172話 帰国
ヴェナトレスの構成員と刺青の男を捕らえられなかった俺たちはマイケルとジョンから送られた言葉で気持ちを切り替えて日本に帰国しようと飛行機に乗り込んだ。行きと同様ファーストクラスに乗せてもらえることに感謝しつつ優雅な空の旅を楽しんでいた時、隣の席に座っていたトールさんが俺にメモを渡して来た。そこにはこう書かれていた。
『掘り返すようで悪いんだが、もし小出くんがあの刺青の男とヴェナトレスの構成員たちが逃げられることを知っていたら事前に潜入した時自ら捕まるという選択はしたかな? あの時はみんなを守るため逃げる選択肢を取ったが、私たちだけだった場合捕まるのもありかなと思ったんだが小出くんはどう思う?』
トールさんからの質問に俺は自分なりの意見を書いて渡した。相手の戦力、アイテムがどのぐらい強いのか分からない状況なので自分を囮にするようなことはしないこととヤンウェイで様子見に行けば良かったことを書いた。少しするとトールさんが再びメモを渡して来た。そこにはこう書かれていた。
『小出くんだけが出来るチート戦術だね。正式に攻略者になったらヴェナトレスを捕まえるために利用させてもらうことになるだろうけどいいかな?』
もちろんですと書いてメモを渡した。するとトールさんは頼りにしているよと言わんばかりの顔で俺を見つめてきて言った。
「ありがとう。これからも頼りにしてるよ」
トールさんがそう小声で言うと、トールさんは疲労が溜まっていたのか目を瞑り寝始めた。メアリーさんたちも寝ているのか周りからは寝息が聞こえてくるばかりだった。俺も寝ようかなと思っていたその時じいちゃんの声がした。
(健ちゃんやあのヴェナトレスとか言う組織の刺青の男が持っていた転移のアイテム、儂見たことある気がするんじゃがどうも名前までは思い出せん。じゃがな、あの転移のアイテムは一つが複数個に分かれて別の地点に転移出来るタイプじゃったと記憶しておる。もしかしたら困難のダンジョンのように地下深くに同じような施設を複数持っているかも知れん。なるべく早く行動に移さなければ最悪の事態になる可能性もある。健ちゃんからそれとなくトールとやらにそのことを伝えてくれんか? 儂にはこのぐらいしか出来んから頼んだぞ)
じいちゃんに心の中で感謝を伝えつつトールさんにどう伝えるのが一番良いのかなと考えメモにそのことを書いてみたが、いまいち上手く書けず何度かの失敗の後ようやく満足のいく仕上がりになった。トールさんが起きたらメモを渡そうと決めた。トールさんとは言え疲れているだろうからしばらく起きないだろうなと思い俺も寝ることにした。
目を覚ました俺はスマホで時間を確認した。アメリカを出発してからもう六時間ほど経っていた。大分寝たなと伸びをし、トールさんにメモを渡そうと様子を伺った。トールさんはかなり疲れているのかまだ寝ているようだった。トールさんが起きるまでの間何をしていようかなと思っていると行きと同様にユースが俺の座席にやって来た。
「お邪魔しますね〜」
一切悪びれる様子もなくぬるっと俺の座席にやって来たユースは俺の膝の上に座った。大きい赤ちゃんや甘えん坊な大型犬のようだと思いながらもこれだけ心を許して甘えてくれるのは嬉しいなと思っているとユースがトールさんに渡すメモを読んでいることに気がついた。一瞬マズイと思ったが、じいちゃんから聞いた内容を俺の考察のように書いているだけであるため隠すようなことではないと心を落ち着かせた。すると、メモを読み終えたユースが言った。
「健斗の考察通りなら困難のダンジョンにあった施設と同じぐらいのが他にもある可能性があるってこと? あんなに大きな施設そうそう作れないと思うけど」
「でも、刺青の男が言ってただろ例の計画って。その計画がどのぐらい進んでるのか分からないけど、刺青の男は結構思わせぶりな言い方してたから可能性として別の施設もあるんじゃないかなって。それに、刺青の男の言葉がハッタリだとしても行動しないよりは断然いいだろうしね」
「小出くんはヴェナトレスの規模はどのぐらいだと考える?」
ユースと話をしているとトールさんが目を覚まし俺に問うてきた。じいちゃんの話が事実なら困難のダンジョンにあった施設が複数ある可能性が高いことから二倍から三倍以上の構成員と施設があるだろうが、そんなこと言っても信じてもらえないと思い控えめに言うことにした。
「困難のダンジョンにあった施設がもう一つあるかぐらいだと思います。刺青の男が例の計画とか言ってたんでそのぐらいあるのかなって」
「まぁそうだろうね。ハッタリで言ったのかも知れないけど、あの施設にいた人たちの中で一番地位が高いのはあの刺青の男だろうしハッタリじゃない可能性も十分にある。出来ることならハッタリであって欲しいんだけどなぁ」
そう言うトールさんに俺はメモを渡した。口頭で言っても支障は出ないだろうが、せっかく書いたのだからと渡すとトールさんはため息をつくように大きく息を吐いた。
「世界が平和であればいいのになぁ……」
トールさんの本心から漏れたその言葉に俺たちは何も言えず黙っていると俺の膝の上にいるユースが言った。
「でも、あの施設はもう使えないんだし結構な痛手じゃない?」
「確かにな。猶予は出来たと考えるか」
しばらくそんな話をしているといつの間にかもう日本に着こうとしていた。ユースは自分の座席に戻り着陸のアナウンスを待ちながらゆっくりしているとアナウンスが流れ後は着陸を待つだけとなった。無事飛行機が羽田空港に着陸し空港に向かうとトールさんが言った。
「少し待っててくれ」
トールさんはその一言だけ俺たちに言うと少し離れた場所で電話をしていた。施設の説明を求められているのかなと思っていると電話を終えたトールさんが言った。
「申し訳ないんだが、アメリカに戻らなくちゃならないことになった」
トールさんの言葉にどういうことかと説明を求めるとトールさんが話してくれた。
「攻略者協会の調査員たちが施設の調査をしていた時、見ず知らずの男が突然施設に現れ施設を爆破させて姿をくらましたそうなんだ……残ってる証拠は爆破以前に回収した物と写真しかほとんど残っていないらしいだ。それで、現場にいた私とメアリーに話を聞きたいから戻って来てくれとのことだ。小出くんたちのご両親に今回のことを話そうと思ってたんだが、いつ帰れるか分からないからまた今度ということでもいいかな?」
俺たちは別に問題ないと了承すると、トールさんはまたアメリカに戻るのかと面倒くさそうにしていた。俺はさすがにまた飛行機に乗るのはかわいそうだと思い誰も俺たちの方を見ていないことを確認してロサンゼルス国際空港にヤンウェイを出現させた。
「これで戻ってください。親には今回のことバレてないでしょうし何とか話しておきますから」
「ありがとう。本当に助かるよ。それじゃあ行ってくるよ。ユースのこと頼むね。相川くんたちもお願いね」
俺たちはトールさんとはメアリーさんのことを見送った。そして俺たちは何事もなかったかのように平然と空港を後にした。拓郎さんと未来さんとは空港で別れ、行きと同様に空港から駅まではユース家の車で送ってもらった。帰りの新幹線に乗り母さんにもうそろそろ帰ると連絡をして、色んなことがあったなと思い返しているとあっという間に着き俺たちは自宅へと送り届けられた。
「ただいまー」
「おかえり大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「大丈夫だよ。それより疲れたから寝る。晩ご飯出来たら起こして」
「二週間ぶりの再会なんだからもうちょっとリアクション欲しいんだけど」
そう言う母さんは不満そうにしていた。俺は母さんを抱きしめて自室に戻った。久しぶりの自室とベッドに一瞬で眠ってしまった。言っていた通り晩ご飯の時間に母さんに起こしてもらいリビングに向かうと父さんがいた。
「おかえり。大丈夫だったか?」
「ただいま。そりゃもちろん。トールさんたちもいたんだから大丈夫に決まってるでしょ」
「そうだな。アメリカでの話たくさん聞かせてくれよ」
「任せてよ」
食卓に着き久しぶりの和食と母さんの手料理に舌鼓を打ちつつ父さんと母さんに何があったかを話した。ヴェナトレスの件は話さずお土産を渡したりして何事もなかったかのように演じた。
次回もお楽しみに




