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6.夏のインターン

八月の朝は、じっとしているだけで汗がにじんだ。

真白は駅前の小さなビルを見上げる。

就労支援事業所「パーポス」。

今日から五日間、ここでインターンシップを行う。

スーツ姿の学生たちが入口付近で緊張した顔をしていた。

「お、真白」

後ろから声がする。

振り返ると、悠斗が片手を上げていた。

「ちゃんと来れたじゃん」

「子どもじゃないんだから……」

「いや、俺、普通に寝坊しかけた」

そう言って笑う。

真白も少しだけ笑った。

事業所の中は静かだった。

パソコン作業をしている利用者。

スタッフと面談している人。

休憩スペースでコーヒーを飲む人。

“施設”というより、小さなオフィスに近い。


職員の女性が説明を始める。

「ここでは、精神障害や発達障害のある方の“働きたい”を支援しています」

“働きたい”。

その言葉が真白の中に残る。

利用者たちは、“守られるだけの存在”ではない。

悩みながらも、働きたい、社会と繋がりたいと思っている。

その姿は、真白が最初に抱いていた「福祉」のイメージとは違っていた。


二日目。

真白は利用者の男性と軽作業をしていた。

三十代くらいだろうか。

封筒を仕分けながら、小さな声で話す。

「前の職場で、体調崩してさ」

真白は手を止めずに聞く。

「朝起きられなくなって。電車も無理になって」

男性は苦笑した。

「怠けてるだけって、めっちゃ言われたけど」

真白は返事に詰まる。

“働けない”には理由がある。

頭では分かっていた。

でも実際に本人の言葉として聞くと、重みが違った。


昼休み、悠斗が紙パックのジュースを飲みながら言う。

「真白ってさ、めちゃくちゃ気遣うよね」

「そう?」

「利用者さんの表情ずっと見てる」

真白は少し黙る。

無意識だった。

「まあ、福祉向いてるんじゃない?」

「……どうだろ」

「でもさ」

悠斗はストローを咥えたまま続ける。

「抱え込みすぎるタイプにも見える」

真白は思わず顔を上げた。

悠斗は軽い調子のままだった。

「支援職って、全部自分でなんとかしようとすると潰れるって、うちの姉ちゃん言ってた」

「お姉さん、福祉系なの?」

「看護師」

なるほど、と思う。

悠斗には時々、妙に現実的な視点がある。


四日目。

利用者の女性がパソコン入力でミスを繰り返していた。

だんだん表情が硬くなる。

「すみません……」

小さな声。

すると職員が自然に言った。

「大丈夫。確認しながらやりましょう」

責めるでもなく、急かすでもなく。

ただ、“失敗してもここにいていい”という空気があった。

真白はその様子を見ながら、ふと思う。

自分は、失敗しても大丈夫だと思えたことが、どれくらいあっただろう。


最終日。

振り返りの時間。

学生たちが感想を話していく。

「支援の奥深さを学びました」

「コミュニケーションの大切さを感じました」

そんな言葉が並ぶ。

真白の番になる。

少し迷ってから口を開いた。

「……“働けない人を支える”っていうより、“その人が安心して働ける方法を一緒に探す”場所なんだなって思いました」

職員が頷く。

「いい視点ですね」

真白は少し照れくさくなる。

でも、その言葉は本心だった。

福祉は、“できない人を助ける”だけではない。

その人が、その人の形で生きられるように考えること。

少しずつ、その意味が分かり始めていた。


インターンが終わった帰り道。

駅までの夕暮れの道を、悠斗と歩く。

蝉の声がうるさいほど響いている。

「お疲れ」

悠斗が伸びをする。

「疲れた……」

「真白、絶対考え込みすぎるタイプだよな」

「そんなことない」

「あるある」

笑いながら言われる。

その軽さが、少し心地よかった。

「でもさ」

悠斗が前を向いたまま言う。

「真白って、“ちゃんとしなきゃ”が強すぎる感じする」

真白は何も言えなかった。

風が吹く。

熱気を含んだ夏の風。

「別に、ちゃんとしてなくても死なないのにね」

悠斗は冗談みたいに笑う。

真白もつられて少し笑った。

でもその言葉は、不思議なくらい胸に残った。

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