123話 武帝の稽古
悪魔のダンジョンから帰ってきた俺は残りの春休みを悠々自適に過ごしていた。トレーニングをしたり攻略者の動画を見たりと有意義な時間を満喫していると武帝の声が聞こえてきた。
(そろそろ稽古に来い。久しぶりに俺様も体を動かしたい)
武帝の珍しい要望に俺は素直に従った。最近武帝と稽古全然してなかったからちょうど良いと思ったし、言いぶり方からして実戦形式の稽古だろうから学びにもなると考えた。俺が武帝の場所に行くと武帝は体をほぐしていた。どんな稽古から始まるのだろうなと思っていると武帝が説明を始めた。
「よし来たな。今回は久しぶりだけど甘っちょろい稽古はしない。極力実戦に近い形でやる。多少の怪我はするかも知れないが、大怪我となるような攻撃はすんでのところで止める。もし、怪我をしても稽古を続けられそうなら治しながら続けること。一本取ったら体勢を立て直し再開する。それをある程度やる。具体的に何回って決めずにいい感じのところまでやる。分かったな?」
「はい。お願いします」
俺は豪嶽砕を擦り合わせた。俺の準備が終わったのを確認した武帝は背中に担いでいる特大剣を片腕で扱い始めた。明らかに人間が片腕で扱えるような大きさではない特大剣を武帝は軽々と体の一部のように扱っていた。武帝は本当は魔法が使えてアークシィリュームを使っているのではないかと思い聞いた。
「あの、その特大剣ってどうやって片腕で扱ってるんですか? 明らか人間にはオーバースペックと言うか、どうやってそれ使ってるんですか?」
「単純な筋力だ。何せ俺様はマナ感知の才能が殆どないからな。幸い治癒魔法は常人ほどは使えるが、それ以外はからっきしだからな。魔法が使えない分剣術と体術でどうにかするかなかった。だから、誰にも負けないように鍛え抜いた。その結果がこれだ。健斗は俺様のように不器用じゃないから一つを極めようとしなくていい。全てで一人前になれ。そうしたら誰にも負けない強い戦士になれる。分かったな?」
「はい。稽古お願いします」
武帝の稽古が始まった。武帝の特大剣の攻撃は思っていたよりも早く重かった。反撃の隙自体はかなりあるのだが、反撃したところにカウンターを仕込まれていたらと思うと下手に手を出せないでいた。すると、武帝が言った。
「自分の得意を活かせ。俺の攻撃の後隙に魔法を撃つでも距離を取って魔法の準備をするでもいい。無理に相手の土台で戦う必要はない。だが、下手に距離を取って相手が詰めてくるのに対応出来ないなんてことにはならないようにな」
「はい」
俺は武帝が攻撃を振った後隙に雷魔法で目眩しを試みた。武帝は少しの間目が眩み俺がどこにいるのか確認出来ないでいた。俺はその間に万物潰崩を取り出し武帝の目の前に用意した。武帝が目を開けると目の前に万物潰崩があり一本取られたことを認めてくれた。俺は心の中で喜び次の一本をどう取るか思考を巡らせた。次が始まると武帝はさっきより明らかに攻撃のスピードを早めた。後隙なんていうものは無く特大剣の攻撃を凌いだと思ったら拳が飛んできたり蹴りを防いだと思ったら特大剣の柄頭で小突かれたりと、俺の近接戦闘経験の浅さが露呈した。俺はこのままではいけないと思いアークシィリュームを発動させた。これで少しは武帝の攻撃を避けられるようになった。とは言っても武帝の攻撃スピードは凄まじく殆ど対処出来ずに一本取られてしまった。
「次は武器を使わない素手の稽古といくぞ。アイテムが使えないタイミングとかたまたまアイテムをしまっていたなんていう時のための稽古だ。素手での近接を挑んでくるということは相手は何かしらの用意をしている。つまり、普通に戦うのは圧倒的に不利だ。なるべく相手と距離を取ることを意識したり不意を突くようにしろ。敵はモンスターだけとは限らないからな。ヴェナトレスとかいう奴らがその例だ。今の時代は平和にはなったが、まだ一定数そういう外道がいる。いざという時のためだ。準備はいいな?」
「はい」
そこから俺と武帝は互いに素手の稽古を始めた。武帝は一切手を抜かず防ぐので精一杯で距離を取ることなんて出来ないと思っていると武帝が言った。
「考えるな。体が相手の攻撃に対して自然と防ぐように、魔法も相手の攻撃に自然と反応するように意識しろ。意識するだけで考えるなよ。思考は判断を鈍らせる。野生動物が命の危機にある時思考していると思うか? そういうことだ。直感を信じろ」
思考するのではなく体がそうなるように自然と魔法が発動する感覚を覚えるために魔法に意識を割いた。これは思考とは違いスポーツでゲーム中に何かを心掛けている時のような感覚だった。その意識を続けながら武帝の攻撃を防ぎ続けているとほんの僅かな隙があった。その瞬間にビチスグラビタスの上方向の風魔法を発動させた。魔法に意識を割いていたことで瞬時に発動させられることができ距離を取るという目的は達成した。だが、そこで終わらず武帝は飛びついて来た。俺は咄嗟に風魔法で武帝を吹き飛ばした。さすがの武帝も空中では無力だった。武帝は一本取られたことを認めてくれた。素手での近接は経験がなく心配だったが、武帝から一本取ったことで自信がついた。
「それじゃあ最後は何でもありだ。俺様も本気で行くからお前も本気で来い。俺様を打ち負かしてみろ。それでこそ一人前だ」
「はい」
俺はアークシィリュームをさっきの三倍以上のマナ量で発動させた。俺が準備を終えると武帝が特大剣を構え肉薄してきた。さっきまでとは比にならない早さに驚いたが、そのためにアークシィリュームのマナ量を増やしたんだろと奮い立たせ距離を取った。それでも武帝は自分の得意な距離を維持しようと肉薄してきていた。このままだと一方的にやられると感じた俺は風魔法で空中に飛び上がった。武帝は風魔法で飛び上がった俺と同じ高度まで脚力で飛び上がってきた。マジかと思ったがそんなこと考えてる暇はないとすぐに防御姿勢を取った。武帝は自慢のパワーと特大剣で俺を地面に叩きつけようとした。でも、俺は風魔法で地面に叩きつけられる前に策を講じた。そして、そのまま風魔法で距離を取った。そして、少しでも時間を稼ぐために火の壁を作り出した。だが、武帝はそんな魔法では止まらなかったが、これでいい。俺は火の壁を作り出した時に万物潰崩を用意していたのだ。武帝が火の壁程度で止まらないのは分かっていたから、武帝のパワーをそのまま反射出来るぐらいの性能を持っているであろう万物潰崩で武帝にカウンターしたのだ。
「うをおおおーーー!」
なんと、武帝に万物潰崩でカウンターしたら突っ込んできた方向に飛んで行ってしまった。どうすればいいのかと焦ったが、とりあえずヤバいと思いヤンウェイで落下地点付近にテレポートした。飛んでくる武帝はとても小さく映っていたが、なるべく勢いを弱めるために風魔法を全力で送り込んだ。幸い、武帝は途中でスピードが落ちた。武帝をそのまま落下させるわけにはいかないので風魔法で下からゆっくりと地面に下ろした。
「ふぅー、良かったぁ……」
俺は武帝を無事に助け出せたことに安堵していると武帝が俺の所まで来て言った。
「いやぁあんな感覚は初めてだった。とても楽しかったぞ!」
まさかの感想に驚いたが、特に何もなくて良かった。でも、多分空中にいた時はジェットコースターみたいな感覚だったんだろうなと思った。武帝が楽しかったのならそれでいいやと思った。今日の稽古はこれで終わりになった。近接戦闘のあれこれを教えてもらえて十二分に満足した。
次回もお楽しみに




