44 最悪な事態
タグリード国の王城に戻ったレンダルはエノーラとウルフを部屋別に案内して湯浴みと着替えをさせて夕飯の準備をする様に指示を出した。夕飯は部屋に運ばせる事にする。
そしてレンダルとアイオネ達は王と謁見した。レンダルは王と王妃に全て話をした。
「なる程な、記憶は曖昧か…」
「えぇ、なので神関係の事は皆に口止めをした方がよろしいかと…。でないと天罰が下りそうです」
「分かった。皆に口止めをしよう」
「それにしてもエノーラがねぇ。心から愛している人が出来て人が変わったのかしら?元々本来の姿がそうなのかしら?少し幻滅したわ」
「えぇ、正直あの気持ちを受け取る側にはなりたくありません。気持ち悪くなりました」
「私も初めてお会いしましたが話を聞いて態度を見て己と好きな人以外どうでも良いという感じがして寒気がしました」
「チェリツリー公爵の事もオーキッド公爵の事もダレルの事もドリアの事も兄の事も覚えていないか…。更に子供達の事は曖昧で父親や母親の事も曖昧か…。襲撃の事も覚えておらず誰と馬車に乗っていたのか、誰に襲われたのか、どうして北にいたのかも覚えていないとはな…。ただ男性はまともそうだな」
「はい。孤児で傭兵をしていた様ですが礼儀正しく傭兵というより騎士といった感じでした」
「2人には今エノーラのお腹に子供がいるのよね?」
「明日詳しく調べてからではないと分かりませんが」
「当初の伯爵の話通りに事を進めよう。子供達にも神関係の事を口止めして事故のせいで記憶が曖昧だと伝えよう」
「分かりました」
「えぇ、分かったわ」
ウルフは1人になり考えていた。どうしてもルーチェや皆の事を話たくはなかった。だから自分は孤児だと言ったのだ。自分には責任がある。恋に恋していただけだ。外見に惑わされ本性等見ようともしなかった。美化された思い出で想いは強くなり愛して結婚したのだから。女性騎士が言った通りじゃないか…!何かとつけてアクアにルーチェを預け殆ど自分といた。ルーチェといるのは皆がいる数時間だけ。何で疑問に思わなかったんだろう…。結局タグリード国に戻って来てしまった。エノーラのお腹には子供がいるかも知れない。逃げる方法はないだろうか?駄目だ。自分の責任を無かった事にするのは最低の人間だ。でもエノーラと一緒にいたくない。前オーキッド公爵夫婦はどう思うだろうか?実の娘のお腹に自分との子供が出来たと知れば戻って来るだろうか??恩義ある人物達に会いたい。ルーチェに会いたい。皆に会いたい。逃げ出したい。子供があの数回しかない夜に出来たのか??駄目だ、最後迄エノーラといる事になるなんて考えたくない。でも自分の責任だ。
ぐるぐる同じ事を繰り返しウルフは考えるしか無かった。
そうして静かに夜は過ぎていった。翌朝は侍女達や執事達が着替えや食事の準備をしてくれて部屋での朝食となった。そしてエノーラは検査して貰う事なった。
ウルフはどうか勘違いであって欲しいと祈った…。それから迎えに来たレンダルとエノーラと共に王との謁見となったので王と王妃に挨拶の形を取った。
「表をあげよ。楽にして良い。先ずはエノーラ生きていて大変喜ばしい…」
「チェスター王有難い言葉です!」
「そしてそなたがエノーラを助けた男性か?」
「はい…。ウルフ・エタンセルと申します」
「ほう。確かにレンダルが言う通り傭兵というより騎士の様な人物だな」
「えぇ、私もそう思いますわ」
「それからそなた達は結婚しているのだな?」
「えぇ、そうなのです!」
「はい…」
「エノーラはオーキッド公爵令嬢だったのだが結婚してチェリツリー公爵夫人となっていてな。4人の子供達がいる。色々ありチェリツリー公爵とは離縁の形となっていてチェリツリー公爵は長男のエディーノが継ぐ事が決まっている」
「私は孤児で傭兵だったので不釣り合いと思います。なので結婚を無かった事にします」
「駄目よ!貴方は私の物なのよ!離縁なんて認めないわよ!!」
「エノーラ、王の前なのですよ?」
「でも!エイベラ様なら分かりましよね!?心から愛した方と共にずっといたいと!!」
「えぇ、分かりますけど周りを見れないなんて事はしないわね…」
「レンダルよ、子供の事はどうだった?」
「はい。確かに子供はいるようです。2、3カ月だそうです…」
「ならば当初の予定通りにするしかあるまい」
「ほら!貴方との子供がいるわ!」
「エノーラはしたないですよ?」
「でも!エイベラ様!!絶対ウルフと離れたくないのよ!!ウルフだけ居れば生きていけるわ!!」
「はぁ~、そうなのね…。父親や母親や兄や子供達の事は考えないのかしら??」
「今はウルフと離れない方が大切だわ!」
エノーラの態度に皆溜め息を吐き険しいになった。勿論護衛の皆も同じ感じだ…。
「このまま一緒にしていて良いのか悩み所だな…」
「そうよね…」
「そうですね。小さい令嬢でもないのにこの態度はあり得ませんから。まだ小さい令嬢の方がしっかりしていますよ」
「これが本来のエノーラの姿なのね。義務感で結婚していた時の方がまともだなんて考えられないわ。父親も母親も兄も子供でさえ幻滅するわね…。私も友人だったけれど本性を見抜けなかったって事ね」
「皆でウルフと離れ離れにしようとするなんて酷いわ!!」
「別にそなた達を離れ離れにしようとは考えておらんぞ?エノーラは公爵令嬢で公爵夫人だったからな。でもオーキッド公爵にもチェリツリー公爵にもだ戻る事は出来ない。チェリツリー公爵は既エディーノが継ぐ事になってるからな。だけれどもそれなりの地位は必要と考え国が管理している領地の一つクライート伯爵を任せようと思っている。チェリツリー公爵領にも近いしな。罪も犯してないエノーラを男爵や子爵にする理由にはいかないからな。ウルフが当主となりクライート伯爵領を治めてくれ。勿論領地を治める事の勉強や礼儀作法やダンスの勉強もして貰う。きちんと先生は付けるからな。そうだな…後見人はミックレリーに任せたいがチェリツリー公爵の事もあるし、成人したらサンドリヨン公爵領を治めないといけないからな。レンダルお前がせよ。宰相の仕事もあるだろうから様子見で良い。エノーラはクライート伯爵夫人になり子供を育てれば良い。此方から使用人は選んで屋敷に送る事にするからな。屋敷の準備が整い次第屋敷に移るといい。それまでは王城に居てもらって構わないからな。レンダル急ぎ屋敷を整え使用人を送れ。それからこれからはウルフ・クライート、エノーラ・クライートと名乗れ」
「かしこまりました。急ぎ屋敷を整え使用人達を送ります」
ウルフにとって最悪な出来事が起きた。子供が出来ていたのだ。しかも自国の王や王妃の前でエノーラがする態度を見て聞いて吐き気がした。混乱してる内に色々決まってしまった…。どうにも出来ない事に死にたくなった。子供が産まれたら子供を連れて逃げられないだろうか?それまでは耐えてみせる。一緒エノーラに付き纏われるのは耐えられない。自分が本性を見誤れなければ!でも、友人だった王妃様も見抜けなかったと言っていたから隠すのが上手なのだろう。最悪だ!最悪だ!傭兵として働いている時はカルド国に逃げられたが今度はそうにはいかない!どうすればいいだろう?産まれて来る子供は見捨てれない!王や王妃や宰相迄エノーラを見捨てた!自分は押し付けられたにすぎない!
ウルフがグルグル考えている内に決定した。王や王妃はエノーラを見ていたく無かったのだ。ウルフには同情するけれど結婚して子供迄作ったのだから…。それなりには愛情はあるんだろうと…。王は2人に退出を促して溜め息を吐き出した。王妃も同時に溜め息を吐き出した。
レンダルは急ぎ屋敷を整える為仕事をしに行った。
「ねぇ、あの2人大丈夫かしら?」
「ウルフはまとも見たいだからエノーラが何か仕出かさなければ大丈夫だろう。ただ、子供達になんて伝えれば良いか分からぬな…」
「酷い事かも知れないけどそのまま話すしかないわ」
「そうだな…」
「何も知らないで接するよりましだわ…」
「母を思い過ごして来て、けれども想像と違う母の姿を見る事になるか…」
「えぇ、皆まだ小さいけれど上2人はしっかりしてるし何も知らないより良いわ」
「エディーノに話をして神関係の事は口止めをして下の弟達に説明して貰う他ないな」
「イーモンと前オーキッド公爵夫婦はどうなさるのかしら?」
「イーモンは詳しく話なくても平気だろう。前公爵夫婦は旅に出たっきり帰って来てないみたいだから居場所も分からないな。でも、今のエノーラを見るより良いのかも知れぬ」
「確かにそうね…。私も寒気がしたわ…。エノーラを見て嫌悪感しかなかったわね。私達が見て来たエノーラは作られたエノーラだったのね…」
「私も同じだな。あのエノーラには嫌悪感しかない。さて先ずはミックレリーに説明をしてからエディーノ達に話をするか…」
「えぇ、そうね…」




