第2話 俺の大事な相棒
この作品は暗い展開が多々あります。
貴音は事情聴取とDNA検査を受けた。身体検査では怪力のせいで測定器具を次々と壊してしまったが九条のフォローで弁償は免れた。
やっと、なんとか貴音は解放されるが九条が一応見張りに付き添いになる。やっと帰ることになって、ようやく九条の車に乗り込む。
2人は楽しげに車内で会話している。すると九条は確信を得た。
「さっきから話していて思ったけどやっぱり、あなたはあなたね。安心したわ」
ニッコリする九条に俺も安堵した。
やはり相棒が性転換? をしていたら驚くよな。
「まあ、自分も自分か確信が持てないですけどね」
本当に……私は変わったのだな……
まあ美人だし結果的にラッキーだけどね。
それに人を守るのは変わらない。
車内で流れているラジオが世界の異変を伝えている。どれもこれも今日以前に話せば荒唐無稽と笑われていた筈だ。
〈東京都で人体発火現象、燃えた本人は無傷〉
九条は朝から異常事態を聞き目の当たりにしている為に、うんざりしている。
チャンネルを変えた。
〈お喋りカラス警察署に保護、このカラスは人型にも……〉
また変えた。
〈脚戸片目を失っても救助活動を続けた英雄、梶原氏が……〉
またまた変えた。
〈巨大コモドドラゴンが町を練り歩き……〉
ラジオを切った。
「はぁ……どうなるのやら。都内では人型の牛の化け物だって行方不明なのに」
「ミノタウロス的な奴ですかね? でも……今度は、この力で守れますよ!」
もう脚がなくてまともに救助が出来ない自分じゃない。今度こそ、また誰かを守れる。
それに、そんな化け物まで出てくるか……それでも私は人を守らないとな。
私はすごい力は得た、だから力には責任が伴う。
「ふふっ、頼もしいわね。さて帰りのついでに服でも買いに行きましょ、今のあなたの格好は酷いし」
焼け焦げている上にパツパツで、破けているし最悪な姿の貴音。
よく考えたら今の私、ノーブラで痴女みたいになっているじゃん……
「お金あまり持ってないんで安物探しましょ……」
そう貴音が言うと彼女は笑った。
「何言ってのよ〜奢るわよ、可愛いわね〜……でもノーベル平和賞の英雄君がお金ないってなんで?」
賞金は大金だ、当然疑問にも思う。
「割と寄付したり親孝行したり、仮想通貨と不動産買ったりして……つまり現金がなくて……」
目先の道楽よりも着実な不労所得を得る、しっかりしたところもあるんだなと思う。
別の事も疑問に思う九条。それは警察からは給料をもらっていないのかと。
「半年近くあなたは警察の下で働いていたけど給料は? 下品な話だけど私はウハウハよ?」
「……もらってないです。勝手にボランティア扱いだったので、そう言うものかと……」
親愛なる隣人的な感じで無給が普通だと思っていた……
でも現実なら、そりゃあ給料あるよな。
なんせ大量出血で死にかけたし。
それに驚き過ぎて事故起こしかける九条。
キキィー!!
「うげっ!?」
前のめりになる貴音。
「はぁ!? アイツら何考えてんのよ! あとで文句を言ってやるわ、事の次第では訴えてやる」
貴音は思った、ここまで気遣ってくれるなんて優しい人だと。
私の為になんて、やっぱり九条さんは優しいや。
大型のモールに到着し、九条好みに問答無用でコーディネートされた。
ヘソだしにホットパンツなど露出度が高い服を着せられた貴音は、自分の美しさを改めて確認し九条はご満悦。
そのまま車で警視庁に向かい文句をぶちまけた九条。
そのおかげで後日大量の給料がどかっと入る事になった。
少し歩いて安心してベンチに座ってくつろぐ2人。
「ふぅ〜、あのバカたち本気でかじを使い潰すつもりだったわ。まだ許せない……警視の私を騙し続けれるつもりだったのかしら?」
凄まじい形相で飲み終わったコーヒー缶を瞬時にぺちゃんこに握りつぶす。
やっぱり体格に比べて力強い。
エリートで優しいけど怒らせたらヤバい人ナンバーワンだよ……
まあそれでこそ俺の相棒だけどね。
「まあまあ……それよりもテレビ見てくださいよ」
そうスマホを見せると貴音が性転換し能力者になった事がリークされトップニュース扱いされていた。
無理もない、隕石落下前からの数少ない英雄で世間を沸かせた話題の人間だ。
その時の人に異変があれば世間は食いつく。
「はぁ〜……これからどうする気なの、かじは隠す? 大丈夫?」
顔に手を当て、やはりうんざり気味の九条。
「いや、Zでも私のアカウントに対するメッセージも多いですし認めますよ。でも心配してくれてありがとう」
「え、えぇ! 気にしないで!」
九条は貴音の可愛さに目を逸らし顔も逸らした。
な、なんなのよ! 本当に可愛いわね、貴音は。まあ顔が変わる前から可愛げあったからね。今の顔も悪くないけれど。
なんて緩く会話をしていると、爆発音が響き、続いて後方から悲鳴が上がった。
その次は動物の唸り声の様な重低音が響く。
ドン……ドン……ドドン……
「うも゙ぉお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!!」
身体が震え、心臓の鼓動が早まる。
「ま、まさか!」
そして、迫る轟音の足音に立ち上がり振り返った2人。
「ミノタウロス……!!」
速いっ!?
駄目だ、動きが間に合わない!
貴音が振り返った瞬間、巨大な拳が顔面を捉えた。
視界がモノクロになり、身体は浮き、コンクリートの壁をぶち破る轟音と共に貴音は遥か遠くに飛ばされた。
「貴音ぇ! ……クソッ」
貴音の方を向くが土埃が舞っており目視では生死不明。怒りに手を震わせた彼女は自衛隊で使われる9mm機関銃を牛に向けた。
牛の眉間に乾いた音を立てて、怒りに手が震えている、それでも25発全弾正確に撃ち切る。
「ンッ!ん゛んもぉおオ〜〜!!!」
と唸るが目に見えてダメージはない、弾は全て牛の頑丈な頭蓋骨と皮膚にあたるだけでポロポロと地面に落ちていく。
そしてこの唸りは苦しみではない。
憎しみの唸りである。
「う、嘘……そんな、血どころかまともな傷一つ付けられないなんて何なのよっクソッ!」
怒るが冷静、SOSシグナルを発信し通用しないとわかっていても勇敢に特殊警棒をジャキっと鳴らして取り出した。
手が汗で滑り更に強く警棒を握る。
「あの人が吹っ飛ばされた時点で勝ち目が無くとも、ここで引き下がるほどヤワじゃないのよッ!」
怒りに目の下がピクつく。
よくもあの人を! よくも私の相棒を!
そう勇敢に叫び牛の股間目掛けて振り下ろすも、容易く牛の強い握力に掴まれてしまう。
「なっ!? ……いっ痛い。こいつ、指が5本に……あ゛あ゛っ! 折れるッ!」
マズいマズいマズいッ。体格差的に何もできないッ。
どうす……
必死に振り解こうとジタバタとするが、体長約3メートルと156センチでは話にならない。
そのまま地面に思い切り叩きつけられアスファルトが少し凹み、腕は開放骨折をして血まみれになる。
「にンゲん……ヤワ」
ニタニタ笑う牛。その顔は獣よりも人のそれだった。
「ぐぁっ! う゛っ……ガフっ……」
血を吐き苦しむ九条。
痛いッ、傷口が熱く感じて麻痺をしている……
こいつ……言葉を……
それに明らかに貴音と比べ手を抜いて遊んでいる、猫が虫を遊び殺すかの様に……
「言葉ァ……あッてイるかナぁ? これカラ、ト殺だヨォおぉオオ!!!」
そう言いながら両手の拳を握り合わせて九条目掛けて振り下ろす、絶対的な破壊をもたらす為に。
「ヒュッ……うぅう……た、貴音ぇええ!!!」
彼女は死の恐怖に自然と涙を零す。
助けてッ……貴音……
九条は諦めずに貴音の名を呼ぶ、その叫びを無慈悲に打ち砕くべく振りかぶられた拳。
だがそれは轟音と共に打ち止められていた
地面はひび割れ、衝撃波が周囲に広がる。
「「!??」」
彼女に拳が当たる刹那、たった片手で受け止めたオッドアイが煌めくヒーローの姿。
それを見て争う両者共に驚く。まるで時間が止まったかの様だった。
静寂を切り裂く怒号。
「テメェ!!!俺の大事な相棒に何してくれてんだッ!!!」
生きてる、まだ間に合ったぞ。
よくも九条さんを!
空いている方の腕で強く拳を握りしめ振るう。
ドゴォォォン!!!
牛が数十メートル吹き飛び車を潰して転がる。
九条はその背中を見上げた、過去に救ってもらった日と重なる英雄の背中だった。
貴音は九条を背に庇うように一歩前へ出る。
「立て……仕切り直しだ」
私はもう、やられてばかりじゃない。
この力で、大切な人は誰一人失わせない。




