109話 龍王の稽古
「それではまず魔法から始める。以前より強くなったか見てやろう。ワイバーンとの決闘で使ったあの太陽のような魔法を使ってみろ」
「はい」
俺は龍王の指示に従いシクットソルを作り出した。そこまで時間はかけず、威力も落とさないように最善を尽くした。しばらくシクットソルを維持していると龍王が消すように合図を出した。
「もう大丈夫だ。貴様が以前より少し成長したのは感じ取れる。だが、それと同時に伸び悩んでいるのも感じ取れた。健斗貴様は人間なら最上位の実力者だろうが、世界に目を向ければまだまだだ。我のような龍王と呼ばれる強者が数多くいる。我に稽古を付けてもらいたいのはもっと強くなりたいから、そのまだ見ぬ強者に負けたくないからか?」
「俺が強くなる理由は守りたいものを全て守るためです」
「そうか。守るものが多い者ほど強くなれるが、一定数を超えると逆に弱体化してしまう。家族を人質に取られたりして殺されてきた者を何万と見てきた。正直に言うが、失うものが無い者ほど恐ろしく厄介だ。そんな奴から守りながら戦い勝利できるようになりたい。それが目的だな?」
「はい」
俺は自分の意思を曲げない強い精神力を見せつけた。すると、龍王の俺の精神力を試していたのか俺の目を見つめて言った。
「その心、意思に嘘偽りは無いな?」
「はい。ありません」
「よろしい。それでは稽古を始める。たとえ貴様が泣こうが稽古を止めてくれと懇願しようが、期日の日まで辞めるつもりはない。もちろん適宜休憩は取るが、それ以外の時間は全て稽古に費やす。これは貴様の時間が限られているために行う。決して貴様を痛めつけるためや虐めるためではない。準備はよいか?」
「はい。お願いします!」
龍王の稽古が始まった。俺たちは稽古をするために決闘場に移動した。龍王は俺に何度も何度も魔法を作り出しては消して作り出しては決してを繰り返させた。一瞬でも気を抜くと龍王に喝を入れられるため一瞬たりとも気が抜けなかった。でも、逆に言えば一秒も気を抜くことなく魔法を作り出すことなんて強いモンスターと戦う時以外なかったからいい経験になった。最初は普通の火魔法を作り出すように言われていたが、しばらく時間が経ってくるとシクットソルを作り出すように言われた。心の中でマジかと思ったが、これは稽古だと自分に言い聞かせ精一杯頑張った。
「よし。魔法は一旦やめ。次は体術だ。我が攻撃を繰り出すから全てを防げ。多少の怪我なら止めない。これは治癒魔法を使いながら戦えるようになる稽古だ。最初はゆっくりやるがどんどん早くしていく。きちんとついて来れるな?」
「はい!」
龍王は尻尾で俺を攻撃し始めた。俺はアークシィリュームを発動させマナで体を守るようにして龍王の尻尾の攻撃を受けた。龍王の体躯から繰り出される尻尾の攻撃は受け止めるので精一杯だった。圧倒的な重量に巨大な岩がぶつかってきてると錯覚するほどの衝撃だった。受け続けること数分、俺の腕に痛みが出始めた。アークシィリュームを使いながら治癒魔法を使いつつ龍王の尻尾攻撃を受け止めるというマルチタスクに最初は混乱しそうになったが、考えている暇はないとがむしゃらにやり続けた。しばらくアークシィリュームと治癒魔法にマナを使い続けていると、いつの間にか龍王からの攻撃で痛かったはずの腕が痛く無くなってきた。治癒魔法は痛みまでは治せないのではないかと思っていると龍王が察したのか攻撃し続けながら話してくれた。
「治癒魔法は傷を治すだけだと思っていたようだが、マナは神経系にも作用を及ぼす。だから、痛みを伝える神経系にマナが作用し痛みを感じなくなったんだ。傷を治し神経系にマナを作用させ痛みをなくす。これが治癒魔法の真髄だ。だが、神経系にマナを作用させるには莫大なマナを必要とする。だから効率的とは言えない。そんなにマナを使わなくちゃいけないのなら攻撃にマナを使う方がいいと考える奴がほとんどだ。健斗、お前なら瞬時にその莫大な量のマナを傷口周辺の神経系に作用させられるんじゃないか?」
龍王の言葉に自分でも本当かと疑問に思ったが、龍王は強制的にそれを確信させる行動に移った。
「今度は尻尾ではなく爪で攻撃する。怪我を治すためのマナを用意しておけよ」
俺は腕にスペチーフィカ以上のマナを集中させた。龍王は俺の準備が出来たのを確認してから爪で攻撃をしてきた。前腕の骨が見えるほど強力な爪の攻撃に悶絶したが、用意していたマナで瞬時に傷を治し神経系に作用するまでマナを流し続けた。少しすると痛みが徐々に引いてきた。
「はぁ……はぁ……」
痛みから大きな息を吐いた。鼻息も荒くなりマナを速く神経系に作用させるために集中した。しばらくしてようやく痛みが引いてきた。過去一の痛みから抜け出し深呼吸をしていると龍王が言った。
「あれほどの怪我をこれほど早く治し痛みも取り除くとは。流石の一言に尽きるな。健斗、貴様ならもしかするかも知れん。我ら人智を超える存在に唯一対抗出来る人間になれるやも知れん」
「……あ、ありがとうございます」
龍王の褒め言葉は嬉しいはずなのにこんなに大変な思いをした後だと全く心に来なかった。しばらく休憩していると龍王が問いかけてきた。
「健斗よ、貴様は人間でありこれ以上強くなる理由はないように思えるが、どうしてここまでして肉体的に精神的に強くなろうとする?」
「この前のワイバーンぐらいなら今の俺でも対処出来るとは思いますが、攻略者になってもっと強いモンスターに出会した時仲間を守れるぐらい強くなるためです。強くて損することなくても弱くて損することはたくさんあるので」
「確かにそうだな。でもそれなら攻略者にならなければいいのではないか?」
「それはそうなんですけど、友達が攻略者になるようなのでその友達を守れるように強くなりたいんです」
「そうか。なら、強くなったその先にはどんな光景が見えてくるか知っているか?」
「教えてください」
おそらくその光景というは龍王が見たものなのだろう。それを俺に伝えてどうなるのか分からないが、話しておきたいのだろう。
「それは孤独だ。我は龍種を司る龍であり龍王と呼ばれ畏敬の対象となっている。そんな我だが、ここカイルムで孤独に喘いでいる。カイルムは人間界でも名の知れた場所だが、ここに来るのは貴様一人だ。カイルムに来たくても来られない人間の方が多いのは分かってはいるが、それでも孤独は辛いものだ。我がここにいるのは人間が来るのを待っているからだ。カイルムは選ばれし者しか来られない場所だと有名になり、人間たちはここに来ようと努力し続けた。だが、いつしかここを目指して努力する者はいなくなり現代ではもう誰も存在すら知らない。大昔は我に一目会うために、貴様のように教えを乞うためにここを目指していた者たちはもういなくなってしまった。強くなり過ぎても良いことばかりではない。人間なら尚更疎外感を覚えたりするだろう。それでも強くなり我の理解者となってくれるか?」
寂しげに話す龍王に俺は言った。
「龍王の寿命に比べれば短い命だけど、理解者として隣にいてやるよ。それなら孤独だとは思わないだろ?」
「人間のくせに我の隣に並ぶとはな。いいだろう我の隣に相応しい実力者に育ててやろう」
「望むところだ」
そこから俺は龍王との戦いを通して様々な稽古をつけてもらった。アイテムの使い方や魔法の使うタイミング、相手の次の行動を読む観察眼の養い方など本当に色んなことを教えてもらった。最初は龍王にボロ負けだった俺も徐々にいい戦いをするまで強くなり、いつしか龍王から一本取れるほど強くなっていた。龍王は俺に一本取られたはずなのに嬉しそうにしていた。そこから俺たちは時間を忘れて戦いを繰り広げた。しばらく戦い疲れた俺たちは休憩することにした。カバンから時計を取り出し今がいつの何時なのか確認すると、いつの間にか一週間が経とうとしていた。
「やっべ、もう俺帰らなくちゃだ。また遊びに来るから」
「そうか。またやり合おうな」
「鈍ってまけるんじゃねーぞ」
「ほざけ」
俺はヤンウェイで孤立のダンジョンにテレポートした。そして、休憩施設にダッシュして戻った。休憩施設にはほとんどの生徒が戻っておりギリギリセーフだった。ユースたちから何をしていたんだと少し怒られてしまったが、戦いに夢中だったと誤魔化した。俺たちは学校に戻り家に帰った。龍王との稽古楽しかったなと思っていると、俺が初めてカイルムに行った時、じいちゃんたちがカイルムを知っていたのはカイルムが大昔は有名だったからなんだなと納得した。




