122話 帰宅
龍王の話をし終えるとメアリーさんが俺に聞いてきた。
「それよりあの悪魔はどうなったの?」
「ちゃんとトドメ刺しましたよ」
「そう。それなら良かったわ。ありがとうね健斗くん。それと、夫の尻拭いみたいなことさせちゃってごめんなさいね」
「いやいや、雷神トールを憑依させてくれてなかったらもっと被害出てたと思いますから、トールさんが目を覚ましたらちゃんと労ってあげてください」
そこからしばらくトールさんが目を覚ますまでと迎えの車が来るまで雑談して時間を潰した。それにしてもトールさん全然目覚まさないなと少し心配に思えてきた。脚の治療は完璧に行えたと自負を持っているしもう目を覚ましてもいいんじゃないかと思った。その時、トールさんが雷神トールを憑依させるために肉体と魂を生贄にと言っていたことが引っ掛かった。何となくこの話題を全員に聞かせると雰囲気が悪くなると思い拓郎さんにだけ話すことにした。
「拓郎さん、トールさんが雷神トールを憑依させる時に肉体と魂を生贄にするって言ってたけど、あれ大丈夫ですか?」
「具体的にどのぐらいっていうのを明記してたわけでもないし魂ってなると余計分からないから何とも言えないんだ。肉体なら体力とか寿命とか色々あるだろうけど魂なんて俺たち人間には分からないからね。最悪の場合は考えたくもないよ」
拓郎さんは自信なさげというか不安というか、とにかくトールさんのことが本当に心配で心配で気が気じゃない状態なのを建前で覆い被してるようだった。俺は何か魂に作用できる魔法は無いかとミトロシスグリーモを見ることにした。神代文字はじいちゃんに読んでもらうしかないので状況を察して読んでくれてと言う思いでみんなから少し離れた場所でミトロシスグリーモを開いた。
「ミトロシス」
しばらく訳の分からない文字が書いてあるページを何枚もめくっているとじいちゃんが言った。
(魂に直接作用する魔法のページは見た記憶が無いから後ろから探すんじゃ)
俺はじいちゃんの言葉通り後ろから探した。一ページ一ページじいちゃんに読んでもらえるようにめくって数ページ進んだ時じいちゃんが言った。
(ちょっと待て——これじゃ。アニマインペディトゥム。対象の魂に干渉しマナによる意思疎通や精神世界への侵入などを行える。これしかない。早速トールとやらに使うんじゃ)
俺は心の中でじいちゃんにお礼を言ってミトロシスグリーモを左手に持ちトールさんの胸あたりに右手を添えた。何となくこうした方がいいんじゃないかと思っての行動だった。そして、俺はミトロシスグリーモに書かれている魔法の名前を唱えるとその魔法が使える特徴を活かすことにした。
「アニマインペディトゥム」
落雷の音に驚いて肩が跳ねた。辺りを見回すと悪魔のダンジョンとは全く異なる場所にいた。そこは荒れた海にあるある程度の広さがある岩の陸地だった。そこには今にも壊れてしまいそうな一軒の小屋があった。ここがトールさんの精神世界なら何か出来ることがあるんじゃないかと思い小屋の中に入った。小屋の中は外の環境とは打って変わって暖かい雰囲気が漂っていた。何と言うか一家団欒や親しい友人と話している時のような感じだった。その雰囲気は小屋の奥の方からしていた。俺は覗き込むように小屋の奥の方を見るとそこにはトールさんがいた。誰かと楽しそうに話しているのは分かったが、その相手は幽霊のように半透明で誰かは分からなかった。その時トールさんと目が合った。
「小出くん!? どうして君がここに?」
「トールさんがどうしてるのか心配になって様子見に来たんです」
「そうか。ありがとう。君は本当に優しいね。でも、外があれだからここにいる他にやることが無いんだ。それにここならみんなと楽しく話していられるからね」
トールさんは屈託のない笑みを浮かべた。その笑みを見るとここに残っていた方が幸せなのかも知れないと思った。でも、現実ではユースもメアリーさんもみんな心配していると自分に言い聞かせ行動に移した。
「トールさんはこのままでいいんですか? ユースとメアリーさんに会えなくてもいいんですか?」
「……私だって会えるものなら会いたい。二人をこの両手で目一杯抱きしめたい……でも、私の力じゃ無理だ。どうしたってここから出られない」
トールさんのこんな悲しい表情見たことがなく少し今のトールさんの気持ちに共感した。トールさんにはお世話になっているんだからこういう時こそ恩返しをするんだと自分を奮い立たせた。
「じゃあ俺がトールさんをここから連れ出してあげます。こんな荒れた海からユースとメアリーさんが待つ本当に我が家に」
俺は小屋を出て荒れた海を目の前に心の中でトールさんを助けたい気持ちとユースたちに会わせたい気持ちを込めてシクットソルを空に打ち上げた。シクットソルの効果は絶大なもので荒れていた海が収まり天候も良くなった。
「ありがとうじいちゃん」
本当にじいちゃんには助けられてばかりだと思ったが、そんなことより今はトールさんだと小屋からトールさんを強引に引っ張り出した。最初トールさんは嫌がっていたが、外に出てみると清々しいほどの天気と海の綺麗さに驚いていた。
「小出くんがこれを?」
「まぁ師匠から教えてもらった魔法なんで半分は師匠のおかげです。それじゃあユースとメアリーさんがいる本当の家に帰りましょう」
「でも、ここがどこでどっちに進めばいいか分からない」
「大丈夫です。俺が連れて行きますから」
俺はユースの家を思い浮かべながらヤンウェイを作り出した。そして、トールさんに自分から入るように促した。
「これを通ればいいのかい?」
「はい。ユースとメアリーさんに他のみんなも待ってますよ」
俺の言葉を聞いたトールさんはヤンウェイの中に入った。俺が瞬きをすると悪魔のダンジョンに戻っていた。そして、目の前には目を覚ましたトールさんとトールさんに抱きつくユースとメアリーさん、各々目を覚ましたトールさんに言葉をかけるみんながいた。俺は心底成功して良かったと思った。しばらくトールさんの周りはみんなで埋め尽くされていて俺が近寄る事は出来なかった。でも、みんなが落ち着いてくるとトールさんが俺の目を見て言った。
「ありがとう。小出くんには助けられてばかりだね」
「俺が助けたいと思ったから助けたんです。それに、トールさんにはまだまだ役割が残ってますから」
「ありがとう……本当にありがとう……」
トールさんは泣きながら俺を抱きしめた。トールさんの気持ちが痛いほど俺にも伝わってきた。胸がギュッと締め付けられるような感じだった。でも、それはユースたちにもう一度会えたこと、目を覚ませたことからくる感激と感謝の気持ちだった。俺も泣きそうになったが、涙が出そうになるのをグッと堪えて言った。
「いつでも頼ってください。俺に出来ることなら何でもします」
俺がそう言うとトールさんが言った。
「ありがとう。これからも君を頼ることになるだろうけど不甲斐ない私たちを許してくれ」
「人間助け合ってこそです。不甲斐ないなんてことないです。誰だって誰かの助けが必要です。もちろん俺も誰かの助けが必要です。今回はそれがトールさんだっただけです。俺はそれが誰であっても助けますがね」
トールさんは抱きしめていた俺を離し言った。
「君にはユースの攻略者としてのバディと人生のバディを任せたい。頼まれてくれるかな?」
「「「!?」」」
トールさんのまさかの発言にその場にいた全員が驚愕した。でも、一番はユースだった。
「パ、パパ! その事は秘密って! ……っ!」
何とユースが直接トールさんに話していたのだ。ユースはそのことを自分からバラしたことと間接的に俺のことが好きだということが全員に理解されたことからどこに逃げるように走ってしまった。俺は誰かに言われるでもなくユースを追った。
「待って!」
「嫌!」
「ユース!」
俺がしばらく追いかけてもユースは止まることなくしばらくダンジョンを走り続けた。そして、ダンジョンの行き止まりまで行くとユースが地面に座り込んだ。
「ユース」
「何も聞かないで……」
俺は何を言えばいいのか分からなかったが、本心を伝えることにした。
「嬉しかった。ユースがそんなふうに俺のことを想っていてくれてるって知って。本当だよ。ユースはいつも優しいし誰かのために行動出来る思いやりもあるし本当に出来た人だって思ってた。ていうか今も思ってる。だからさ、顔上げてよ。俺、ユースの旦那さんになれるなら喜んでなるよ。これは嘘じゃない。一生かけて君の隣で本当だって証明しても良いよ。だから、とりあえずみんなの所戻ろ」
俺が言い終えるとユースは顔を上げて言った。
「なら今証明して。私のこと好きだって」
俺はユースの目の前に屈み目線を合わせた。ユースは自然と目を閉じた。俺はユースに口付けをした。すると、ユースは笑顔で言った。
「ねぇ好きって言って」
「好きだよ」
俺は何も躊躇うことなく言った。ユースはさらに嬉しそうな顔になり抱きついてきた。俺はユースをギュッと抱きしめた。トールさんに抱きしめられた時とはまた別の感情になった。しばらく抱き合っていると勝たちの声が聞こえてきた。俺たちはみんなの所に戻った。最初みんな気まずそうな雰囲気になっていたが、俺とユースが手を繋いで戻ってくるとみんな微笑み祝福してくれた。すると、ユースが言った。
「結婚式までその言葉はとっておいて」
まさかの発言にみんな驚いたが、納得し口を噤んだ。迎えの車が到着したようで俺たちは帰ることにした。車内ではユースとの距離がいつもより近かった。そして、ずっとニコニコしていた。本当に嬉しいんだなと思っているとアドレナリンが切れたのか急激に眠たくなり眠ってしまった。目を覚ますと自室のベッドの上だった。お腹が空いたためリビングに行くと母さんがしたり顔のような表情で言った。
「ユースちゃんと結婚するんだってね!」
「え!? 何で知ってるの?」
動揺を隠さずそのまま聞くと母さんは嬉しそうに言った。
「健ちゃんが起きないから部屋に運んでもらってる間にユースちゃんから聞いたの。不束者ですが健斗が幸せと思える家庭を築きますって! そんなこと聞いて何もしないでいられるかって思ったんだけど、さすがに高校生じゃ早すぎるから卒業したらねって返しといたわ。そうしたらユースちゃん嬉しそうにはいって返事してくれたから母さんまで嬉しくなっちゃった!」
なんか母さんがこんなにテンション上がってる姿見るの初めてで少し違和感を覚えた。でも、良好な関係を築けそうで良かったと安心出来た。
次回もお楽しみに




