171話 逃亡
「お前が来るのは分かってたぜぇ。よくもまぁあんなバレバレな侵入してくれたよなぁ、小出健斗くん」
施設の奥から聞こえてくるその声は刺青の男のものだった。何故俺たちが来るのが分かっていたのか、何故メアリーさんのアイテムによる潜入がバレたのかは疑問だったが、それ以上にここにいた構成員たちがどこに行ったのかの方が謎だった。すると刺青の男は話し始めた。
「お前たちの頭の中はここにいた研究員はどこに行ったのかで埋め尽くされてるだろうから教えてやるよ。構成員たちが消えたトリックは、この世に二つとない空間転移のアイテムによって避難させたのさ。なのに何故お前たちはここから誰にもバレずに姿を消せたんだ? なぁ教えてくれよ。いったいどんなトリックを使ったんだ?」
しばらくの静寂が流れた後刺青の男が続けた。
「俺たちは話してやったのにそっちは話してくれないなんて酷いなぁ」
お前が勝手に話しただけなのになんで手の内を明かさなくちゃいけないんだと言ってやりたかったが、そんなことを言えば引き出せる情報も引き出せなくなると我慢した。
「まぁいいや。どうせお前たちが俺たちの尻尾を掴まえることが出来るのなんて、例の計画が始まったその時だけなんだからな」
「その例の計画は何なんだ。お前たちは何をしようとしてる!」
その言葉聞き捨てならなかったのかトールさんが叫んだ。すると、刺青の男は冷静に答えた。
「まぁまぁそう熱くなるなって。お楽しみは最後まで取っておいてこそだろ? 今言ったんじゃ勿体無い。お前たちはそのお楽しみを一番最初に特等席で見ることが出来るんだから楽しみにしておいてくれよ。それじゃあ俺たちはまたどこかに身を潜めさせてもらうから、ここでのパーティーを楽しんで行ってくれよ」
そう言うと刺青の男は爆発魔法で培養液ポッドの中にいたモンスターたちを開け放った。俺たちはモンスターたちのことは一切気にせず刺青の男に向かって全速力で向かった。だが、刺青の男は右手に持っていた手のひらサイズの空間転移のアイテムを起動させ俺たちの前から姿を消した。
「クソ野郎が!」
トールさんは感情をあらわにして激怒した。俺たちも一番情報を持っていそうな刺青の男を捕らえられなかったことを深く後悔した。でも、今はそんなことを考えている場合ではない。この施設で研究していたモンスターたちが俺たちを標的に見据えていたのだ。その瞬間さっきまで感情をあらわにしていたトールさんが冷静になり言った。
「施設の物はなるべく破壊しないようにモンスターのみ倒す。これが鉄則だ。もし壊してしまいそうなら施設の外で倒すように。透くんは空掴の遊び人で施設を破壊しそうなモンスターを優先的に他のみんなは施設を守りながら戦闘を」
俺たちはトールさんの指示に従い施設の物をなるべく壊さず、汚さずモンスターを倒していった。機械だらけの近代的な場所ではアルトロポーファティは大きくなることが出来ず色んなものを破壊されないため他のモンスターから順に倒し養分を吸われないようにした。結果的に施設は培養液ポッド以外はほとんど損傷なく事態を収束させることに成功した。だが、ヴェナトレスを逃してしまった事実は変わらず悔しい思いをしているとメアリーさんが言った。
「後は他の人たちに任せて私たちは帰りましょう。やれることはやったし小出くんたちのご両親にも何があったのか話さなくちゃいけないでしょうし」
「……そうだな、小出くんたちに被害が出なかっただけ幸運だと思おう。話をすることは私からご両親方に連絡するからみんなは心配しなくて大丈夫だよ」
こんなに落ち込んでるトールさんを見るのは小柄な悪魔にやられた時以来だった。世界最強の攻略者と言われているトールさんも普通の人間なんだから失敗の一つや二つするのは当たり前だと励ましたりした方がいいのかなと思ったが、今は何も話しかけない方がいいと空気感で分かっていたため何も言わないようにした。しばらく重たい空気が流れているとトールさんはあの通信可能な水晶を取り出し文章を送っているようだった。おそらくヴェナトレスに逃げられたことと施設はほとんど傷ついていないことなどの業務連絡だと思われる。トールさんでもそのぐらいしかやることが無く俺たちはただ突っ立っているだけだった。俺たちがもう少し上手く立ち回っていたらヴェナトレスの構成員を何人か捕えることが出来たかも知れないし、もっとたくさんの証拠と情報を掴めたかも知れないと悔しい思いをしているとトールさんが言った。
「……帰ろうか日本に」
俺たちはトールさんの言葉に頷きホテルへと戻った。道中ヴェナトレスを捕らえに来た人たちに説明を求められたが申し訳ないと謝ってから報告を行うトールさんの背中はいつもより小さく落ち込んでいるのが一目で分かった。もうちょっと上手くやれてたら、ヤンウェイで奇襲してたらと考えたが、過ぎてしまったことは変わらないと諦め切れないながらも諦めよう考えないようにしようと頑張った。そこから俺たちはしばらくの間楽しく会話することはなく、みんな自責の念に押し潰されそうになっている感じがした。この状況を一瞬で変えられる人がいればなと思いながら日本に帰る準備をしホテルの前でマイケルとジョンを待っていた。マイクロバスが俺たちの前に着くと運転席からマイケルが顔を出ししょぼくれている俺たちに向かって言った。
「おいおいお前らどうしたそんなに落ち込んで、らしくねぇなぁ。世界最強がこの調子じゃ後輩たちの士気も落ち込むだろうが、まぁ世界最強も人間ってことだな。何があったのかは聞かないけど、落ち込んだばかりじゃ次にも影響するから切り替えろよ。さ、乗りな」
俺たちがマイクロバスに乗り込むとジョンが話しかけてきた。
「僕も何があったかは聞かないけどさ、引きずってても何も得しないと思うよ。そこから次はこうしようとかここを気をつけようって勉強になるって言うか自分のものにするなら得だけど、引きずるだけじゃ重荷にしかならないからさっさと切り捨てた方がいいよ」
その言葉を聞いたトールさんがジョンに聞いた。
「ジョンは失敗した時とかすぐに立ち直れるのか?」
「僕も少しは引きずるけど、色んな場所で色んな失敗をしてきたからほとんど引きずることはないね。あんたたちみたいなエリートは挫折とか失敗って経験が一般人より圧倒的に少ないからその一回の失敗が重く感じるんだろうな。でも、世間から天才だ秀才だと言われるようなエリートであっても人間なんだ。誰だって失敗も挫折も後悔もする。だからそんなに思い詰めるな。今回失敗したんだったら次失敗しないように反省してどうすれば良かったのか考えて次同じような失敗をしないようにすればいい。人間はそうやって成長していくんだから」
その言葉にトールさんの表情は幾分かマシになったように感じた。その表情を見てメアリーさんたちの表情もいつもと同じ柔らかなものになった。そこから俺たちは適度に会話をしながら空港まで向かいマイケルとジョンに別れを告げた。二人ともまた来いよと清々しい表情で言ってくれて俺たちもまた来るねと清々しい気持ちで返事ができた。俺たちは日本へと飛ぶ飛行機に乗りアメリカに別れを告げた。
次回もお楽しみに




