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転移酒場のおひとりさま ~魔都の日本酒バル マーチン's と孤独の冒険者  作者: 相川原 洵
ダンジョン攻略編

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(冒険の前提とあらすじ)


 ダンジョンに挑む一行は、タイタンお出迎え組でもおなじみのヨランタ、聖女候補アリーシア、騎士イザベッラ、〝古い神〟の関係者・占い師リューンとエルフのアキベエル、それに戦士ユリアンを含む冒険者パーティ・アポスタータの4人とも駆り出され、さらにタイタンのタイちゃんまでもが加わった10人。


 まあまあの大所帯だ。古来、ダンジョン攻略隊が少数精鋭なのは理由あってのこと。


 ・大人数になるとレアアイテムの分け前が減るため、力の差がある未帰還者が発生したときにいちいち疑惑の種になること、

 ・数百人単位の攻略隊は過去数度あったが帰還例がなく、毎回かなり浅い層で遺品が多数回収されていることから経験則的に忌避されていること、それだけの人員を失った貴族家もその後滅んでいること、

 ・実力者ほど根拠なく次こそは勝てると自信に溢れているため数十人もで群れるのはダサいとする風潮が生まれたこと、

 ・狭い階層で多人数がいても効率的でないこと、逆に広い階層でゴブリン1万匹に出くわしたときに少人数ならやり過ごせるが100人パーティだと全面対決せざるを得ない。

 などなどの問題があって、3~6人程度、足並みが揃っても8人くらいが冒険者の定石になっている。



 今回は非戦闘員が女3人、なかでも幼児が1人。アキベエルは旅慣れて危険対処能力も高いが戦士ではない。さらに、強さに疑念の余地はないが冒険者のノウハウがないタイタンが1人。イザベッラも強さはスペシャルだがダンジョンは初潜りだという。


 この10人でダンジョンに初挑戦・初制覇を目論むのは無謀だと冒険者ギルドでは正気を疑われたものだが、脂が乗った中堅冒険者のアポスタータの4人は〝ひょっとしたら〟の希望を持ってしまっている。

 波に乗ったときは無謀がスッと通ってしまうことがある。慎重を期して何日も訓練している間に〝そういう時〟を逃してしまうこともある。彼らにとって正直、政治的な強制力が働かなければ逃げたい仕事ではあったが、もし、万一、成功すれば爵位をもつ正騎士身分への昇格が約束されている。ヨランタやタイタンの顔を見るに、必ずしも分の悪い賭けではない。




 仲良し十人組でもない。メンバーそれぞれの縁はヨランタと縦線で繋がっているとすれば、横線は実に頼りない。リューンとツェザリ、タイタンとアポスタータの3人は今日がはじめましてだし、アリーシアとアキベエルもまだ会話が無い。イザベッラはリューン以外と親しむ気がない。

 それでも、ヨランタは今回のダンジョン行に不安を覚えていない。ちょっとそこまでお使い、程度の緊張感だ。むしろ、これだけ揃って何がダメなのかわからないね、みたいな不敵な笑み。


 所詮、自ら剣を振るって戦いはしないヨランタにとって戦闘とはパラメーターの数字比べのように思えているのだろう。雄大な体格を誇る戦士たちから呪いのように「ちんちくりん」と呼ばれ続けた人生のいかんともしがたい辛みともいえる。

 その斜め後ろに、猫背になってようやく背丈が並ぶほどぐんぐん背が伸びているアリーシアを引き連れて、これから臨むダンジョンを睨む。「第2ダンジョン」タイタンが言うところの「城塞」「人差し指」の迷宮。


 企画としては案外なりゆきで今こうなった状況ではあるのだが、彼女なりに人生の集大成、勝負をかけた冒険だ。

 なぜ、そうなっているのか。一度ふりかえってみよう。





 ヨランタは寒村で元踊り子だった母のもとに生まれた。父は知らない。ありふれている問題にせよワケありだったのには違いない。ただ、生活力と家族愛は発揮されない環境で育った。

 回復術を学んだのは、餓えて村外れで拾い食いをして死にかけた8歳の頃に、ある老人に拾われたことで一命をとりとめたことによる。この老人は、後にヨランタがいろいろ総合して判断したところでは、神聖魔法の強化と効率化の研究を推し進めるあまりに道を踏み外し破門、あの村に流れ着いたらしい。今となってはどこにある何村かもおぼろげだが、流れ者が行き着くような地図に乗らない種類の村だったのだろう。


 危険視されるほどに強力な回復魔法を受け継ぐことができたのは運も才能も、幼いとはいえ女の子であったことも利したかもしれない。修行の日々は辛酸をなめ尽くした、とヨランタは記憶しているがなにぶんにも幼い日々の記憶だ。

 10歳を前に師が寿命と呼べる死にかたをして、家出して放浪生活に入る。ガラの悪い村を抜ければ意外に世の中には牧歌的に親切な人が多く、闇ヒーラーとしての振る舞いを牧歌的ながら学びつつ生き抜いていく。



 最初に聖堂の役人に闇ヒーラーとして取り締まられた11歳のときには、役人も牧歌的でほぼ形だけの拷問を受けて放逐された。ただ、この恐怖体験は彼女の中で増幅され、聖堂を不倶戴天とする思いを強く刷り込むことになる。 

 その後、ずる賢さをマスターしつつ再びヘマを踏んだ16歳のときにはその地方の聖堂役人の質も悪く、ヨランタの回復力でなければ確実に殺されていたほどの酸鼻を極める責め苦を味わう。ここに至って、拷問官個人ではなく悪の敵(主観)組織全体を呪うべき復讐ターゲットに選んだのは、特別な回復術に付随する呪術のノウハウの効果でもあるが、わりと意外な心根の優しさのせいもあるかもしれない。

 聖堂では人を殺すことを忌むため、弱らせた背教者は近場の川の川原で解放することが多い。飲まず食わずで虐待され続けた者は我慢できず川の生水を飲み、死にかけた肉に群がってくるサワガニをむさぼる。そして病んで死んで、セルフ死刑の完了となる。だがヨランタは生きた。


 そして半死半生で彷徨(さまよ)ううち、どこをどう辿(たど)ったものか、タイタンに遭遇して保護され、1年ほど幸せな共同生活を送る。

 ヨランタとしては一生この生活を続けたかったが、老いて死んだ自分をタイちゃんに片付けさせることに忍びず、また誓った復讐を自分の手でせずに終わることも許せず、やがて(たもと)を分かつ。


 その後も転々としつつ、いつしか潜り込んだ魔都で比較的安定した日々を送ることになる。飽くまでも比較的、で、良い出会いもピンチもありつつ、数年が過ぎて、かの店でマーチンと出会い 今に至る。




 マーチンの店を宿にして住み着いたり(魚のなめろうとから揚げと雁木)、日本体験したり(天ぷらと塩と聚楽第)、缶詰売りの副業を始めたり(辛いものと篠峯のどぶろく)、別の日本からの転移者イチノヘ・ユメを拾ったり(肉豆腐と田酒)、神罰を受けて日本に行けなくなったり(コロッケと鬼ころし)、穏やかではなくともゆるい日々。

 そのなかで最大のピンチ(ヨランタの受難と讃岐くらうでぃ)に際し、結局聖堂の政治に身売りする形で一身の安全を買う(寿司と剣菱)ことになった。

 ここでファニー大主教との取引で〝聖女〟に祭り上げられる面倒事が発生したのだが、肝心のヨランタが明らかに聖女に不向きだったり、ファニー個人の関心がマーチンに移ったりで、問題を曖昧にしながら時間が過ぎる(金山寺で万願寺とくどき上手)。


 そうしながらも、先日の日本からの転移者イチノヘ・ユメのパラレル世界版を弟子にしたり(蕗の薹と石鎚)、日本を知るエルフと知り合ったり(関東煮き と 賀茂鶴)、急に勤労意欲に目覚めたり(屋台料理と よこやま)、罰当たり行為の制裁でまた神罰を受けたり(神様関係と夏酒)、荘園でのモンスター災害の助っ人に出かけて信者を得たり(季節の果実と阿櫻もぎたて♥りんごちゃん)、神器で遊んだり(水無月とKIDで みぞれ酒)している間に、国際的にヨランタの評判が広がり始めたり(かき揚げと田光)、聖堂内の政治が大きく動き始めたりして、現状維持に限界が見え始めた頃にアリーシア、通称アリスが登場する(和梨だいふくと藍の郷)。



 彼女アリーシアの母親は、他国に嫁いだこの国の王女だったのだが、事前に国内で別の男との間に(アリーシア)をつくって隠していたという。この隠し事は発覚して他国との縁組は破綻。責任的に、アリーシア本人の罪はなく、アリーシアを処分すれば何かがどうなるというものでもないのだが、さりとて政治的に不可触の王族以外に誰かの責を問わねばならぬとなれば唯一、非認知の彼女を〝居なかった〟ものとでもせねば王国としてののけじめがつかない、という立場。

 その母姫の姉であるファニーは、件の娘を妹に頼まれ、あまりに不憫だとは同情しつつさてどうしたものか、と0.5秒ものあいだ長考して、マーチンに預けようとひらめく。


 で、そのアリーシアを見てひらめいたヨランタの奸佞邪知(かんねいじゃち)は、彼女に神聖魔法をマスターさせて鍛え抜き、聖女に祭り上げよう、という自分の身代わり作戦。

 ヨランタは面倒を避けられ、アリーシアは多くの貴族や僧から利用価値を認められることで身の安全の保証が得られる!という一挙両得狙い。

 上手くいくとも思えぬ姑息な手のようで、幼いながら後がない事だけは理解しているアリーシアが誰の想像も越えて早熟で賢い子だったので、作戦は上手くいくかに思えた。





 そもそも本作の愛らしいヒロイン・ヨランタの最終目的は、己の命と引き換えにしてでも神を呪い、聖堂を滅ぼすことだった。先述のようなよくない生まれに加えて、聖堂から弾圧されてきたのだから仕方がない。

 そういう陰性が曖昧になりつつあるのは、ひたすらマーチンにほだされているから以外に無い。憎むべきイボンヌのポンコツぶりを()の当たりにしつつ、ユメやモニカらとの仕事以外の付き合いから金銭を介さない交流も増えて、人間らしい感情も増した。


 妹分になったアリーシアが馴れてくるに従って意外に小生意気さを発揮してきて、甘いばかりの生活にはならなかったが、それも安全でピリッとした刺激になる程度。ちょっとした言い合いにいちいちマーチンが頭を抱えるのも楽しいスパイスだった。

 占いに興じたり(鶏ソテーと巻機・高龗)、フグを食べたり(てっさ と東洋美人)、妙な現地食材でマーチンが腹を下したり(寿司と黒龍)、料理対決(カニ鍋と遊穂)をしたりして日々を過ごしながら、小生意気な弟子に少し早い卒業試験〝アリーシアもヨランタと同じようにタイタンの加護を受けに行く〟をもくろむ日々。



 そこに、さまざまな不確定要素が降って湧いたように押し寄せ、棚からぼた餅がネギを背負ってやって来たようなタイタンの来訪によってやや唐突に加護は実現する。

 あとは、聖女として認定されるに相応しい鮮烈なデビューができればなお良い。それを、ダンジョン制覇パーティーの一員であるということで押し切る計画だ。


 なお、いまマーチンが神とタイタンから聞いている「加護を受けると厳密な意味では人間から離れてしまう」らしいことをヨランタは全然知らないまま、アリーシアを引き込んでしまう。

 もっとも、この点は神もタイタンも大雑把で、人が人たるところに重い価値をおいていない。ヨランタに至っては己が神的なものになりつつあると聞いても「見た目が牛になるのではないか」以外の心配をしていない。アリーシアも加護を受けて、ひっそりとこの世ならざる才能を開花させた。この辺は後の火種になりかねない問題。




 この前後に湧いて出ている不確定要素が、外国の中でも特に、宗教的に重要な聖帝国で〝魔都発信で世界が滅びる〟いにしえのエルフの大予言が発掘されて話題になっている件(淡水魚のフライと尾瀬の雪どけ)。

 また、それに前後して、マーチンが冗談交じりに〝天地開闢(かいびゃく)以来ただ御ひと方なれば名付くる者とてあらず〟の神様に「ヨランダバアル」と名前をつけてみた(てっさと東洋美人 挿話)ことから、ドラスティックな反応はないままじわりとこの世が変化していく。


 この辺り、時間を前後させながら語っている。

 まとめると、

 ・11月頃にアリーシアが預けられる

 ・12月にリューン登場、タロット〝塔〟の占い

 ・下旬に「ヨランダバアル」の名付け事件

 ・年末、ヨランタにツノが生える

 ・年初、アキベエルが神の名前関連に解説

 ・2月、ペーターが滅亡の予言をもってくる

 ・3月、タイタンがやって来たので出迎える


 そして作中はまだ3月半ば、春分の日の前。こちらの文化の暦では春分の日に新年の大祭を行うことになっているので、ヨランタたちがスピード攻略すれば祭りのにぎわいに未踏のダンジョン攻略の朗報が間に合う。

 必ずしも間に合わす必要はないが、どうせ勝つなら戦術的辛勝より戦略的大勝利を目指したいではないか。





 そしてヨランタは仲間を引き連れてダンジョンに足を踏み入れる。

 仲間たちも、それぞれバラバラに望みを持っていて、そのためにそれぞれの役割をもって危険を(おか)す覚悟。足並みはまるで揃わないが、とりあえず目標が眼の前にあれば大丈夫だろう。その先は、その先のこと。


 ガラにもないキリッとした面持ちで歩を進める。


 





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