第5話 英雄の否定
PM11:43
私は買ってもらった大量の衣類や靴を持って、極力人目につかない様に飛んで帰宅。
この飛行能力はとにかく爽快で気持ちが良い。
今度九条さんにハーネスつけて飛ぼうかな〜
にしても家を上から見ると派手に穴が空いているなと思う。
ガチャ。
「ただいま! 警察から連絡あったでしょ、一応本物とされている貴音だよ!」
だが俺の立場なら疑う、明らかに別人だからだ。一致しているのはホクロなどの位置程度だ。
だがその不安を払拭してくれる程に明るく出迎えてくれた家族。
「「「おかえり」」なさい」
「いやー、朝見た時も思ったが誰だって感じだな!」
そう笑うのは父の時克。前の私の様に毛深くムキムキ親父だ。
「ホクロの位置は変わらないのね〜」
若く見られることが多い、一般的な母の珠江。両親そろって昔の私と顔は全くにていない。
「まあオーラは変わらないね、黙っていた方が威厳あって良いんじゃ無い? あとZ見なよ、すごいよ」
そう言いながら慎重に階段を登り自室に戻る弟の奏音。
やはり家族に出会うとホッとする、Zの話題はリークかな?
「貴音! お前派手に暴れ続けたな! さながら映画のワンシーンだな、ほら見てみろ」
父のスマホを受け取り見ると朝の戦いに牛との戦闘が載っていた。青髪女=貴音説が強く推されている。
「うへ〜、返すよ。自分の端末でも見てみよ」
トレンドを確認!
うわぁ……日本って感じだな……
1メテオブレイカー
2牛
3貴音
4薬師寺首相
5パイオニア
6ミノタウロス
7九条さん
8アオガミ
9#ち〇ぽ見せろ梶原貴音
10#ま〇こ見せろ梶原貴音
「はぁ、クソSNSが。まあいつも通りだな。……パイオニアってなんだ? 世界初の能力者か」
世界初のお姫様が王国のお姫様とはな。
貴音は盗撮に感心していると、リークのポストの返信欄をみた。
〈やば!これ脚無し能無しって言われていた貴音じゃね?リークだと見た目女になったらしいし!〉
〈空も飛べてあんな細い手で牛の豪腕を止めるとかえぐいて。ヒーロー的に呼ぶなら超越した者でトランセンドマンとかどうだ?〉
(実は名前の初期案はトランセンドマン)
〈ダサくない?リアルでなんちゃらマンって。隕石が破壊後に舞い降りた英雄だからメテオブレイカーとか良いんじゃね?〉
〈脚無しは実際には家にいただけだろうから破壊してないがカッコいいな〉
〈それより腕とウエストが細く、ケツも胸もデカくてナイスバディ!しかもクールビューティー!!〉
〈元チビ男だし、まだ生えてんだぞ?〉
〈お得!〉
いつも通りのクソZワンダーランドだな。
「それに気に入ったぞ! そのメテオブレイカーという名を! でもなぁ……」
かっこいい……これはヒロイックでイカしている。
だが身元がバレていてヒーローをすれば家族や友人に矛先が向くかもしれない……
貴音が無言で悩んでいると父は口を開く。
「そう深く考えるな、それや国から電話だ、何時でもいいから折り返せってよ、本当に偉そうだ」
父は明らかにイライラしている。
「わ、わかったよ」
そう言って家電でかけ直すとワンコールで出た。
怖い……恐ろしくブラック環境だ。
「もしもし〜? こんばんは、お世話になっています、梶原貴音ですけども……」
「はい、こちらこそお世話になっております。私は首相の秘書です、今薬師寺に代わりますので少々お待ちください」
その発言に貴音は息を呑む。
私あの人苦手なんだよな〜本心が見えないし怪しいオーラも感じるし……でもまあ支持率高いし、根拠のない僻みの勘みたいなもんだけどね。
「もしもし、代わりました薬師寺です。お待たせして申し訳ありません。早速本題なのですが、明日の会見でメテオブレイカーなどというヒーローである事を否定してください」
貴音は面食らう。
無理だろ! 私の容姿に暴れ具合からして無理だって!!
「お疲れ様です、私自身をですか? 朝の脱獄犯? 牛のミュータント? ……流石に隠蔽は無理があるかと思われます」
強く困惑をした。
何故なら能力者の存在は隠さないことになっているからだ。なのに私だけ仲間外れか?
「あなたの体の変化は無理です、ただ戦闘しヒーローになった事を否定してください。SNSではメテオブレイカーというヒーローがいる事になっていますが我々、自衛隊や警察官がメインで鎮圧した事にするのです」
薬師寺は淡々と言う、もう成功したかのように。
だが私が簡単に乗るとでも?
「失礼ですが事態の収集にはなりません! それに能力者は認めるんですよね? 何故私はダメなのですか!?」
「……人々が政府ではなく一個人を信頼する状況は避けねばなりません、英雄は人々を熱狂させます。しかし熱狂は国家にとって最も危険な感情です。そんな物が崇拝されては困るのです」
「はあ……」
「現在確認されている能力者の多くは、既に犯罪行為や暴動に関与しています。そんな中で、あなたのように圧倒的な支持と力を持つ英雄が現れてしまえば、人々は政府より英雄を信じるでしょう。それだけは避けなければならないのです。国家は英雄によって守られるものではありません。制度によって守られるものなのです。」
馬鹿か……?
ヒーローがいて困るのはヴィランだけだよ。
首相、あんたは私たちをどうしたい? 始末? 支配? とにかく悪としたいのか?
だが私はこいつが何をしたいのか大体理解した。
怒りで手が震える。
「私が……私がもし仮にお断りした場合はどうするおつもりですか?」
「……これは強制ではなくお願いです。聡明なあなたならば拒否しないでしょうが、もしそうならば意見を尊重し、こちらで処理を致します」
やはりコイツは悪だ。
急に見え透いた脅しをしやがる。
だが断れない、断ればアメコミや特撮ヒーローなら破滅が待っている。
その場しのぎだが受ける事にした。
「……承知しました、会見で話す事をお受けします」
世間、民間にはヒーローはいない、そうしたいんだな?
ならば後悔させてやる、多弁な私自身に話させる事に。
「ありがとうございます! 交通費は出しますので普通の方法でお越しください。それとこの前の様にジョークはいりませんので。それでは失礼します」
「切れたか……」
「どうした? なんだったんだ?」
父に説明した。
「クソだな、支持率上げるために同性婚や重婚も合法化したしな。あいつの政策には筋がない。……それでお前は否定するのか? お前自身を?」
その言葉に激しい迷いを感じた。
父と母には散々迷惑をかけている、これ以上かけても良いのかと思う。
なんて考えていると父が言う。
「否定したいのは顔を見ればわかる! お前は顔が変わっても何一つ変わらない子だなぁ! 俺たちのことは気にするな!」
そう大笑いし背中をバンバン叩く。
「ありがとう……どこまでやれるかわからないけどみんなを守るからっ」
私は誓い続ける人を守ると、そしてこの後父の行為と飼い猫の異変に仰天する事になる。




