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夜半の襲撃

 俺は特選隊の訓練を続けた。苛烈な訓練は隊員の体力だけでなく精神をもすり減らしていく。

 その中で不満が溜まっている者達がいるのも見えてきた。これはそろそろかもしれない。

 俺は野宿の中で浅い眠りについていると、地面を踏む小さな足音が聞こえた。


 この時間になれば熟睡していると思ったのだろう。

 足音から察するに二人。ゆっくりとこちらに近づいている。そろそろ起きて怒鳴りつけるときだろう。

 その時、俺よりも先に声を上げた者がいた。


「夜中に襲撃とは、情けないやつらだ」


 言ったのは丹瑞であった。


「静かにしろ」


 襲撃しようとした隊員が小声で丹瑞を黙らせようとした。


「お前、気づかんのか? 馬岱は起きているぞ?」


 隊長を呼び捨てするのはいかがなものかと思うが、俺は上体を起こして襲撃者を見つめた。

 先日、隊を抜けたいと言った者と、別の一人がそこにはいた。


「た、隊長」


 俺が起きていることに驚きの声を上げた。


「丹瑞、別に止めなくても良かったんだぞ?」

「止めなかったら、そいつらはどうなるんだ?」

「軍規を乱したことにより、それなりの罰を与える」

「ボコボコにして、更に処罰されるのか。良かったな、お前達。俺が止めて」


 丹瑞が言った。

 丹瑞なりの気遣いなのか、気が向いただけなのか分からないが、俺を襲撃した訳ではないので、ここで軍規違反として処罰する訳にはいかない。

 

「もう寝ろ。明日は休みにしてやる」


 襲撃しようとしてきた隊員は、それで気が萎えたのか去っていった。


「随分と優しいな」


 丹瑞が寝転んだまま、こちらを見て言った。


「部下の状態の管理も隊長の仕事だからな。しかし、意外だったよ。お前が止めるなんてな」

「お前が死んだら、俺の夢が絶たれるかもしれない。それは困る」

「そうか。将校になるのが夢だったな」

「おう。俺がお前を殺したら、隊長になれたりするのか?」


 丹瑞の思わぬ疑問に、俺は少し悩んだ。

 その考えはなかった。確かに隊を率いることになれば、将校への道も開けるかもしれないのだ。


「そうだな。俺を殺したら、隊長の座を譲るとしよう」

「それはいい話を聞いた。これでお前は昼も夜も気を張らないといけなくなったな」

「だが、俺に勝てなかったら、それなりに痛い目を見てもらうぞ?」

「ふん。人間、隙がないやつはいないだろう。せいぜい首を洗って待ってな」


 そう言うと丹瑞は口を閉じて、寝息を立て始めた。

 隙がない人間か。確かにどこかで隙を見せる場面は出てくるだろう。

 そんな時を丹瑞ほどの力自慢に攻められたら大変だ。俺も今一度、考えを改めなければ。


 俺は気持ちを切り替えて、眠りについた。



 朝方に目を覚ますと、李央が一人の隊員と話していたのが聞こえた。

 耳を澄まして聞いていると、どうやら隊から逃げようとしているのを李央が止めてようだ。


「隊を抜けて、どうするんだ? 馬岱隊長の口ぶりだと、地の果てまで追いかけてくるぞ?」

「だが、このままでは、訓練で死ぬかもしれない。その気持ちは分かるだろう?」

「訓練で死ぬなら、戦場でも死ぬだろう。訓練を生き延びれば、それだけ命が長くなるとは思わないか?」


 李央の言葉に隊員が、言葉に窮する。

 俺は李央の話を聞くことに徹することにした。


「馬岱隊長はお前が思っているよりずっと隊員のことを見ている。それはギリギリまで訓練をさせられるけどな。だが、それでも優しいと自分は思っている」

「それは……」

「逃げるのも良いが、その先で死ぬより、訓練を生き延びて、戦場で生き残る方に賭けた方が良くはないか?」


 李央の言葉で、隊員の気が削がれたのだろう。それ以上、言うことはなかった。

 その会話を聞いて少ししてから、俺は目を覚ました風を装って起き上がった。


「全員、起床!」


 眠っていた者達が目を覚ますと、直立した。


「今日の訓練は休みだ。思い思いに過ごしても構わない。以上だ」


 俺は昨夜、丹瑞と話した通り、休みの日を少し早めに設けた。

 休みと聞いて、そのまま眠りにつく者が多いが、中には個別に訓練をしてほしいという者も出てきた。

 隊員、それぞれに色々と思うことはあるだろう。ギリギリを見極めた訓練をしている中で、それでは物足りないと思う者も出てきたということだ。


 一人の隊員が馬術の訓練を申し出たので、馬に乗せて平原を走らせた。

 俺も馬に乗って後を追った。隊員は気持ち良さそうに馬を走らせている。

 確か、名前は宋憲だ。悪くない馬術だ。馬と一体になっている。


 宋憲は馬を止めると、馬から降りて地面に大の字になって寝転がった。

 俺は宋憲の傍で馬から降りると、語りかけた。


「訓練をするんじゃなかったのか?」

「馬に少し乗りたかったらのです。その方便です」

「なるほど。宋憲は馬が好きなのか?」


 そう言うと、宋憲は頷いた。

 宋憲は立ち上がると、馬の頭を撫でながら言った。


「馬は好きです。馬に乗ると、どこまでも行けそうな気がします」

「そうか。俺もそう思っていたこともあった。風になったような気がして、気持ちよかったな」

「今では、そうでもないんですか?」


 きょとんとした目で俺を見つめてきた。


「今でも好きさ。だが、もっと好きなものができたんだ」

「何ですか?」

「鳥さ。以前、鳥が大好きな人がいたんだ。その人と話をしてから、鳥の方が好きになった」


 そう言って、小蘭のことを思い出した。

 空を見上げては鳥が宙を舞う姿を見て、笑みを浮かべていたのを今でも鮮明に思い出せる。


「鳥も良いですね。でも、僕は隣にいてくれる馬の方が好きです。こうして触れて、一緒になって駆けるのが大好きなのです」


 宋憲が軍から弾かれたのは、騎兵としての才覚がありすぎたことだと関羽が言っていた。

 馬術に長けすぎて、周りを置いていくことがあったという話だ。


「宋憲は今の訓練が辛いか?」

「辛いと言えば、辛いです。でも、日増しに自分が強くなっているのを感じるのも楽しく思っております」

「そうか。そう言ってくれると、訓練のしがいがあるというものだ」


 俺が少し笑いながら言うと、宋憲も軽く笑った。


「隊長はもっと隊を大きくするおつもりですか?」

「そうだな……。劉備様のお許しがあれば、それもありかもしれん」

「じゃあ、俺達十三人が隊長になれるってことですね?」

「ああ、そうだな。俺が総隊長になれると考えると、もっと隊を大きくしたいな」

「そう聞くと、わくわくしてきました。僕が誰かを率いる日が来るなんて思ったこともなかったですから」


 宋憲は遠い目をして語った。

 自分が軍を率いて戦う姿を想像しているのかもしれない。

 俺もまだ自分の軍を率いて戦ったことがない。宋憲と同じように期待に胸が躍る。


「まあ、それには実績を積む必要があるから、それまでの辛抱だな」

「はい!」


 元気よく言った、宋憲の横顔を見て、何とか結果を出してやりたいと思った。

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