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転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
ダンジョン攻略編

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酒抜きのダンジョン深層(2)


 快進撃が続いている。

 巨大な牛の魔獣の群れが一本道を爆走している迷宮、広大なフィールドでレッサーデーモンの軍勢をグレーターデーモンが使役する闘技場、スライムの海城。戦うほどに、負傷するほどに、アポスタータの面々も、イザベッラやアキベエルも、強くなる実感があるので強敵を前にするほどテンションが高くなっているのだ。


 良くない。不健康だ。ヨランタが望んだ展開ではあるのだが、そう計画するのと、自分の手でやってみて眼前にその風景が展開されるのとでは大きくお気持ちが異なる。古馴染みの友が自傷行為しているようで普通に引く。

 正直、すこし焦っている。もうちょっと気軽に神様が出てくると思っていたのだ。そうしたら、完全制覇はやっぱりちょっと難しかったね、となっても一応の格好がついたはず。それが無いので、引き際を失っている。今でも、引き返しててくてく歩いて脱出しよう、とするにも安全ゾーンを越えてる。


 メンバーは、リューンやアリーシアさえまだまだヤル気だ。ヨランタだって諦めたいわけじゃない。少々神経質になっているのかもしれず、やはり知り合いたちのリーダーポジションは気を使うものだ。




 周囲の意気揚々としたハイテンションがキマればキマるほど胃の奥に重いものが積もるヨランタ。ふと、注意力が散漫になった瞬間。

〚下がれ!〛


 叫びとともに、後方のタイタンが駆け出し、前方の味方を後ろに投げ飛ばしていく。

「狂ったか、化物!」

 先頭だったイザベッラの絶叫を残して、ダンジョンが崩落する。振動、轟音、降り注ぐ瓦礫、瓦礫、ドラゴン!



 天井が抜けて壁も崩れ、いきなり広大な空間になったダンジョンに、巨大なドラゴン! しかも2体。主戦力のイザベッラとタイタンは瓦礫の下。


 投げ飛ばされて呆然と地に転がっている者たちは唖然と、恐るべきそれ(・・)を見上げる。

 ドラゴン。神話ではどちらの神にも、人にもタイタンにもあらゆるものの敵である、神ではないが生き物でもない呪われた存在。2本の脚で立ち、2本の腕には刃のような爪を備え、背にはコウモリのような羽、大蛇のような尻尾をもつ半人的な巨躯で、飛翔して毒の風を起こし火を吐く。

 身体は白いウロコ、いや、装甲に覆われ、アンバランスに張り出した顎には鉄塊をも噛み割りそうな牙が並ぶ。これは、格が違う。と、誰もの脳裏に危険信号がひらめく。しかも2体同時に出現など、どうしようもない。


 ここは、横をすり抜けて逃げて先に進むのが正解ルートなのだろう。今までも、いちいち全てのモンスターを狩り倒して進んできたわけでもない。問題は、混乱の末に崩壊した空間で、どちらが後ろでどちらが前かさえもわからなくなっていること、それに……


〚どばあぁァッッッッ!!!〛


 さらに突然、瓦礫の山が吹き飛び、舞い上がり、ドラゴンにもヨランタたちの上にも降りそそぐ。

「タイちゃぁん !! 」

 積もった瓦礫を吹き飛ばして立ち上がったのは、タイタン。しかも、元の巨人サイズ。ドラゴンよりさらに数メートル大きい。叫びながら、いきなり手近な方のドラゴンの顔を殴りつける!


 これでは、怪獣戦争だ。いきなり神話世界だ。人間が手出しできるレベルじゃない。それより! と、ヨランタが頭をかばいながら、降りそそぐ瓦礫の中を走る。「イボンヌ、生きてる!?」



 後から追いついてきたユリアンと(ユリアンが)瓦礫を掘り出し、捜索し、怪獣戦争の巻き添えを喰らわないようにしながら見つけ出す。


「あぁ…ここは…いったい…」


 タイタンに守られてたとはいえ、無傷ではなかった。しかし、命があれば助けられる。非常時でなければ、とイジワルに思うものがないわけでないが、怪我を治して意識をシャンとさせる。


「最初から全部タイタンで良かったんじゃないかな…」


 隣で、ユリアンが肩を落として立ち尽くしている。タイタンがドラゴン2体を抑え込んでいる。殴る、蹴る、踏みつける。敵も頑丈で、効いているのかどうか不明。

 タイタンは血を流さない。汗もかかない。これまでも敵の攻撃を受けて身体を裂かれることがあっても、ヨランタの魔法が癒しているのか、自然に治っているのかわからなかったりはしていた。ドラゴンも同じく、殴られた跡が腫れる、体液が飛ぶような生々しさがないので現実感が足りない。

 この風景を見ているだけで、今までずっと夢を見てきたんじゃないかと思えてくるほど。呆然となりかけたユリアンを引き戻したのは、遠くからの仲間の警告の声。応えて、ユリアンが叫ぶ。

「ヨランタ、イザベッラ、退くぞ!」



 ヨランタは強引に肩を掴まれて、アレッ?と思う間もなく運び去られようとするところ、

「ふざけるな! 私は戦うぞ、ヨランタ、来い!」


 反対側から手をとられて引っ張られるヨランタ。思わず「きゃぁ」なんて可愛らしい音が口から漏れてしまう。


 イザベッラは、やる気だ。以前にタイタンを退治してやるとか言っていたのはそういう自負であり、やればできると思っていたのだ。身の程知らずだったかもしれない。しかし今ユリアンが言うようにこれをタイタンに任せることは負けを認めることだ。どうしてそんなことができようか。

 もちろん今タイタンと争う気はない。ドラゴンだって立派な神の敵だ。せめてこちらには一太刀浴びせて、かなうなら(たお)したい。己の生き死にに勝る最重要課題が、ここにある。


 そうして、左右から引っ張られることをちょっと期待した緊張感に欠けるヨランタだが、ユリアン側の手があっさりと離された。

「そうだな! どうにかしてたぜ! ヨランタ、お前が必要だ、来い!」



 急に片方に引っ張られてよろめいたヨランタ。その腰に手を回されて支えられ、ユリアンの身長差50cmの胸、腰ほどもある鍛えられた腕に抱きとめられて「お前が必要だ」と耳元で喚かれては「それも悪くないかも」とドキンとしてしまう。2人の間に恋愛感情は欠片もないが、嫌いあって冒険者仲間ができるものでもない。生死の間での一瞬の気の迷い。

 そうしているうちに、タイタンは1体のドラゴンの首を締め上げ、その空いた背を狙うもう1体のドラゴンにイザベッラの刃が届こうとしている。

 後方からは仲間たちが「抜け駆けしやがって!」と、気を取り直して駆けてくる。ドロドロのバトルは佳境に入ろうとしていた。





 ドラゴンが2体、倒れている。死んでいる、と言っていいのだろうか。すくなくとも1体は首を断ち斬って、もう1体はタイタンが背骨を割ったうえで首を引きちぎってしまった。さらに動き出す様子はない。

 こちら側では、アリーシアのクマが主を炎の息から守って灰になってしまった以外、なんとか皆、命を保って戦い抜いた。アリーシアが顔や体中を灰まみれにして泣き伏しているので雰囲気は鎮痛だが、やりきった虚脱感がある。皆で、ドラゴンスレイヤーだ。


 さて、これからどうしよう? と、誰かが言い出すことを誰もが待っている。ここはあまり長く落ち着いていられる場所ではない、とリューンの占いにもでている。このドラゴンを解体して素材を持ち帰ろうとするなら数日はかかりそうだ。先に……進めるだろうか?


 皆が途方に暮れて視線を交わし、外す。と、何の前触れもなく、もう1人の人影が増えていた。




『 よくやったものだ。まだ、その時ではないはずだったのだがね 』


 少年とも少女ともつかない、不思議に神々しく感じられる声。その声にヨランタは覚えがある。なのに、その姿はヨランタ。ただ、ツノが現在の100倍も立派だ。瞳も、異様な光を放っている。

 ヨランタのツノも、ダンジョンの中で力を無制限に乱発したので、今までは親指の第一関節程度の大きさだったものが人差し指から薬指まで束ねたくらいに育っている。眼の前の存在のツノは前腕部一本より立派だとしても。



「…神様?」


『 うむ。先程までマーチンと遊んでいた。マーチンはこの姿がお好みのようだ。

 …で? この先、ცხვარიどもはどうしたいのかね。タイタンなら〝指〟の先のにあるものはわかっていよう? 』


〚 指の先には手のひら、そして手首を通れば本格的にその中に入っていくことになるな 〛

「何を言ってるの?」


〚 この先はヒトちゃんに言葉で伝えられるような領域じゃないかも、ってこと。どこにもつながってないけど、何にでもつながってる、ともいえる。私たちは、そこでヒトちゃんが何をやってくれるかに興味があったんだけど 〛


〚 以前、この先までたどり着いた人間の勇者は、(おの)が前世だったイチノヘ=ユメという個人の人生の続きとあらゆる可能性と幸福を願って空間の揺れとなり、多層世界のイチノヘ=ユメをこの世に一度に召喚し果てた。

 因果が巡ってここに居るイチノヘ=ユメ、短い時間によくたどり着いたものだ。もし望みがあるなら、მე როგორც ღმერთიが聞こうか? 〛






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