107話 カイルム
修学旅行が終わり二年生の大きなイベントはもう無くなってしまった。いつもと変わらぬ日常を過ごしているとあっという間に時間は過ぎてしまうもので修学旅行から二ヶ月も経った。季節はすっかり過ごしやすい気温になり時間の流れる速さを実感しているとふと思った。龍王から教えてもらったテレポートできる魔法の名前は何なのだろうと。気になったら確認したくなってきたが、カイルムは現実と時間の流れが異なるため迂闊に行くことは出来ない。どうしたものかと考えていても時間が過ぎてしまうため忘れられた記憶の断片の中に入ることにした。とりあえずじいちゃんに話を聞こうとじいちゃんの所に行った。
「じいちゃん久しぶりー」
「おう健ちゃんいらっしゃい。今日はどうした? ミトロシスグリーモの続きでもするか?」
「それもいいけど、今日は龍王が俺に教えてくれた魔法についてもっと詳しく知りたくて来たんだ。じいちゃんあのテレポート出来る魔法の名前とかって分かる?」
「いやー分からんのぉ……さすがに龍王の魔法は人智を超えておるから人間じゃ到底独自魔法で再現なんてのも出来んじゃろうし直接聞く他ないと思うぞ」
「そっか。直接聞きに行きたいんだけどね、前カイルムに行った時あっという間だったのに二週間もいなくなってたことになってたから迂闊に行けないんだよね」
「それならここから行けばいいんじゃないか? ほら忘れられた記憶の断片の中じゃと現実では時間が過ぎないんじゃろ。もしかしたらカイルムに行ってもそのままかも知れん。現実とは違う時間軸ならこんな非現実的なことも可能じゃろ。忘れられた記憶の断片も同じぐらい非現実じゃからな」
じいちゃんの考えはもしかしたら本当かも知れない。でも、忘れられた記憶の断片からカイルムにテレポートしたところで時間軸ごと移動できるなんて可能なのか。それとも、忘れられた記憶の断片の中にいるままカイルムにテレポートするから時間が止まったままになるのかそんなことを考えていると頭の中がこんがらがってきた。でも、試してみる価値はあるなと思った。このまま一生謎のままでいるか検証するかなら迷わず検証して少しでもモヤモヤを減らすのに尽力する。
「それじゃあ試しに一瞬だけ行って、ここじゃなく現実に戻ってみる。これならカイルムでの時間と現実の時間の差が分かるし、忘れられた記憶の断片の特異性も少しは理解できるだろうから」
「そうか。儂にもどうなったか教えてくれよ。一魔法使いとして気になるからの」
「分かった。それじゃあ試してくるね」
俺はカイルムを思い浮かべて空間の切れ目を作り出した。中に入ると懐かしのカイルムの光景が目に映った。そして、すぐ自室を思い浮かべて空間の切れ目に入った。その結果、現実の時間は変動していなかった。つまり忘れられた記憶の断片の時間が経過しないという時間軸が適応されたのか、一瞬なら現実とカイルムの時間軸の変化は無いかの二つが考えられる。ひとまず検証するためにじいちゃんの所に戻った。
「どうじゃった?」
「本当に一瞬だけだから分からないことが多くて、もうちょっと長くカイルムにいることにする」
「そうか。くれぐれも長居しないようにの。五分ぐらいならそれほど影響は無いじゃろ」
「分かった。とりあえず五分ぐらいいてみる。それで現実で時間が過ぎてたら忘れられた記憶の断片の時間が止まってるのはカイルムで反映されないってことになる。重要なのは現実で進んでた時間だから、諸々全部終わったら報告するよ」
「期待しておるぞ」
再びカイルムへの空間の切れ目を作り出しカイルムに降り立った。自分の頭の中でとりあえず三分間数えてみることにした。三分間数え終えると自室への空間の切れ目を作り出した。その間龍王がやってきたりすることはなくただ数えていただけで体感三分より短く感じた。自室に戻ると、時計の針は約三分しか進んでおらず疑問に思った。とりあえずじいちゃんの所に行き何があったのか伝えることにした。
「どうじゃった?」
「カイルムに着いたら頭の中で三分間数えてみたの。そして、現実に戻ってきたら大体三分経ってた。つまり、忘れられた記憶の断片の時間軸が適応される説は無くなって、カイルムではちゃんと時間が流れてる。でも、前と違うのはちゃんと現実と進んだ時間が同じってこと。前はカイルムの時間が現実よりずっと遅くなってたのに今回は違う。何か決定的に違うことがあるんだろうけど……」
「もう龍王に聞いてきたらどうじゃ? テレポートの魔法の名前を聞きに行くついでに」
「確かに。それじゃあサクッと行って帰ってくるね」
「遅くなり過ぎんようにの」
「はーい。行ってきまーす」
再度カイルムへの空間の切れ目を作り出しカイルムに行った。一秒でも早く龍王の所に行くために風魔法で高速移動した。前龍王と条約を結んだ所に行くと、黄金のオブジェに龍王が巻きついていた。これがデフォルトなんだと思っていると龍王が話しかけてきた。
「思っていたより早い再訪だったな」
「龍王、今日は聞きたいことがあって聞きに来たんです。テレポート出来る魔法の名前とカイルムの時間について教えてくれませんか?」
「そんなことか。テレポート出来る魔法はお前たちの言葉でヤンウェイと言う。そして、カイルムの時間は体感時間で変わるのだ。だから人によって全く異なる時間の流れを感じている。ただそれだけのことよ」
「そういうことだったんですね。ありがとうございました。また遊びに来ます。その時はまたよろしくお願いします」
「ああ。いつでも遊びに来るがいい。稽古でもなんでもつけてやる」
俺は自室にヤンウェイでテレポートした。すぐにじいちゃんの所に行った。
「どうじゃった?」
「テレポートする魔法はヤンウェイって言うらしくて、カイルムは体感時間がそのまま時間の流れになるんだって。でも引っかかったところがあって、龍王が人間の言葉ならヤンウェイって言ってたから龍たちの言葉なら違うのかも?」
「確かに龍たちの言葉も知りたいの。でも、人間に発音出来ない言葉かも知れんしそこまで気にすることでもないの」
「そうだよね。龍の言葉なんて理解したところでこれからの人生ほとんど関わり持たないだろうし。龍王とは普通に話せてるから別に龍の言葉理解する必要ないしね」
「そうじゃな。それじゃあもう疑問に思ってることはないな?」
「うん。相談乗ってくれてありがとう」
「いいんじゃよ。また困ったらいつでも頼ってくれ。儂は健ちゃんのじいちゃんじゃからの」
「うん! それじゃあまたね」
気になっていたこと全部解決できて心がスッキリした。なんか喉に刺さってた魚の骨が取れたみたいな感じで今日はよく寝られそうだと思った。その時ふと時間を見てみた。龍王と話してる間にどれぐらい経ったのだろうと思ったが、針は二分ほどしか経っておらず本当に体感時間がそのまま時間の流れになるんだと再認識した。
次回もお楽しみに




