第9話 過去
可愛くて、優しくて、懇篤で、そっと俺の気持ちを理解してくれる。彼女……ユキナさんはとても素敵な人だ。俺には勿体ない。好意よりも憧れだ。俺は昔からこういう人を探していたのかもしれない。話さずとも相手のことを理解し、相手の感情を読み取り、相手に掛ける声として最善の言葉を考え、相手を優しく見守れる人。こんな人に。“初恋”の時もそうだった。決して皆んなに人気があるわけでもない。決して代表に推薦されるような子でもない。それでも、虐められていた俺にそっと救いの手を差し伸べてくれた彼女を好きになったのだ。これからもそばにいたいし、このゲームが終わっても関係を崩したくない。だから、勇気を持って彼女にこう言ったんだ。
「ごめん。俺は今、君のパートナーになることはできない。」
「え…………」
これでいいのだ。
今の俺には分からない。悠人とユキナさん、どっちを選びたいのか。どっちを撰定すべきなのか。どっちのために生きるのか。どっちのために心から生きたいと思うのか。何も考えられないし、わからない。だけど、それを分かろうとする必要もない。わからないのなら第三の選択肢を見つけ出す。それは、
「俺は、一人でこのゲームを抜け出すよ。」
「なんで……。私はあなたを心配しているの。二人の方がゲームクリアもできるし、一度に二人このゲームの世界から抜け出すことができる。仮にカイトくんが悠人くんを助けようとしていても、ここで協力しないのは的確な判断とは言えないでしょう?私とカイトくんが、たとえ小さいイベントで勝ち残っただけの出会いだとしても、私には君を心配する権利がある。私には君に……。」
やってしまった。静寂に包まれるという1番避けたい状況になってしまった。でも、もう二の足を踏むことはしたく
ない。
「ユキナさんは、確かこう言ったよね?“恋をしたことある?”って。実は小三の頃、たった一度だけ恋をしたことがあったんだ。一度だけ。」
……………………………………………………
〜五年前〜
「カイトくん、大丈夫?」
「うん!ちょっと擦りむいたぐらいだから大丈夫だよ!」
「でも、血が出てるじゃない。ハンカチ貸してあげる!」
「ありがとう……このお花の刺繍、可愛いね。これは、なんて書いてあるの?」
「これは英語でコーポレーション。意味は……」
「協力だっけ?」
「よく知ってるね。これはね、お母さんが“協力しあえる子になりなさい。誰かが泣いたり怪我したら貸してあげるのよ”って。だから、いっつも持ってるの。」
「へー、協力か。今日は助けてくれてありがとう。今度は僕が君を助けるよ!」
「ありがとう!海斗くん!」
「ありがとう!○○○ちゃん!」
〜半年後〜
「突然ですが、明日、○○○さんが京都の方へお引っ越ししてしまいます。今までのありがとうの気持ちを込めてお別れ会をしましょう。」
「「「…………」」」
「それでは○○○さん。みんなに一言お願いします。」
「今までありがとう。これからもみんなのことは忘れないよ。」
「「「…………」」」
「そ、それでは、お別れ会を始めましょう。何をしましょうか?」
…………。
「なんでもよくね?喋りたい人が喋れば。」
「え?」
「修斗くん。○○○ちゃんが引っ越しちゃうのよ?遠くに行って会えなくなるのよ?」
「だって、○○○ちゃんと話したことほとんどないし。それに……。」
パシンッ!
僕のでは空を切り、修斗くんを叩いていた。




