死剣 人取り 3
「……介錯には、まだ早いんじゃないのか? 」
クロスロードへの道すがら、御用猫はこの奇妙な道連れに尋ねる。
「もちろん、今すぐに、とは言わん、これでも某には、まだ心残りがあってな」
「おっと聞かねえよ、最近は面倒事ばかりなんだ、帰ったら怠惰な生活を送りたいんだよ」
御用猫は、わざとらしく両耳を抑えると、それに、と続けた。
「なんの話か知らないが、それを聞いたら斬りにくいだろ」
「確かに」
ふふ、と覇気のない声にてガンタカが笑う、だが、その落ち窪んだ目だけが笑っていないように見えて、御用猫は不気味さと恐怖を覚えるのだ。
「とはいえ病や、そこらな闇討ち屋に命をくれてやるのも惜しいものだ、大願果たした暁には、恩人に首を渡すのが、すっきりとするのだがな」
どうやらガンタカの首には、それなりの値が付いているらしい。長らく西方都市国家群にて闇討ち屋を続けていたが、己の死期を悟り、未練心残を片付けにクロスロードへ向かうのだという、先ほど襲って来たのは、かつての仲間である闇討ち屋の手の者だとか。
ガンタカ程の手練れである、今さら足抜けするには色々と、知っていてはならぬ事、が多過ぎたのだ、口封じに追手が掛るのも当然のことだろう。
「まぁ、繋ぎが取りたきゃ、南町のマルティエの亭か、いのやで聞いてくれ、飯くらい奢るさ」
「飯か……何時の頃からか、もう、味も分からんのだよ」
何の病かは知らないが、ぞっとしない話ではある、食事の味がわからないなどと、御用猫にとって恐るべき苦患以外の何物でもないのだ。
「味はともかく、もう少し食っておいた方が良いぞ、大願宿願、成就の為には体力が一番大事だろ」
御用猫の言葉に、ふとガンタカは、その足を止める。
「どうした? 」
幽鬼は、御用猫の訝る視線から目を逸らすと。
「いや、労りの言葉など、何年……いや……」
「なんだよ、気持ち悪い」
くふふ、とガンタカは笑う、まるで肺から直接に空気が漏れているのではないかと疑うほどに、生気の抜けた声であった。
「無駄な人生だったよ、なんとも、無駄な、どうしようもない……つまらぬ男だったのだ、某は」
だが、と幽鬼は息を吸う、呼吸だけは確かにしているようであるが、これはガンタカにとって、久方ぶりの深呼吸であったのだ。
「つまらぬと、認めてさえしまえば、なかなかに気分が良いなぁ」
「……わからんな」
「それが良い、それが」
御用猫は、幽鬼の歩みに合わせ、ゆったりとクロスロードへと向かう。
ついにその曇天の、晴れる事はなかった。




