119話 開戦
悪魔たちが暮らしていた空間からさらに奥に向かった俺たちはゆっくりと歩みを進めた。早く進むよりゆっくり進み見落としがないか確かめる方が生存率が高いためだ。それに、今回は出てくるモンスターが悪魔であるためより安全な方を優先しているというのもある。もし、悪魔がいるのに見落として前方からも背後から攻撃され挟み撃ちなんていうことになっては勝てる戦いも勝てなくなる。しばらくゆっくりと見落としがないようにダンジョン内を探索し進んでいくと俺たちが進む道の先に小柄な悪魔がいた。その悪魔のシルエットはコウモリのような羽が生えているようだった。銀翼の天使を使った時の春奈のようなシルエットだったが、羽の形がどう見てもコウモリの形だった。俺たちは一気に警戒モードになりアイテムを構えた。すると、その悪魔の声が聞こえてきた。
「さっきのすごい爆発君たちの仕業?」
小柄な体格に似合う少年のような声を発しながらこちらに歩いてきた。俺たちはいつでも攻撃出来るように構えているとその悪魔の人相がはっきりと見えた。小学校高学年のような顔でやりづらいなと思った。すると、小柄な悪魔が続けた。
「ねぇ君たちってさ僕たち悪魔をどうしたいの? 全滅させたいの? それとも襲ったりしなかったらそれでいいの? 誰でもいいから答えて」
その問いに俺たちはどう返事してよいのか分からず黙っているとトールさんが言った。
「私としては全てのモンスターが地球上からいなくなってくれた方が安全に暮らせるから全滅派だな」
「へぇ。ちなみになんだけどさ、モンスターを全滅させる過程で人間とモンスターの勢力関係が逆転したらどうなると思う?」
「モンスターが人間に勝てるなんて淡い希望は抱くだけ無駄だぞ。モンスターと人間の差は知能と技術、そしてアイテムが使えるかどうかだ。モンスターのお前らにはアイテムは使えないからどう足掻いても私たち人間に勝つことは不可能だ」
アイテムが人間にしか使えないことを初めて知った俺はそっちに気が取られてしまった。俺はすぐに悪魔に意識を向け直した。すると、悪魔が言った。
「じゃあさ、モンスターが人間に勝ってる点って何か分かる?」
悪魔の問いかけに俺たちは答えられないでいると悪魔が言った。
「圧倒的な力だよ。君たちが人間である以上僕たち悪魔にはどうしたって力じゃ勝てない。それに、身体能力もアイテムで補強しないとモンスターに対抗することすら叶わない。これだけ見てみるとさ、モンスターと人間の勢力って案外拮抗してるんじゃない? 君たちがさっき結構な数の同胞を殺してくれちゃったけどさ君たちあの数殺すのにどれだけの労力を要した? どれだけの魔法を使わないと殺せないの? 僕に教えてよ。君たち人間がどれだけ弱いかもね。」
そう言う小柄な悪魔は不敵な笑みを浮かべていた。この悪魔はサイコパスなのだろうとみんな感じ取り俺たちはより一層警戒を強めた。すると、悪魔は問いかけてきた。
「ねぇ教えてよ。もしかして、教えてくれないのは僕に勝てないからとか? 別に人間が悪魔に勝てなくたって仕方ないよ。生き物としての格が違うんだから。一度に相手してあげるから掛かってきなよ。それともここじゃ狭くて戦いづらい? それなら向こうの広場に移動しようよ。向こうなら思いっきり暴れられるし。広場に着いたら僕を楽しませてくれるよね?」
そう言う悪魔は嬉しそうな楽しそうな愉快な表情で言った。俺たちは悪魔の言葉を信じるようなことは出来ずずっと構えていた。すると、悪魔が真面目な顔になり言った。
「ほら行きなよ背後から攻撃するなんて外道なことしないから。ほら」
俺たちは目線で会話しゆっくりとさっきまでいた広い空間に戻った。この悪魔からは何となく嫌なオーラを感じている。だが、死嫌のリングは反応しておらず俺が思ってる感情と齟齬があるように感じた。もしかしたら俺が過剰にビビってるだけでこいつはそこまで強くないのかも知れない。そんなことを思っていると広い空間に着いた。小柄な悪魔は宣言通り攻撃してこず律儀だなと思っていると悪魔が話し始めた。
「それじゃあルールを決めようか。君たち人間側は僕を殺せば勝ち。僕は君たち人間側を全滅させたら勝ち。簡単でいいでしょ?」
「おい、何のための勝ち負けなんだよ。変に条件付けたりすんなよ!」
拓郎さんがそう言うと悪魔が答えた。
「そんなんじゃないよ単にゲームみたいにして楽しくしたいんだよ。人間たちはこうやって暇を潰すんだろ? 僕たちだって暇なんだ。やることって言ったらこうして命をかけた戦いぐらいなんだよ。だから、僕を楽しませてねって言ってるの。すぐに死んじゃうようじゃ楽しくないから精々頑張ってよ」
人間とモンスターでは生き物としての考え方から相容れない部分が大きいことを理解した。モンスターは戦いをただの暇つぶし程度にしか思っていないのだろうが、人間からしたら死ぬかも知れないというのに呑気で腹が立つ。俺たち人間がどれだけ死ぬのが怖いと思ってるんだと言いたかったが、モンスターなんかに言っても理解出来ないだろうから心のうちに留めた。
「ねぇもう始めようよ。どうせ人間が準備したところで僕に敵うわけないんだからー」
「準備出来てない相手に負けたらさぞ悔しいだろうなぁ」
拓郎さんが悪魔を煽った。こんな状況でどんな心臓してるんだと驚くと悪魔が言った。
「じゃあいいよ。準備しろよ! 万全の準備した状態のお前らを上から捻り潰してやるからよ!」
と言うわけで俺たちは戦う準備をする時間を確保した。俺たちは悪魔に作戦を聴かれないように離れて小声で作戦会議を行った。
「きっとあいつは今までの悪魔より強い。どの程度の強さなのかは分からないけど、苦戦するのは確実だと思う。だから、最初から全開でいこうと思ってる。私は準備に少々時間がかかるからそれまでの間みんなには耐えてもらうしかない。幸いみんな強いアイテムを持ってるからいけるとは思うが、もしかするかも知れない。その時は私たちを置いて五人だけでも逃げなさい」
「嫌だよ。私たちも最後まで戦う」
トールさんの言葉にユースが反応した。俺たちも同じように訴えかけるとトールさんが口を開いた。
「その気持ちだけでも十分だ。それに、私たちは一応トップ攻略者だからね、必ず勝って戻ってくるよ」
そう言うトールさんの表情は優しくも悲しげだった。もし本当にここでトールさんたちを置いていかなくてはならないぐらいあの悪魔が強かった場合出し惜しみをしている場合ではない。いつでもミトロシスグリーモを使えるように意識しておく必要がある。魔法は黎杖を使って最高火力で撃てるように準備した。万物潰崩も忘れられた記憶の断片からいつでも取り出せるように心がけた。準備を終えみんなを確認するといつでも準備オッケーという感じだった。トールさんがみんなに確認を取ってから言った。
「こっちは準備オッケーだ。いつでもはじめてくれて構わない」
「やっとか。ほんと、待ちくたびれたよ。でも、その分期待してもいいよね?」
「あぁ。お前が楽しかったーってあの世で思えるぐらいの生前葬にしてやる」
「へへ、それじゃあ張り切らないとだね!」
そうして俺たちと小柄な悪魔の戦いが始まった。
次回もお楽しみに




