死剣 人取り 2
強い。
この場合、そう称するのは果たして正しいだろうか、なぜならば、それは戦いと呼ぶのも烏滸がましい、一方的な虐殺であったから。
いや、幽鬼の如く揺らめきながら戦うこの男には、殺意があるかどうかすら怪しいものだろう、なので、この状況を目の当たりにした御用猫の浮かべた感想とは。
(麦穂を……いや、雑草だ、草刈り、だ)
けもの道を歩く猟師が、邪魔な小枝を打ち払うかの如く、無心、無関心。
瞬く間に一人となった襲撃者はしかし、逃げる様子もなく、構えた剣も下ろさない、どうやらそれなりに気合いの入った剣士であるようだ。流石に距離こそ置いたのだが、そこからは何するでもなく、じりじりと横に周り始める。
気持ちは分かる、と御用猫は、名も無き襲撃者に同情するのだ。これ程の腕前を見せられてしまえば迂闊に飛び込むことも出来ず、しかし、じっと待てば重圧で足が竦むだろう、どうにか身体を動かす他には術がないのだ。
次の瞬間にも決するかと思われたこの戦いであったのだが、仕舞を付けんと前に一歩踏み出したガンタカは、どうしたことか動きを止めると、苦悶の表情をその顔に張り付けて胸を押さえるのだ、ぐぅ、と呻きその場に膝をつく。
それを見て、一瞬、戸惑った様子を見せた襲撃者であったのだが、好機とばかりに剣を振り上げると。
そのまま後ろに倒れた。
喉元には御用猫の脇差が、半ばまで突き刺さっている。
「大丈夫か? あんた」
念の為に、ガンタカの間合いの外から声をかける御用猫に向け、幽鬼の如き剣士は、脂汗で、びっしょりと濡れた顔を顰めながらも、なんとか頷くのだ。
「……すまぬ、助かった、某は、ぐっ」
苦しそうに蹲る男の背なを摩りながら、御用猫は何か無いか、あったはずだと、慌てて雑囊を降ろし、中身をまさぐった。
幽鬼こと、剣士ガンタカ ホンワカは、水の入った竹筒から口を離すと、ようやく人心地ついたものか大きく息を吐く。御用猫の手持ちには草エルフから購入した鎮痛剤があったのだが、これが功を奏したのだろう。
「……病気なら、腕のいい治療師を紹介しようか? まぁ、暴利ではあるけどな」
コイツで脅せば何とでもなるぞ、と御用猫が腰の刀を揺すって見せると、ガンタカは生気のない顔にて薄く笑う。
「いや、寿命だ、気にするな」
「そうか」
もうひとつ、ゆっくりと息を吐きながら立ち上がったガンタカは、死体のひとつを指差すと。
「それは賞金首だ、詰所に届ければクロスロードでも五十万にはなるだろう、今の某には、このくらいしか礼が出来ぬ、許して欲しい」
その死体は知らない男だが、百万以下の木っ端首を取らぬ御用猫には興味がない、そもそも、他人からの施しを嫌うのが野良猫というものであるのだ。
「気にすんな、それに、俺は賞金稼ぎではあるけどな、他人の取った首を換金しない主義なんでね」
「む、そうなのか」
ああ、と御用猫が頷くと、ガンタカは髭の生えた顎を掴み、何やら考え始めた様子を見せる。
「貴殿に、ひとつ、頼みがある」
やっぱりか、と、御用猫は天を仰いだ。
何やら嫌な予感を、ひしひし、と感じてはいたのだが。
「この首を」
ガンタカは筋張った首を傾け手刀を形作り、とんとん、と自分のそれを叩いて見せた。
「貴殿の仕事に、しては貰えぬだろうか」
「はぁ? 」
少々間抜けな返事をしてしまったが、御用猫の見る男は、真剣な表情を微塵も揺るがす事が無かったのだ。




