133話 体育祭②
「さぁ借り物競走の時間となりました。まずは一年生からです! 入学したてほやほやでようやく学校に慣れてきたぐらいの可愛らしい後輩たちはどんなお題を引くのでしょうか!」
放送委員の言葉を皮切りに借り物競走スタートのピストルが鳴った。一年生たちが走り始めると最初のお題を手にした。少しお題に戸惑う姿を見せるもお題のものに向かって走り始めた。先生を連れて行く人もいれば同級生、水筒など他の物を持って行く生徒もいた。
「一番はどのクラスになるのかまだ分かりませんね」
第一走者のお題を先生たちが確認すると第一走者のゴールが認められた。一位から順にお題の発表がされた。同じお題は用意しておらず後の走者ほど難しくなるという方式であるためお題の発表をしたのだ。お題で持ってくる物、人が重複するのは仕方がないとして許可している。第二走者の準備が整うとピストルが鳴った。すると、走者がクラスに対して呼びかけていることから塾に行っている行っていた生徒などのお題を引いたのだろうと楽しく見ていた。そんな時女子生徒が俺たち運営のテントにやって来て言った。
「マイク貸してください!」
すぐにユースが近くにあった使っていないマイクを手渡すとその子は見事一着を取った。俺はよくすぐにマイク渡せたなと思い言った。
「あんなすぐに渡せるなんて凄いな」
「凄いって言うかある程度お題の中に何があったかは覚えてるからすぐに渡せただけよ」
「すげーな俺なんて何のお題があるのか全然覚えてないのに。何ならいつ決めたのかすら覚えてないわ」
「仕事じゃないから覚えろとは言わないけど、知ってるぐらいはしておいてよ」
「はーい」
そんな話をしていると第二走者の番が終わり第三走者の準備が始まっていた。学年ごとに第四走者までいるためお題の数もかなりの数あるのでまだまだ楽しめそうだと思った。そんなことを思っていると第三走者の番が始まった。今回のお題は全員が誰かをお題として連れて行っていた。中には部活の先輩と思われるお題も含まれていそうだった。そして、一年生最後の第四走者の番になった。一年生最後ということもあり盛り上がりは一層増した。
「一年生最後の第四走者はどんなお題を引くのでしょうか。今までこれといって珍しい物は無かったのでこのまま終わってしまうのか。逆に今までの引きが悪かったのか楽しみですね」
そんな放送委員の放送を聞いていると第四走者が走り始めた。各々お題を確認するとその中の一人の男子生徒が俺に向かって走って来た。俺はなんだと思っているとその男子生徒が近くまで来て言った。
「小出先輩お願いします!」
俺はお題なんだなと思いすぐにその男子生徒とゴールまで走った。俺たちは見事に一着を取った。俺は何のお題に当てはまっていたのか気になり聞いた。
「何のお題だったの?」
「憧れの人です! 小出先輩の活躍は色んなところで聞いてますから」
「そっか。先輩として格好ついてて良かったよ」
「これからも頑張ってください」
一年生の借り物競走が終わり俺は運営のテントに戻った。みんなから憧れの人というお題で選ばれたことをいじられるというわけではないが横腹を突かれるように言われた。でも、嫌な感じはしなかった。二年生の第一走者が準備を始めた。二年生がどんなお題を引くのか楽しみに待っていると勝が言った。
「俺さ借り物競走のお題に好きな人ってお題入れたんだけど誰か引いてくれねぇかな」
「引いたとしてもお題発表されるんだから誰も連れて行けないだろ」
「確かに……失敗したな」
そんな会話をしていると二年生の第一走者が走り始めた。俺たちは話をやめてレースに意識を集中させた。第一走者は競技で使うバトンや応援で使うメガホンなどを持って来てゴールした。第二走者が準備を始めるとそこには見慣れた顔があった。なんと、すみれちゃんだった。まさかすみれちゃんが借り物競走の走者だったとはと思っているとすみれちゃんの番が始まった。俺たちはすみれちゃんを応援しているとすみれちゃんが微笑みながら俺の方に向かって来た。またお題に適していたんだと少し驚いたが、すみれちゃんとゴールに向かった。すみれちゃんの走るペースに合わせたため惜しくも三着になってしまったが、それでも一緒に走ったという思い出になって良かったと思った。お題の発表が一着から順にされすみれちゃんのお題の番となった。その内容は優しくしてくれた人というもので勝とあんな話をしていたところだったから少しドキッとした。すると、すみれちゃんが言った。
「本当は憧れの人で小出先輩とゴールしたかったんですけど先に取られちゃったけど、いいのが残ってて良かったです!」
「そう思ってもらえて嬉しいよ。ありがとう」
「また魔法教えてくださいね」
そう言うとすみれちゃんはクラスのテントに戻って行った。俺もテントに戻ると勝が言った。
「好きな人だったら良かったのにな」
「良くねぇよ。俺はユースと結婚するんだから」
俺の発言に周りにいた先生たちが一気に俺の方を向いた。中にはお茶を吹き出す先生もいた。俺はすぐに言っちゃいけないことを言ってしまったと風魔法でその場から離れた。学校の屋上に行ったが、先生たちは追いかけては来なかった。戻りづらいなと屋上で思っているとユースが屋上にやって来た。ユースはすぐに何かを言うのではなくただ黙って俺の隣に座った。俺から何か言ったほうがいいのかなと思っているとユースが言った。
「ここからの眺めいいね。テントの中でみんながどんな表情をしてるのかは分からないけど、競技全体を見渡せる」
「そうだな」
なんて返せばいいのか分からず共感しているとユースが俺に体をくっつけてきた。心拍数が一気に上がったが、平静を保っているとユースが言った。
「さすがにさっきの失言は一瞬焦ったけど、私のこと一番に考えてくれてるんだって分かって嬉しかった。ありがとう」
ユースがそう言い終えるとキスをしてきた。そのひと時は世界から音が消えたような感じで一瞬のはずのその時間がとても長く感じられた。ユースが唇を離すとふふっと微笑んだ。ユースは何も言わずもう一度キスをしてきた。ユースの口付けに興奮した俺の理性は今にも抑えられなくなりそうだったが、何とか抑え込んだ。
「続きは大人になってからね」
そう言うとユースは屋上から降りた。ユースの言葉に俺は色々想像してしまいしばらくテントには戻れそうに無かった。
俺がテントに戻るといつの間にか二年生の借り物競走が終わっていた。テントに戻っても先生たちは何も詮索してこなかった。助かったという感情と説明した方がいいのかなという感情が俺の心を支配していたが、ユースがいないことに気がついた。探すように辺りを見渡すと借り物競走の走者としてグラウンドにいた。ユースが走者に立候補していたことを知らず少し驚いた。楽しそうだし少し羨ましいなと思った。でも、お題として選ばれるのも嬉しいからそれでいいやと満足していた。そんなことを考えていると三年生の借り物競走が始まった。
次回もお楽しみに




