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一葉恋慕・大森編  作者: 多谷昇太
まとの蛍

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共有を邪魔する者たち

しかしこの時通りをはさんだ公園の向こう側に人が立つのが見えた。歩行者用の信号ボタンを押したようだ。信号が変われば公園に入って来るにちがいない。しまった、どうしよう、いや(この奇跡の邂逅は)、どうなるのだろうと危惧した途端、一葉が我に返ったように私の手から離れ、恥ずかしげに目を手でぬぐった。私はポケットからハンカチを取り出して一葉にわたす。幸いなことに公園に入る前偶然にも¥ショップで買ったばかりのもので一度も使っていない。一葉はそれをしばし目にあてたあと「どうも、あいすみません。はしたない真似をしてしまって。どういうわけかあなたに父の面影を見てしまい…ほほほ、大人げない女とお笑いください」と云って謝った。「いや、とんでもない」と大仰に云いながらしかし私は彼女の肩越しに、信号が変わってこちらに来ようとしている老人を見ていた。おおかた近所に住む老人の夜の散歩ででもあろうが出来れば私はこちらに来てほしくなかった。距離があって見えまいが私はすわった目付きをして老人をにらみつける。それが効いたのかあるいは私の仕草におかしなものを感じたかして、彼は公園を巡る側道へと進路を逸れてくれた。もし、である。一葉の姿が私だけに見えて余人には見えないものならば、人を抱くような、あるいは透明人間にハンカチを手渡すような仕草はきっと不気味に思えたのにちがいない。しかしもしそれならハンカチは宙に浮かんで見えたのだろうか?もっとも暗くて見えなかったのかも知れない。とにかくまわした手の平には一葉の熱い血潮が、慟哭する身体のふるえが間違いなく伝わって来たのだ。ゆめ、霞まぼろしの類とは思えなかった。

 いたわるように私は奇跡の人に言葉をつなぐ。「あなたのお父上が…」と直前に伝わって来た彼女の父上の想念の不思議を云いかけて、その実「いや、ありがとうございました」と云って深々と頭をさげていた。その思いが一番強かったからだ。「あなたの偽りのない姿を見せていただいて、本当に感激しております。もうひさしく私は、このような体験はしておりません(どころか、マジで始めてだった)。あなたの涙に禊がれたような気さえしております」と正直にいまの気持ちを伝える。今まさに共有が、彼女との一体がなされたような気もする。このままじっと見つめ合っているだけで充分な気がした。一葉の私への眼差しにも何か境が取れたような、親近の度合いが深まったような色があった。「いいえ、こちらこそかたじけのうございました。胸の奥まで察していただいた心持ちがして…あの、ほほほ、気が晴れました」と云ってくれたのだが、しかしこの時迂回して来たさきほどの老人が側道の茂みからいきなり現れて「プータロー」と一言小声で罵り、そのまま公園の奥の方へと離れて行った。更にそれに合わせたわけでもあるまいが今度は木立の向こう、周回する車道の方からこちらは大声で「プータ!」「プータロー!」「プータ!」と男、女、男の順で若い男女の罵る声がした。すでに耳タコになっていた件のストーカーども、偏執狂の親分の使い奴どもとすぐ知れた。暴走族あがり(もしくは現役?)の彼らは楽しむがごとく車で私を追いかけて来ては罵り、車中で私が寝込めばまたぞろエルム街のフレディをやらかすのだった。どこへ逃げても神出鬼没のように現れるのは霊視女というナビゲーターを備えているからである。彼のオウム真理教の、あるいは(文字通り)ヤクザの街頭宣伝カーのように、彼らのビクティムに摺り込みをするがごとく、何回でも「プータ」を連呼してみせる。こちらの神経をまいらせようとでも云うのだろうがそのしつこさに限りはなかった。こいつらに限らずいまの、いじめ世のトレンドなのだとも思う。とにかくそいつらがまたぞろ現れた。一番現れてほしくない、いま、この時に。

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