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李央と丹瑞

 兵士たちの訓練にまざって一月がたった。

 昼間は全体の訓練と、昼食後には一人一人と手合わせを行った。

 手合わせでは、俺に敵うものはいなかったが、これはと思う者もいた。


 その者たちについては徐庶に報告し、候補者として列挙してもらっている。

 もちろん、その中で関羽や張飛が欲しい者もいるので、無理に押しとおすことはしなかった。

 全員で話し合う中で、俺だけが気になった者が数名出てきた。その者については、俺から個別に話すと伝えた。


 翌日の訓練を終えた兵士の中で、一人の青年に俺は近づいた。


「李央、少し話しても良いか?」


 李央は驚きながらも、どうぞ、と言ったので、俺は隣りに座った 。


「李央は訓練は嫌いか?」


 俺が切り出すと、李央は少し驚いた表情を浮かべた。

 すぐに首を横に振ると、質問に答える。


「訓練は嫌いではありません」

「そうか。だが、少し手を抜いているな? あれはなんでだ?」

「手を抜いているつもりはありませんが。何故、そう思われたのですか?」


 先程とは違って、普段通りの表情で応えた。


「訓練中の動きだ。もっと動けるのに動かない。周りに合わせて動いているように見える」

「それは……」

「稽古のときも打ち込みが甘かった。お前の動きからは想像できない緩さだ」

「買いかぶり過ぎです。自分を過大評価し過ぎです」


 李央は首を振って否定した。だが、そうは思えないところがいくつもあった。

 俺は李央に踏み込んだ言葉を言った。


「実は李央には俺の副官になって欲しいんだ。俺は少数精鋭の部隊を作ろうと考えている。その最初の隊員に李央を選んだんだ」


 俺の真っ直ぐな願いにどう答えるのか。李央は少し考えるように目を伏せた。


「自分を選んでくれた事、嬉しく思います。馬岱様は何故、そのような部隊を作りたいんですか?」

「何故かというと、成り行きになってしまうがな。でも、俺はお前という原石を埋もれたままにしたくない。断られても何度も声をかけに来るぞ?」

「そこまでして自分を選ぶ理由はあるのですか?」

「ある。と、俺の直感が言っているだけだ」


 俺は軽く笑うと、李央は曖昧な表情をしていた。

 俺は言葉を続けた。


「俺の部隊に入れば、今まで以上に活躍できると考えている。そんな部隊を目指しているんだ。その中でお前が活躍してる姿が思い浮かぶんだ。頼む! 考えてはくれないか?」


 俺は頭を下げて、頼み込んだ。李央にはその価値があると思っている。

 そんな俺に根負けしたように、深いため息が聞こえた。


「馬岱様がそこまで仰るなら」

「本当か!? ありがとう」


 俺は今にも飛び跳ねそうな気持ちになったが、それは抑えた。

 李央の手を取り、感謝の思いを伝える。


「必ずお前が満足行くような部隊を作ってみせる」

「あ、あまり過激なのは好みませんが」

「精強な部隊なら、強くなくてはならない。訓練は過酷だぞ?」


 俺が上機嫌で言うと、李央は複雑な表情を浮かべたが決心してくれたのか、最後は頷いてくれた。



 俺は上機嫌で徐庶に李央を説得できたことを伝えに行った。


「徐庶殿、李央が誘いに応じてくれました」

「良かったじゃないか。これで隊員ができたってことだな」

「まあ、まだ一人ですけどね」


 俺は軽く笑ったが、徐庶は真剣な眼差しで書簡を見つめていた。


「実は張飛殿から、前線の部隊にそぐわない者がいるとの報告があってな。それが報告では武に優れてはいるが、周りと衝突することが多いと書かれていたのだ」

「それは気になりますね。ただ、部隊に入れても協調性がないと難しいのでは?」

「そうなるよな。馬岱、すまない。いらん話だったな」

「いえ。でも、少し気になるので、名前を教えてもらってもいいですか」

「ああ。名は丹瑞。だいたい一人で飯を食ってるらしいから目立つと思うぞ」


 俺は徐庶に礼を言うと、夕食を食べている者たちの中で一人ぼっちな者を探した。

 だいたいは同じ隊の連中で食べている事が多いから、一人は目立つはずだ。

 そう思い歩いていると一人で豪快に料理を食べている男を見つけた。


「飯中にすまない。丹瑞か?」

「あん? そうだがなんか用か?」


 なかなかぶっきらぼうに返事をしてきたものだ。俺の格好は将校の物だが気にしてはいない様子だ。

 丹瑞は飯を食べ終わるとげっぷをした。


「俺は馬岱という。劉備様の下で客将としている」

「その馬岱様が何の用だ?」


 これは口の利き方がいけない。ただ、張飛が手放す程だ。口だけではない、面倒なところがあるに違いない。


「丹瑞、お前はなんで兵士になったんだ?」

「そんなの決まってるだろ。飯食えるのが、それくらいしかなかったんだよ」

「劉備様の下で兵士になったのは?」

「曹操よりもマシな気がした」

「曹操と?」


 俺が問いかけると、丹瑞は忌々しそうに語る。


「曹操のところに行っても、どうせ兵卒のままだ。将校には取り上げられねぇ」

「なるほど。お前は立身出世を望みたいんだな?」

「おうよ。俺ほど強いやつは少ない。劉備様の軍はまだ将校が少ないから、取り立ててもらえると思った」


 丹瑞はただの乱暴者ではなく、夢を持って生きている事が分かった。

 だが、今のままでは取り立てられないだろう。それを伝える。


「力だけでは、将校にはなれないぞ?」

「なんでだよ? 他のやつより抜きん出てるのによ」

「協調性が無ければ兵卒で生きるのも難しいだろう。お前一人が活躍しても、戦況は変わらない。むしろ、お前のために死ぬ人間が増えるかもしれない」

「俺が戦場ですぐに死ぬって言いたいのか?」

「ああ。そうだ。隊の規律を守れないような男と一緒に動いてくれる者がいるか?」


 俺は丹瑞を挑発する。これだけ言われれば腹が立つのは間違いないだろう。

 腹が立てば自ずと。

 

「てめぇ、将校だと言って舐めてるな!」

「お前こそ、俺をただの将校として侮りすぎだ」

「んなら、勝負だ!」

「受けてたとう。俺が負ければ劉備様にお前を取り立てて貰えるように話をする」


 俺と丹瑞は木剣を持って構えた。以前の組手では、強い印象はあるが、怒りを交えたらどうなるのか。


「ちぇあぁ!」


 真っ直ぐに斬りかかって来た。上段から振り下ろされる木剣を半身になって避け、脇腹に木剣を叩きつけた。


「うっ!?」


 痛みを覚えたのか、苦痛の声をあげた。


「痛いか? 戦場なら今ので死亡だ」

「うるせぇ! 舐めるな!」


 今度は木剣を横に構えて、大きく振るった。

 それを後ろに飛びのいて避けると、踏み込んで一気に頭に木剣を振り下ろす。

 木剣が頭を捉えたところで、寸止めした。


「また死んだな?」

「クソが!」


 丹瑞は地面を蹴り上げて、砂を俺に浴びせた。

 悪くない戦い方だ。だが、目を閉じても感じる丹瑞の息遣いや、気配を感じれば避けるのは容易。

 横に飛びのいて、丹瑞の突きをかわす。もう、砂の影響はない。今度は伸びきった手に木剣を打ち込んだ。


「三度目だな。悪くない戦い方だが、所詮は子ども騙しだ」

「ちくしょう!」


 その後、何度も剣を交えて丹瑞の心をへし折り続けた。

 打ち合いにもならずに一方的に打ち込まれた丹瑞が地面に手をついて呼吸を荒らげた。


「どうした? その程度か?」

「くそっ……くそっ、くそっ!」

「悔しいか? それを晴らすためには何をしたら良いか教えよう」

「……何があんだよ?」

「俺の作る部隊に入ることだ。少数精鋭の部隊で戦場を駆ける。そこで認められれば将校の道も開けるだろう」


 俺の誘いの言葉に丹瑞は少し考えたが、すぐに顔をあげた。


「やる」

「そうか。ただ、生半可な覚悟ではすまないぞ?」

「構わねぇ」

「分かった」


 俺は上機嫌で徐庶の下へ向かった。 


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