第十七話 偉大なる!ラーメン職人様ぁあああ!!
坑道は平和だった。
相変わらずスライムはウゴウゴと這っているが、
敵意のある生物はいない。迷子にならぬ様、カラースプレーで壁や床に目印を着けつつ奥へ、奥へ。
毒煙の異臭もだいぶマシになっており、いずれ消えてゆくであろう。
蟻の死骸も一つも無かった。
全てあの広場に逃げて、死んだのだろう。
分岐からの分岐…
完全に迷路だ。
簡単なマップを作りつつ、
スライムも適度に採集しつつ…
遂に俺たちは最奥に辿り着いた。
沢山の横穴が集まった広場。
その中央。
そこには、見上げるほど巨大な──蟻の、動かぬ死骸が鎮座していた。
「……コイツは、デカすぎて逃げられなかったわけか」
おっさんは、腰に手を当てて小さく呟く。
女王蟻──とか、そんなところだろうか?
トゥエラが、ナイフをひと振り。
ズバリと切り裂かれた腹部から──
ずりゅりゅ……
ゴトリ。
一際大きな魔石が、重い音を立てて、床に落ちた。
「すごい……魔力……!」
テティスは思わず、胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。
魔石からは、じわじわとした熱と、ピリピリするような圧が広がっていた。
まるで、周囲の空気そのものを振動させているかのようだ。
(……これ、どうやって持ち帰るよ)
魔石は大型犬ほどのサイズがあり、色は深紅に黒を滲ませたような異様な輝き。
触れるだけでも、身体がビリビリと痺れそうだった。
おっさんと娘たちは、顔を見合わせ──
そして、同時に、小さく頷いた。
「ブルーシートで包むか。」
全ての設備を回収し、親子は静かに鉱山を後にした。
無数の蟻の死骸は──魔石だけを抜き取られ、あとはそのまま放置されている。
「毒殺したやつなんて……食えねーしな」
苦笑まじりに呟きながら、俺は背中をぐっと伸ばす。
のっし、のっし、と。
竜の牽く台車がゆっくりと進み──
やがて、寂れた村の輪郭が、遠くに見えてきた。
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村の入り口まで辿り着くと──
なぜか妙に肌ツヤのいい、テカテカした村人たちが、ぞろぞろと集まってきた。
(俺、別にラーメンフェスのイベント屋じゃねぇんだけど……)
小声でぼやきながら台車を止めると、その中から村長が歩み寄ってくる。
「炭鉱は──ひとまず安全になりましたよ」
おっさんは穏やかに挨拶し、これまでの経緯を簡単に説明していく。
スライムの魔石、巨大アリの死骸、そして毒ガスの騒動まで──
すると、話を聞いた村人たちは、一様に目を見開いてざわめき始めた。
「信じられねぇ……」
「そんな、炭鉱が……?」
中には顔を青くする者や、驚いて口を開けっぱなしの者もいる。
「縦穴には、降下用の縄梯子を残してきましたんで。確認されるなら、どうぞ」
俺の一言で、村長がうなずく。
すぐさま、指示を受けた若者たちが数人、意気込んで炭鉱へと走っていった。
自分たちだけ腹を満たすのも、なんだか気が引ける。
そこで、おっさんは残っていた肉や魚介類を、惜しげもなく振る舞った。
結果──
村の広場は、あっという間に異世界バーベキュー大会と化す。
大皿に盛られた食材がどんどん炭火で焼かれ、香ばしい煙が立ちのぼる。
さらに──
焼酎をまるごとサーバーにセットし、ドリンクバー形式にすると、
「こ…これは……!」
「なんという洗練された酒……!?」
村人たちは目を見開き、ありがたそうに一杯一杯を注いでいた。
ワイワイと、酒と炭火の香りに包まれたバーベキュー大会。
肉が焼ける音、娘たちの笑い声、村人たちの歓声。
おっさんは椅子にふんぞり返って、焼酎サーバーを片手にドヤ顔をキメていた。
──そこへ。
「戻ったぞーっ!!」
偵察に向かっていた若者たちが、村の外れから姿を現す。
その後ろには、引きずられるようにして運ばれてくる──
巨大な蟻の死骸。
村人たちはざわめき、村長が一歩、二歩とそれに近づく。
「……間違いない。これは……かつて鉱山を奪った、魔蟻だ……」
若者たちが語る、坑道内の静寂。スライムの処理、毒霧の痕跡、女王蟻の死骸。
まるで夢物語のようなその報告に、村人たちは一瞬、呆然と──
そして、次の瞬間。
「うぉぉおおおおおおっ!!」
どよめきが爆発し──
おっさんと娘たちの目の前で、
村長を筆頭に、村人全員が土埃を巻き上げながら五体投地で平伏した。
「──命の恩人ッ!!」
「鉱山を……我らの村を、取り戻してくださった……!!」
「偉大なる!ラーメン職人様ぁあああ!!」
「いや、そっちじゃねぇだろ!!?」
おっさんの渾身のツッコミが、村の空にこだました──。




