第1話 世界のハッピーエンドと襲撃
序盤かなり変えたので投稿し直しました。
第1話 世界のハッピーエンドと襲撃
一旦、世界は救われた。
巨大隕石は世界の団結の結晶のミサイルの前に崩れ去った。
「遂に! 遂に我々人類が隕石に勝ちましたァ!!!」
テレビの7チャンの特番では老齢のアナウンサーが歓喜に泣き叫んでいる。
その裏で、日本の関東圏をメインに治安を守り続けた英雄、梶原貴音は家族と共にそれを見届けて喜び合う。脚と片目を失ってでも守った世界に意味があった事に。
そして安堵のまま、精神安定剤と睡眠薬を飲み眠りにつく。
——翌朝、その身体は普通の人間では無くなっていた。
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自室 翌日の2024/5/15 AM6:24
優しい陽光がカーテン越しに貴音を照らす。
覚醒だ。
「ん〜! 朝だ、生きてる! ……ん?」
ん? ふにっとしたな…… は? ちょっと待て何が起きている? おっぱい?? いや声も変だぞ?
何気なく目線を下ろすと見慣れない大きな胸があった。垂れ下がる青く長い髪まで視界に入り顔を赤くし脳がパンクしそうになる。
だったらさ、良いこと思いついた!
「あー。あー……貴音、かっこいいよ……いや、アホか俺は」
ここで俺は自分のクール系女ボイスに感激したからセルフASMR、それも名指しだ。
だが虚しさが勝りやめた。
何やってんだバカ……どの道俺の声じゃないか……
それよりも服が窮屈だった、そして失った筈の脚の感覚を感じ布団を急いで布団を蹴り退けた。
「はっ!?」
そこには失ったはずの脚があった。しかも、かつての筋肉質な脚とは正反対の、長く美しい脚だ。
「う、嘘……また歩ける……の……?」
足の指が動く感覚がある!
借り物みたいな足だけど歩けるかもしれない!
また自由のある日常を思い描く。
変わった! 確かに俺の体は変わった! なら惨めな生活からもおさらばだ!
「とにかく鏡の前にっ」
ベッドの横の車椅子を退けて、震える足で一歩、また一歩と歩みクローゼットの内側の姿鏡の前に立った。
「は!? ……デカい!? 顔もナニコレ!? ちょー美人!?」
なんだこの美女は? 身近にいたら求婚するレベルだぞ、いや高嶺の花だなこりゃ。
異世界転生の異世界抜きが身体で起こってるよこれ!
「ん? 眼球も再生したのか?」
アイパッチを外し頭を掻きながら、まじまじと己の姿を見る。
なんだこれ属性過多ってレベルじゃない、なにかのアニメキャラのコスプレの様だ。
2mを超える長身。
艶やかな青いロングヘア。
透き通った赤と青のオッドアイ。
完璧までに整った顔立ちに圧倒的なプロポーション。
自分でも見惚れる程の美貌だった。
「し、視力が戻っているっ!? それにやっぱり女になったのか……いや男の名残がありつつ女に? ……ダメだ、頭が追いつかん」
顔をペタペタと触り確認、混乱とどこか腑に落ちる感覚。そして己の美しさに心臓が高鳴る。ナルシズムの極み。
目も見えて脚が帰ってきた。それだけで胸がいっぱいになる。
もう誰かに迷惑をかけて車椅子を押してもらわなくていいんだ! また自分のこの脚で歩ける。
——本当に泣きそうなほどに嬉しい。
貴音は性別なんざどちらでもいいタイプの人間だった、だから一人称を私と言う事に決めた。
「さて、親にどう信じてもらうか……取り敢えずチャットで身体が変わったことを説明して……いや、その前に精神安定剤を飲まないと……」
そんな事を考えていると1階から、とても大きな音と振動が伝わる。
「なっ、何!?」
もう次から次に何よ!
は? 家がぶち壊れているんですけど??
そこには玄関のドアが無残に砕かれ、中に1人の男が立っていた。
「梶原貴音ェ!! 出てこいや! この力で今度こそ殺してやるッ!」
そこには過去に薬師寺総理暗殺未遂を行い、貴音に阻止された犯罪者がいた。
「なんだ? なんで、お前がもうシャバにいるんだっ!?」
私は嫌な予感に鳥肌が立つ。
なんだ? 爆弾でも使ったのか?
昨日まで普通だった世界が、音を立てて壊れ始めている。
もしかして隕石が何か世界を変えてしまったのか……?
貴音は叫ぶが男は当然、貴音の姿を見て頭を傾げる。
「はぁ!? いや、でっか!? ……てか、お前誰だよ、アイツの彼女か? あのチビには釣り合わないな」
そこに父も慌ててくる。
「なんだっ! ……誰だお前達!?」
父は自宅の階段から降りてくる色々とデカい不審者に、玄関をぶっ壊して侵入して来た不審者。困惑するのは当然だ。
「私は梶原貴音だ! 2001年6月24日生まれ、好きな食べ物はカツ丼だ! ……いや違う、そうじゃない!」
間抜けな発言に父も男も緊張感を失い、フリーズしてしまう。
「……は?」
男は数秒固まる。
「お……?」
父も口を開けたまま動かない。
「……いや待て」
男が首を振る。ここで1つ深呼吸をして冷静に考えた。
「……そうか、つまりテメェも能力に目覚めたんだなァ! だが関係ねえ。死に晒せよ、ボケェ!!」
そう言うと貴音に両手を向けた、その刹那、圧倒的な衝撃波が襲い家の壁を貫通して外に吹っ飛ぶ。
「ぐぁあああ!!」
男は追撃をするために外に走り出る。
父は呟いた。
「あ、あのコスプレ女、本当に貴音かもしれん……それなら今の攻撃で貴音は大丈夫か……」
あのタイミングで好きな食べ物で本人証明をしようとする発言の天然さにアレは本人だと思う。
一方で貴音は瓦礫を押し除けて立ち上がる。
「はぁ……もしかして身体が頑丈になっているのか?」
あれ?あまり痛くない……?
それより家族は無事だろうか……
「なっ、無傷かよ。それに、どこ見てんだよ! ほらぁ! 車も吹っ飛ばしてやるヨォ!!」
自宅の車が衝撃波で吹っ飛ばされ貴音にぶち当たり骨が軋む音がする。
「うわあぁあ!!」
ガ、ガソリンが漏れている臭いがするっ!
マズい、これでは爆発す……
車に押し潰されたところで連続衝撃波を喰らい車は大爆発した。
「ははっ、流石に死んだか!」
そう言いながらポケットに手を入れ、立ち去ろうとする。
だが貴音はこれで終わりではない。
「私飛んでるっ!?」
まるで憧れのアメコミヒーローの様になれた事に感激する貴音。
え、待って待って! 本当に飛んでる!?落ちない!?
うわっ、超楽しい!! 無重力ってこんな何だろうな! それに……昨日まで歩けない車椅子だったのにな……
「なっ、何個能力持ってんだよッ、アオガミの化け物が!」
男は目を見開き、額に汗が伝う。
昨日まで存在しなかった力。隕石が何かを変えたのかもしれない。
……だが今は考えている場合じゃない。
「にしてもテメェ! 家と車ぶち壊しやがって!!」
私は気分が高揚し、今なら何でもできる気がした。あの漫画やアニメのスーパーヒーローみたいに成れると。
これで皆んなを守れる筈だ、今は脚無し能無しの貴音じゃない!
これなら勝てるぞ!
そう思った瞬間だった、胴体に衝撃が走る。
ガシャーン!!
「うげぇっ!」
呑気過ぎた……
隣家に転がり壁を貫通して内部にまで入る。
「キャー!? コスプレ女!?」
隣家のおばさんが悲鳴をあげた。
「け、警察を頼みます……そして周りの人を連れて逃げてっ」
マズい。
逃げることは空を飛べば容易い。
だがそれではヒーローではない。家族も隣人も守る。
そう決断するとヨロヨロと立ち上がると走って外に出た。
「他の人にまで迷惑かけやがってっ! ハァッ!」
「は、速い!?」
衝撃波を放とうと手をかざす度に後方の建物が砕け散る。だが貴音にはことごとく避けられ空中で回転しながら目の前まで接近した。それに男は目を見開く。
「お家に帰んな!」
背中に手を添えて鳩尾を思い切り殴ると、男は嘔吐して跪く。
「おぇっ、げぼぁ……俺の身体は弾丸も効かねえのに……だが、この距離なら避けられないなッ」
男は勝機を感じニヤリとする。
これで梶原貴音は終わりだなと。
「しまっ……」
両手による強力な衝撃波が貴音に向かい打ち上げられた。
「うぐぉおお!!?」
男は地面へ衝撃波を放ち、その反動で一気に跳び上がる。
そのまま貴音の顎へアッパーを叩き込み、さらに拳から衝撃波を炸裂させた。
「ぐっ……!」
全身に力を入れた。
だがこれでは終わらんよ!
視界がグラグラする中、浮遊して距離を取る間に男は地面に着地。その瞬間を狙って空からの飛び蹴りを相手の顔面にお見舞いする。
「うぎゃ!!」
アスファルトの地面が大きく割れて頭がめり込み、その場は大きく陥没する。男は短く呻くとほぼ動かなくなった。
「なんだったんだ……? 私もコイツも昨日を境に変化したのか? だとすると……まさか本当に隕石のせいか?」
そう口にしながら男を引きずって道の端に置く。
周囲を見ると電柱は折れ、家々は崩れ、人々がスマホで撮影している。
酷い状況だ……
家も車もめちゃくちゃじゃないか…買い替えと修理費いくらかかるんだろうか……
数分後にはサイレンが聞こえ、パトカーが何台も家の前に止まり警察官が出てくる。
来たか……にしても沢山だな、それほど事の重大さがあるみたいだ。
それもそうだ、首相を暗殺しようとした奴が超能力を使って脱獄なんて大事件に決まっているな。
逃げれるが警察は味方だ、私は逃げない。
「警察よ! 動かないで!」
その声を聞いて貴音は場違いな笑顔になった。
「あぁ! 九条さん! ナイスタイミング、来てくれたんすね!」
九条さんか! 良かったこの人なら話を聞いてくれる。
いやよく考えたら今の私の姿原型がないじゃん!
やはり声も姿も変わっているので知り合い相手でも通じない。
「……? 知り合いだったかしら? とにかく両手を上げなさい。警告よ」
「私ですよ! 梶原貴音!」
まあわからんか。私も九条さんがダンディなオッサンになったって言われても信じないしな。
そして自分の顔を指差して必死に訴える。
「は? 性別も容姿も何もかも違うのに信じられるとでも? 彼は私の相棒よ、愚弄する気?」
それに対して焦りは感じず信じてもらえる確信があった貴音は落ち着いた口調で話す。
「あの時、たまたまチンピラ3人倒して貴女を助けたじゃないすか。 そんで相棒になった。あと任務でホテルの予約間違えて同室になったり……」
大人数の警官が銃を向けている中で、2人の思い出を平然とした態度で手すら上げず話す貴音。彼女は急いで部下全員に銃を下ろすように伝えた。
「かじ……一体何があったのよ、それ……」
スーツを正しながら眉間にしわを寄せた。
「さあ……?」
私が知りたいくらいですよ……
苦笑いしながら言う。
あの日守った世界は、確かに救われた……そう思っていた。本当の終わりは、あの日ではなく。今日から始まる。




