準備が出来ると、俺たちも魔法の用意を完了させ合図した。勝が凍界無別でカニスを凍らせたところに俺たちは魔法を撃ち込んだ。自分の得意な魔法を撃ったためカニスは痛みを感じるより先に逝っただろうと思っていたその時、氷がバリバリと割れる音がした。あの量の魔法を撃たれて生きているのかと思っていると、道の奥から足元だけ凍っていたであろうカニスが現れた。手前で寝ていたカニスとは別個体だと瞬時に理解した俺たちはすぐに魔法を撃った。別個体のカニスは俺たちの魔法を見るや否や回避に専念し魔法を避けた。直線的に魔法を撃ったのが間違いだったと今度は道全体を埋め尽くすように撃とうとしたその時、別個体のカニスは手前にいたカニスの亡骸を咥えて後退りしていた。その光景にくるものがあった俺は目を背けそうになったが、相手はモンスターだと思い直視すると透がフオフェンを撃ち別個体のカニスも倒した。俺は大きく息を吐き気持ちを整理していると透が勝者の帳簿を見て言った。
「カニスの名前が二つあるっぽいんだけどこれって同時に呼び出せるのかな?」
その言葉に俺はどうなんだろうと知的探究心が勝ってしまった。




