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EP 17

【合流】陸の孤狼と、影の立役者たち

『――我々出雲艦隊は、これより日本国からの完全な独立を宣言します』

東京・港区のタワーマンション。

全モニターをジャックした美月の宣言を見届けた力武義正は、満足げに赤マルの煙を吐き出し、キーボードの『Delete(削除)』キーを力強く叩いた。

バチッ、と音を立てて、数台のサーバーから白煙が上がる。

彼がこの部屋に構築していた、日本国内のあらゆる裏口座やハッキングの痕跡を物理的に焼き切る自爆プログラムだ。

「さて、と。最高の『ざまぁ』も決まったことだし……俺たちも、泥舟(日本)からオサラバするとしようか」

力武は、ボストンバッグ一つだけを肩に担ぎ、燃え盛る部屋を振り返ることなく後にした。

出雲が独立を宣言した以上、政府や内調(狗飼)が、裏で糸を引いていた力武やリベラを国家反逆罪で血眼になって探し出すのは時間の問題だった。

土砂降りの雨が降り続く、房総半島の対艦ミサイル陣地。

血の海と化したコンクリートの上で、坂上信長は薄れゆく意識の中、冷たい雨粒を見上げていた。

全身に数発の銃弾を受け、感覚はとうに麻痺している。

(……親父たち、無事に抜け出せたか……)

防衛大を出て、父の威光から逃げるように選んだ「陸」の道。

だが結局、最後は父の艦(出雲)を守るために地獄を這い、使い捨ての駒のように死んでいく。皮肉な運命に、信長は力なく笑おうとした。

ダダダダダダッ……!

その時、雨音を切り裂くように、真っ黒な大型のステルスヘリコプターが上空に舞い降りてきた。

機体には自衛隊のマークではなく、優雅な『桜の紋章(桜田財閥)』がペイントされている。

ヘリからロープが下ろされ、完全武装の黒ずくめの部隊が次々と降下してきた。

彼らは一切の無駄のない動きで、気絶している特務隊員たちを制圧し、倒れている信長の周囲を確保する。

「……遅くなりましたわね、信長君。淑女をこんな雨の中で待たせるなんて、感心しませんわ」

黒い傘を差した女が、ヒールの音を響かせて歩み寄ってきた。

桜田リベラ。彼女の背後には、ボストンバッグを担いだ力武もいる。

「……アンタら……なんで、ここに……」

「決まってるでしょ。私たちが創る『国』の重要な防衛大臣ちからを、こんな陸の孤島で見殺しにするわけにはいきませんもの」

リベラが指を鳴らすと、元レディースの精鋭からなる桜田財閥の私兵たちが、素早く信長をストレッチャーに乗せ、応急処置を施し始めた。

「おいおい、筋肉バカ。最高級の赤身肉ステーキを奢れって言ったのはお前だぜ。死ぬなんて契約違反は許さねえぞ」

力武が、信長の口元にキャンディを押し込みながらニヤリと笑った。

「……あめぇよ、力武……。俺は、ステーキが……」

信長は微かに毒づきながら、完全に意識を手放した。

「全機、撤収! これより我が社の『要救助者』を搬送しますわ!」

リベラの号令とともに、黒いヘリは信長たちを乗せ、雨の房総半島から漆黒の太平洋へと飛び立った。

数時間後。

夜が完全に明け、朝の光に包まれた公海上の『出雲』飛行甲板。

強風を巻き起こしながら、桜田財閥のステルスヘリがゆっくりと着艦した。

甲板には、深野美月、早乙女蘭、平上雪之丞、そして坂上真一ら、出雲のコアメンバーたちが集まっていた。

ヘリのハッチが開き、力武とリベラが降り立つ。

そして、医療用カプセルに入れられた信長が、医療班によって慎重に運び出されてきた。

「……陸のモグラが。死に損ないおってからに」

坂上真一が、カプセル越しに眠る息子を見下ろした。

口調こそ広島弁の毒づいたものだったが、その分厚い手はカプセルのガラスにそっと触れ、かつてないほど優しく震えていた。

「提督。信長君のバイタルは安定していますわ。弾は急所を外れていました。あとは、彼自身のバカみたいな……いえ、強靭な生命力次第です」

リベラが、優雅にお辞儀をしながら報告した。

「……恩に着るぞ、リベラ。それに、力武」

坂上は、二人の若き立役者に向かって、深く頭を下げた。海自の猛将が、民間人の若者に頭を下げるなど、通常ではあり得ない光景だった。

「やめてくれよ、提督。俺たちは、俺たちの算盤に従っただけだ」

力武は照れくさそうに頭を掻き、そして、真っ直ぐに美月の方へと歩み寄った。

内閣府の官僚時代からの飲み仲間。

だが、こうして「反逆者」として顔を合わせるのは初めてだった。

「……よぉ、お姫様。随分と派手にぶち上げたな」

「力武さん。リベラさん」

美月は、感極まったように声を震わせ、二人の手を強く握りしめた。

「あなたたちがいてくれなかったら、私たちは海の底でした。……私たちの『国』へ、ようこそ」

「ああ。……で、財務大臣の椅子はどこにあるんだ?」

力武のジョークに、張り詰めていた空気が一気に緩み、周囲から笑い声が漏れた。

「でも、ホントに全員揃っちゃったね」

蘭が、キャンディを舐めながら背伸びをした。

「暴力を司る坂上親子。空の天才の雪之丞。お金の力武くんに、法律のリベラお姉さま。そして、システム。……完璧なバグの寄せ集めだよ」

「ええ。これなら、世界中どこを相手にしても戦い抜ける」

美月は、見渡す限りの青い海と、自分を信じてついてきてくれた怪物たちを見渡した。

「……おどれら、感動の再会はそこら辺にしとけ」

坂上が、腕を組みながら海を睨みつけた。

その視線の先、水平線の向こうに、いくつかの小さな光点が現れていた。

「世界は、ワシらがゆっくり休むのを許しちゃあくれんらしい」

出雲の独立宣言を受け、様子見をしていた近隣諸国の偵察機や、非公式の武装船団が、早くもこの新しい「獲物」の品定めのために集まり始めていたのだ。

「フッ、休む暇もないねえ。ま、残業代ボーナスが出るなら飛んでやるよ」

雪之丞が首を鳴らし、ヘルメットを小脇に抱える。

「さて、財務大臣の初仕事と行こうか。弾薬と食料の追加発注だ」

力武が端末を開き、リベラが「国際法上の正当防衛のガイドラインを引きますわ」と微笑む。

美月は、力強く頷いた。

「行きましょう。私たちの『朝』を守るための、最初の防衛戦です」

海に浮かぶ、たった一隻の独立国家。

彼らの血湧き肉躍る「国造り」と、世界を相手にした真の闘争が、今、太陽の下で始まった。

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