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転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
ダンジョン攻略編

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ダンジョンで 武勇Cycle (1)


「しかし、まぁ、本当にこのダンジョンで?」

「入ってから文句を言わないの☆」 


 最初から異論が有りげなのは、メンバーの中でもダンジョンに詳しい冒険者パーティー〝アポスタータ〟で斥候役もこなす戦士・ツェザリ。他のメンバー3人も、やる気充分とはいえない表情だ。



「…つっても、わざわざ3つのうちのいちばーん不人気ダンジョンだぜ。俺等も不案内だしよぅ。」

 彼が言うには、タイタンが言うところの この第2ダンジョン〝城塞〟の名を聞いていろいろ腑に落ちた、と。いかにも(・・・・)なロマンが詰まった第1ダンジョン〝迷宮〟、高いところに登りたがるロマンにあふれる第3ダンジョン〝塔〟に比べると、〝城塞〟は かなり意地が悪いつくりになっている。

 その仕掛けも、定期的にある広大な階層で〝屋外フィールドから城に潜入ないし突破して下層へ向かう〟〝モンスターに包囲された城から脱出して下層へ向かう〟〝モンスター同士の戦争の混乱をくぐり抜けて下層へ向かう〟など、人数が多いほど不利になる面倒なシチュエーションが多い。これも〝城塞〟のダンジョンだとわかれば、まさにそういった状況を体験させられるミッションなのだった。



 そういう冒険に、彼らは望んで参加しているのではないか。という、タイタン・アキベエルのヨランダバアル神徒は軽い憤りが混ざった疑わしげな目を向ける。

 だが、肝心のヨランタは若干後ろめたそうに目を背けている。そしてイザベッラとリューン、聖堂関係者とその知人は、ヨランタに向けて軽い憤りが籠もった疑わしげな目を向けている。


 ヨランタが、彼女なりに勝算があるダンジョン制覇に向けてイザベッラを引き込んで行動する。と聞いて、黙ってもいられないのが聖堂の政治方面。

 元来、イザベッラはもう聖堂騎士の座からひっそりと退いていたはずだった日取りだった。が、もし史上未達成のダンジョン制覇がなされてしまった場合。聖堂を捨てた戦士が英雄になるのと、現役騎士がそれを成し遂げるのとで大きく影響が変わる。ので、イザベッラの退役はすでにお役所仕事としてうず高く積まれた書類仕事によって決まってしまっているのだが、若干期限を延ばして、いちおうまだ彼女は騎士身分を抜けられていない。

 それはそれとして、他にも聖堂関係者が加わっているべき。という判断の元、ファニー大主教のやや強引な決定のもと、アポスタータの4人も出世を確約されたうえで一行への参加を強要されたのだった。これについてはヨランタがファニーをそそのかした結果でも、すこし ある。


 そういうわけで、安定を求めてファニーに仕えることにしたはずの4人、最近嫁さんを田舎から魔都に連れてきて幸せなユリアン、去年からの恋人がいるのに結婚がなかなか決まらなくて焦り気味の女戦士レナータ、モニカに惚れられて大主教からこっそり死を願われているジグムント、特に何もないツェザリ、らは、後衛の護衛が仕事、その実はアリーシアの身だけを絶対に守れとの特殊任務を押し付けられている。

 なお、ファニーがヨランタの成功を既定の事実であるかのように語る理由は「女の勘★」だそうで、ユリアンはその瞬間初めて彼女に殺意を抱いたという。





 一行はダンジョンを進む。

 まだ浅い層なので、緊張感があるのはリューンとアリーシアくらいのものだったが、それも次第にアリーシアが抱える熊のぬいぐるみ・マルティネとの会話でほぐれていく。


 意思をもつぬいぐるみを見て誰もが戦慄するほどに驚いたが、それがマーチンからプレゼントされたものであること、その名が〝マルティネ〟であることについて「それ〝マーチン〟じゃん!」と女子たちからツッコミが入り、一気に場がくだけたのだ。

 マーティン、マルティネス、マルタンなどはみな軍神マルスにちなんだヨーロッパ各地語の名。また、その名を持つ聖人マルタンから思慮深さ・利他心の意味も、こちらの世界では込められている。ナーロッパ世界の欧風名でその辺はどうなっているのであろうか、「これはこういうものだ」で通すか「ヨランタなりイザベラなり、そういう祈りがこもった名をこちら欧風に翻訳してそうしているんだ」とするか、こればかりは読者様のお好きに受け止めていただきたい。


 とにかく、ぬいぐるみに〝მარტინი(マーチン)〟と同じ名をつけて抱きしめて頬ずりしてチュッチュしている女児のメンタルを大人たち(タイタンも含む)が本気で心配し始めたのがここからだ。

 グループ内で共通の被保護者を抱えることは結束を固める良い効果がある。シンボル、マスコット、あるいは、神。

 今回の場合、アリーシアを守るべき中央下段に配置して、後方には意外に戦えるアキベエルと非戦闘員のリューン、殿(しんがり)に不動の守護神・タイタン、左右をレナータとジグが支えて中央上段にユリアン。前線をイザベッラとツェザリが警戒。ヨランタは遊軍。

 浅層階は良い緊張感をもってサクサクと進んでいく。


 予想外に役に立っているのが、マルティネ。理屈はわからないが、このぬいぐるみはモンスターが潜む位置も罠の箇所も見抜けるようだ。リューンの占いも、微妙な判断を要求されたときにピタリと当たって頼もしい。



「斥候、いらなかったかもなァ…」

〚 どうだ!ヨランダバアル神の加護はすごいだろう? 〛

「アリス姫、得体のしれない、加護とやらは程々にしておいたほうがいいぞ。お姉さんたちに任せておきなさい。」


「(いえ、役に、たたないと…)」

「ご覧、ヨランタを。ダンジョンに入ってから今まで、何もしていないだろう? 今までのマルティネの働きでじゅぅーぶん誰より役に立っているともさ。」


「ひどい。私は深い階層に入ってからが出番だからね、誰も怪我しない浅い階層じゃ仕事がないのよ。アリーのそれだって、べつにマルティネがしなくたって大人に任せてても一緒だったんだ。」


「こらヨランタ、子供に当たるな。お前ホント母親失格だな!」

「フーン。ここには結構な年増女が集まってるけど、母親合格できる女がいるとは思えないね!あ、タイちゃん以外。タイちゃんはお母さん検定大合格だからね。」

〚 ヒトちゃん、愛してるよ… 〛


「むむ。タイタンは母親検定の受験資格自体が無いだろう。何を言ってるんだ。」


「(あの、イザベッラお姉さん、…、いや、もういいです。)」

「狂狼さん、無駄口たたきながらゴブリンの首を刎ねるのはさすがにどうかと思う。緊張感ねぇなぁ。」





 なおもダンジョンを危なげなく進む。そろそろ中層な半ばも過ぎるだろうか? というところで、


「あらら、お姫ちゃん大丈夫? もう、おねむ?」

「無理もない、かなり歩いたからな。疲労の回復魔法にはかなり助けられているが、人間には定期的な睡眠が必要だ。」


 フラフラしてきたアリーシアを支えるリューンとアキベエル。まるで3人の親子のようだ、まぶしいな。とユリアンは思ったが、口には出さない。出したが最後、またどんな喧騒が沸き起こるやら。そのかわりに、

「じゃあ、ここらでいったん休憩をとろう。大休止!飯だ!」



 別にユリアンが仕切る権限はないのだが、リーダー慣れした風格があるし、普段のヨランタも率いられている立場だったから、今回もそうする義理など無いのだが。つい「はぁい」と従ってしまってから我に返って「あれ、なんでコイツが号令をかけたんだ?…ま、いいか」と納得しつつもいまいち要領を得ないヨランタ。

 身分と立場、指揮官馴れの練度でいえば最上位なのがイザベッラだが、ダンジョンで休憩できる安全地帯の勘があるはずもなく。そういう判断はすっぱりと冒険者たちに任せている。狂狼の二ツ名が相応しくないものわかりの良さは、彼女の進歩か、(おとろ)えか。


 それぞれ思うところはあっても、休憩と食事は戦いの重要な一要素。飲まず食わずでは戦えない。途中の小休止では水くらいは飲んだし、飴玉なんかも街で手に入る。水だってイザベッラの水魔法製で、余裕があるうちは持ち込みの水は節約できる。


「イボンヌ様のご聖水は有り難くいただきますとしまして、」

「感謝が足りんぞ。」

「ディナータイムだからお酒が出ます!」

〚 おっさっけ!おっさっけ!〛


「待て、貴様、タイタンの荷物がやけに多いと思ったらどんだけ…」

「愛染明王様のおかげだね☆ 初日はマーチンのお弁当があるよ!」



 実は、今日の集合前にイボンヌにあげた呼び込み明王を借りて、いろいろ持ち込んでいるのだ。

 そして冒険初日の夕食は、湯煎する斉藤のご飯とちょっといいザギンレトルトカレー、タッパに詰めたお手製のとんかつ。それで足りないだろう体育会系には袋のラーメンと切れてる焼豚のパック。栄養とかじゃない、今日明日戦う者のためのカロリー飯。


 そしてお酒は〝武勇Cycle〟。自転車乗りのための日本酒、という説明にマーチン自身も首をひねったものだが、そういうことで、かどうか、アルコールは気持ち控えめの14度。体を動かしたあとの食中酒であるらしい。


「酔うほどには飲めないって。9人に1合とちょっぴりずつ、ね☆

 あらヤダ、お店から離れたからラベルのニホン語が読めない。やっぱ、本格的にニホン語の勉強しよう。」

〚 がんばれヒトちゃん、文字にとらわれず世界を感じて。文字の向こうに意思が見えるはずよ 〛

「えぇ…」


「おーいヨランタ、湯を沸かしてこれをぶち込みゃいいのかー?」

「あ、開封しちゃダメなんだって!そのまま!そう!15分くらい。10分ほどしたらカレーも袋ごと入れて。」

「おい、それなら神聖な魔法の水でなくても良かっただろう! この蚤娘……」



「(無視)いやぁ、お外で働きながらとんかつカレーが食べられるなんて、いい世の中になったものだねぇ。」


 世の中は何も変わってなどいないし、今日の分だけとはいえ、旨い飯があることは誰にとっても最高だ。しかも酒まで。

 普段でも魔都の迷宮探索では、外のような〝干し肉の塩水煮・虫が隠し味〟とか〝水より腐りにくいだけのエール・呼吸を忘れる味〟といった冒険者飯ではなく、それなりのパンとハムにチーズ、水割りワインで冒険もできる。だとしても、とんかつカレー。やはりとんかつカレー。


「俺には、これであのカレーができるって半信半疑だがな。大将が言ってるんなら。もう15分かマルティネ? …よっ、と」

「(マルティネタイマーは役に立ちますネ♡)」


「ふん。お皿にご飯をあけて、…おぉ、できてる出来てる☆ カツを乗っけて、カレーの袋を開けて…おほっ☆ カレーだ、カレーの香りだ☆ こんなに簡単にカレー。マーチンめ隠してやがったな。ふふん。これから3食とドリンクはカレーだ! いただきまーす!」


「待て。皆のぶん揃ってないだろ。獣か!」

「そんな、坊さんじゃあるまいし。あ、イボンヌはまだお坊さんだね。でも、難しいことじゃないんだから自分でやってね。あ、タイちゃんのはやってあげるね。」







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マーチンが…あの日本酒に頭まで浸かったマーチンがジンベースのカクテルだっただなんて…!
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