163話 困難のダンジョン③
勝と透が寝ている間風魔法で暇つぶしをしていると拓郎さんが話しかけてきた。
「小出くん俺と鬼ごっこする?」
「いいですね。それじゃあ拓郎さんが鬼ってことで」
「範囲は十メートル以内で」
「頑張って捕まえてくださいよ」
俺は拓郎さんにそう言い少し挑発した。すると、拓郎さんがニヤリと笑い五秒数えた後追いかけてきた。俺は天井ギリギリを飛んだり壁まで移動して壁を蹴って方向転換をしたり、天井から地面に向かって風魔法を使い地面スレスレまで落下して距離を稼いだりと十メートル以内という限られた範囲の中で最大限の動きをしてみせた。
「ちょ、何そのエゲツない動き……全然追いつけないんですけど」
「もっと頑張ってくださいよ〜」
俺が煽るように言うと拓郎さんは言ったなというような闘志に満ち溢れた表情に変わり再び追いかけて来た。俺はさっき見せたような動きは通じないと踏んで空中で急に風魔法を切り予想外な動きをしたり、背後から追いかけて来る拓郎さんを中心に半円を描くように飛び拓郎さんの背後に移動したりした。だが、もう逃げるレパートリーが無くなり拓郎さんに捕まえられてしまった。
「捕まったー」
「つ、捕まえたー……」
拓郎さんはかなり疲れたのか大きく肩で呼吸をしていた。地上に降りると拓郎さんは休憩なのに疲れてどうするのとメアリーさんと未来さんに怒られていた。拓郎さんは怒られてしょんぼりとしていたので隣に座り怒られた原因の疲労を癒してあげようと治癒魔法を使った。すると、拓郎さんはみるみる疲労が回復するのに驚き目を見開いた。
「え……これ治癒魔法だよね? アイテムとかじゃないよね?」
「そうですけど、どうしたんですか?」
不思議でそう尋ねると拓郎さんが驚きながら話してくれた。
「治癒魔法って普通傷治す程度で痛みとかは治せないの知ってるよね? もちろん疲労とかも治せないの。なのに小出くんの治癒魔法は疲労も嘘みたいに治すって言うか癒してくれてるから驚いてるの。この凄さ分かってる!?」
「凄いのは分かってますけど、マナの使用量増やしたぐらいで他に特別なことしてないのでそんなに特別感が無いと言うか」
「小出くんはもっと自分の凄さ自覚しな。もちろん言い広めるのは良くないけど、自身は強さに直結するから自覚持って俺は強いんだぞって思いなよ」
拓郎さんの言葉に今まで疑問に思っていたことをぶつけた。
「俺ってそんなに自信持ってないように見えますかね? 結構自分の才能には自信持ってるつもりなんですけど」
「そうなの? なら逆に凄いね。攻略者狩りの連中って自信無さそうな奴らとか弱そうな奴らを中心に狙うから警戒の意味で言ったんだけど、小出くんなら返り討ちに出来るだろうし逆に攻略者狩りハンターみたいなのになれるかもね」
「さすがに攻略者狩りをやってるような連中に狙われるのは嫌なんでもっと威圧感出せるように頑張ります」
そんな話をしているとトールさんがもうそろそろ三十分経つことを教えてくれた。勝と透を起こし準備をするように言うと、春奈の水の精霊がちょうどいいタイミングで戻って来た。
「モンスターを見つけたようです」
「準備が出来次第進もうか」
というわけで休憩は終わり攻略再開となった。俺たちはさっきよりペースを少し上げて普段歩くより少し遅いぐらいのペースで進んだ。ヤガーリウスのナワバリがどれほどなのかは分からないが、しばらくは歩かないと次のモンスター縄ナワバリにはいかないだろうし、精霊も往復で三十分掛かったことからかなり離れた場所まで行っていたことが分かる。そんなわけでしばらく警戒しながら進んでいると春奈が言った。
「精霊が見つけたをモンスター捉えました」
「どんな形だ?」
「人間みたいに立ってます。でも、かなり細く人間ではないと思います」
俺たちにはモンスターの影も形も分からない距離だったが、春奈は万感リングのおかげで見えているんだと理解したトールさんがモンスターの情報を聞き整理した。
「その亜人型のモンスターはどのぐらい細い? 枝みたいに細いのか?」
「はい。本当に骨と皮しかないぐらい細いです」
「そいつはパウペスという亜人型のモンスターだ。世界中の貧しいことが原因で亡くなった者たちの魂が集まった結果パウペスが生まれると言われている。パウペスは極めて食に貪欲で自分が食べられると思ったものは全て喰らい尽くす。それがたとえ魔法であったとしても。ここは中村くんの空掴の遊び人で対処しよう。アイテムも喰われる可能性があるからしまっておくように」
何とも悲しい生い立ちと能力に少し同情したが、能力自体は厄介極まりないもので普通に戦う場合気づかれないうちに倒すかパウペスが喰いきれないほどの魔法で強引に倒すしかないのだろう。そんなことを考えつつゆっくりとパウペスに近づいていき透の空掴の遊び人の射程範囲に入ったかなと思ったその時、パウペスがこちらに向かって走って来た。パウペスは全身ガリガリで本当に骨と皮しか無く目の周りは脂肪が無いせいか窪み頬も丸みなんて無く骨の形がハッキリと見えた。そんなパウペスは大きく口を開けて何度もガチガチと歯と歯をぶつけて音を鳴らしていた。その音にお前たちを喰ってやるという意思が混じっているように感じられた。だが、パウペスは透の手により空間ごと圧縮され亡骸だけが残った。俺はどうしてもやるせない気持ちになりパウペスの亡骸と貧困で亡くなった人たちの思いを弔うために火葬した。火葬し終えると俺たちは再び歩みを進めた。
パウペスを倒して少し進んだところで左に分かれ道が現れた。その分かれ道はどこまで続いるんだろうなと見ていると道の奥に一つの明かりが灯ったのに気がついた。何の明かりだと思っているとトールさんが叫んだ。
「避けろ!」
俺たちはトールさんの叫び声に咄嗟に左右に分かれて避けた。その刹那、俺たちがいる道の壁にシクットソルの簡易版のような火と爆発魔法の混成魔法であるイニスイスピラティオのような魔法が飛んで来たのだ。俺たちは突然の混成魔法に驚いているとトールさんが言った。
「相川くん凍界無別の準備を。中村くんも一応空掴の遊び人の準備を。後のみんなは最高火力を出せるように魔法の準備を。羽栖さんこの先にいるモンスターがどんなモンスターか分かる?」
「見てみます」
俺たちはトールさんの指示に従い各々準備をしてそのモンスターを迎え討とうとしていると春奈が言った。
「クロコディウスみたいに薄っぺらい体してます。それ以外の特徴はちょっと分かりません」
「ありがとうそれで十分だ。そいつはバラノスディスティオだ。獲物を火で焼いてから食べる習性を持つ火と爆発魔法を使うオオトカゲみたいな奴で、多分パウペスを火葬した匂いでおびき寄せちゃったんだろうな。でもラッキーだ。バラノスの肉は弾力があって美味いんだ。みんなもいつかモンスターの肉は食うことになるだろうから今のうちに体験させてあげよう」
トールさんは至って真剣な感じで話していたためマジなんだと少し驚いた。モンスターの肉なんていわゆるゲテモノの類いなのに本当に美味しいのかと疑問に思った。でも、トールさんの言う通りいつか食べなくてはいけない時が来るだろうから余裕のある今のうちに経験しておく方がいいのだろうと自分に言い聞かせた。というわけでバラノスを倒してその肉を食べることになった俺たちは可食部を守るために魔法ではなくアイテムでバラノスを倒すこととなった。
次回もお楽しみに




