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一葉恋慕・大森編  作者: 多谷昇太
まとの蛍

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14/16

御足様に逆らうやつは許せねえ!

私の顔色がくもり木立の向こうを気にするのを見て一葉もそちらを見やった。「これはしたり。わたくしのことばかり申しあげてしまい、あなたのことをお聞きするのを失念していました。都の花を読まれたとか…これは私の勘なのですが、ひょっとしてあなたも文芸か何かをなさるのではありませんか?やはり小説か、あるいは和歌?…か」と、私の心に感応してそこを探るように、私の顔をまじまじと見ながら、また小首を愛らしくかしげながらそう聞いてくれるのだった。悪ガキどもを気にする私の仕草を誤解してのことだったがしかしこの質問には驚かされた。そもそも出現自体が極限の驚きなのだが、なぜそんなことまで判るのか、こちらの方もびっくり以外のなにものでもない。なぜなら確かに私も一葉が云い当てた通り文芸を致す身だったからである。それも御指摘の通り小説と和歌を、さらには詩とシナリオまで手を広げていた。しかしとは云ってもいずれも一人でシコシコ書いているだけの、プロでもなんでもない身だった。にも拘わらずこの私の書くもの、その内容が件の偏執狂には抑々お気に召さないらしい。私は世の格差、富や権力の集中と、それも勉めてその横暴を描くのに意を使っていたのである。米国の9・11やロシアに於けるモスクワのアパートの、それぞれ自国政府による爆破や、ジャーナリストのマリア・ポリスカヤさんの殺害に憤慨し、シリアでアサドの親衛隊によって殺された日本のフリージャーナリスト、山本美加さんなどの存在が哀れでならなかった。もちろん抑々私に於いてはこの身で差別や生活妨害を味わい尽くし、すればその迫害の基となるものへの追及をおさおさ怠ることはなかったのだ。蓋しこの奇跡の邂逅もひょっとしてそれが媒介…?とも思うがしかしそれは確かめようもない。何にしても学歴も身分も、また金もないおまえ(つまり私)などが世に書を問うことなど許さない、とするその存在が逆に私を鼓舞していたのだった。それはちょうど「俺たちと同じ長屋に住む者が小説など書きやがって」とし、また「御足様の吉原の悪口を書きやがって」などと誹謗中傷したという、眼前の一葉への嘗ての町衆の反発に、彼女がめげなかったのとまったく同じことである。ただし、実際に世に書を為した一葉と違って私にはそれがなかったし、この先も終生ありそうもない。ではなぜ、件の親分や手下どもが斯くも目くじらを立て、また抑々私が小説を書いていることを、それも何を書いているのかまでわかるのだろうか?もちろんそれは霊視である。取り巻きの霊視女たちが知らせているのだろうが、しかしそれにつけてもこれは、つまり霊視とは、いったい何なのか?と思はざるを得ない。いっさい知識を持たないが、しかし斯くもその禍を受ける身であれば常にこれを思わぬことはない。おそらく…憑依と似たものではあるまいか?彼ら霊視者たちがこちらを霊視するとはつまりこちらの、憑かれる者自身の目を通して見ているような気がしてならない。しかしもしそうであるならば、これは別の意味で思うところ少なからず、とせざるを得なかった。なぜなら彼らに容易に心の波長を合わせられる程度の私の心根でしかない、ということになってしまうからだ。単に身の不徳ということで済ませられる話ではなかった。またプロでもなんでもない私になぜ?…の方はこれは皆目わからなかった。発表できなければ日記と同じようなものだから目くじら立てる必要はないと思うのだが…。

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