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初めての訓練

 俺が劉備の傍にいる間、兵士たちの調練に参加していた。

 張飛は激しく怒鳴ってはいたが、兵士たちの疲労具合を把握しているのか、無理はしなかった。

 関羽もそれは同様で、兵士を潰さないよう訓練をしている。


 そこに俺は少し違和感を覚えた。

 精強な軍隊を作るには、脱落者が出てもおかしくない訓練をすべきだと思ったからだ。

 劉備と徐庶が並んでいたので、その疑問を投げることにした。


「劉備様、徐庶殿、少し聞きたいのですが、良いでしょうか?」

「ああ。何かあったか?」

「今の調練の仕方で兵士たちは育つのでしょうか? 確かに兵士は必要ですが、個々の能力に差がありすぎます」

「お前の言いたいことは分かる。弱い者が足を引っ張ることを懸念しているんだろう?」


 俺はその通りだと言わんばかりに力強く頷いた。

 劉備は言葉を続けた。


「確かに一人の失敗によって、作戦が失敗してしまうこともあるだろう。かといって、全員を同じ力量にまで押し上げるのも難しい」

「では、何かお考えが?」

「訓練を行い、兵士の向き不向きを見出す。力がある者は前線に、そうでない者は後方支援などに回す。こうすることで平均的に整った軍勢ができる」

「なるほど。ふるいにかけるのは、兵士の質を見極めてから、ということですね」

「そうだ。精鋭と呼べるものは関羽と張飛が率いている。平凡なものは、その他の者達が率いるようにしている」


 なるほど。力あるものは優秀な将軍の下に配置し、そうでない者は他の武将に回すということだ。

 そこで、一つ思いついたことがあった。それを二人に聞いてもらおう。


「今、精鋭は関羽殿と張飛殿にとのことですが、更に精強な軍勢を少数でも作れば、面白くなるのではないでしょうか?」

「ほお。少数精鋭で組むということか。悪い考えじゃない。ただ、それをするためには、避けて通れない道がある」

「なんでしょうか?」

「兵士が死ぬ。苛烈な訓練を強いれば戦場にでることなく、死ぬだろう。兵士たちも覚悟は持っているが死ぬ気と死ぬでは大きく違う。それは士気に関わることになる」

「そうでしたか。差し出がましいことを言ってしまい、申し訳ございません」


 考えがあってのことであれば、仕方がないことだ。俺には調練については、まったくと言っていいほど素人だ。

 兵士たちに交じって訓練はしているが、誰がどこまでできるのか見極めることはできない。

 それができるのは長い年月を戦場で過ごした関羽と張飛の勘というものがあるのかもしれない。


 納得していると、徐庶が少し悩みながら口を開いた。


「劉備様、私は馬岱の案に賛成したいことがございます」

「気になるところがあったか?」

「一定の水準の兵士を増やすことは戦いでは重要です。ですが、精鋭の中でも突出した兵もいることは確か。その者達で新しい隊を編成してみるのも一つの案かと」

「徐庶も思うところがある、ということだな。雲長や翼徳と相談してみよう。だが、それらを率いるとなると、雲長や翼徳を除くと数少ない。どの者が適任か判断に困る」

「いい人材がございます」


 徐庶はそう言うと、俺に視線を向けた。まさかとは思うが。


「言い出した馬岱に任せてはいかがでしょうか?」

「徐庶殿、お待ちください。私は兵士を率いたことがございません」

「馬岱、お前は自分が思っている以上に、優れていると俺は思っている。もっと自信を持て」


 あっさりと言ってくれる。嬉しい言葉ではあるが、そんな簡単に兵士の命を預かるのは難しい。

 俺は二人に断ることを話そうとした。


「馬岱か……。良い案じゃないか」

「劉備様!?」

「激しい調練をやってみることで、見えてくることもある。それはお前の訓練にもなるだろう」


 確かに今まで経験したことのないことができるのは分かる。

 自分の力になることなら、やってみるのもありかと思うが。


「私なりの訓練をして大丈夫なのでしょうか?」

「いいぞ。ただし、今、訓練している者達からお前が見つけるんだ。あとは、できるだけ人目につかぬところでやってほしい」

「士気に関わる、とのことですね。分かりました。やってみます」

「楽しみにしているぞ」


 劉備は口角を少し釣り上げた。試されているのだろう。

 だが、俺だって厳しい涼州で生きてきた人間だ。その意地を見せるとき。

 とはいえ、どのように人を見極めればよいのか。唸って考えている間に、昼の休憩になったので、兵士たちが昼食の準備を始めた。


 その時に、閃いたことがある。


「劉備様、昼食の準備に私が参加しても良いでしょうか?」

「それは問題ないが。将校のやることではないぞ?」

「まずは人を知ることから始めたいのです。では、行ってまいります」


 俺は言うが早く、昼食を用意している兵士たちの下へと向かった。

 俺のことは劉備から聞いているのか、最初は固辞されたが、俺はそれでもと食い下がり料理をお椀に入れることを任せてもらえた。

 渡す一人一人に労いの言葉をかけ、料理を渡していく。


 恐縮する者もいれば、いぶかしがる者もいる。それこそ、十人十色だ。

 だが、それでいい。まずは俺を知ってもらい、俺も彼らを知ることから始めたかった。



 二週間もすれば、見知った者達が増えてきた。

 訓練の中で音を上げるのが早い者、気炎を上げて一生懸命に訓練に励む者、訓練をそつなくこなす者などが少しずつ分かってきた。

 昼食時になれば、配膳係として料理を皆に渡し、共に食事を取ることを続けた。


 関羽や張飛のように皆から尊敬や畏怖を持たれるようなことはまだできていない。

 俺にできるのは、少しずつ兵士たちのことを理解することだ。そんな中で、よく張飛から稽古に誘われることが増えた。

 おそらくだが、俺が張飛と戦う姿を兵士たちに見せて、隊を率いる存在だと見せつけようとの考えだと思う。


 それでも、張飛には全く敵わないが、稽古を終えると兵士たちから拍手や労いの言葉をもらうことが増えた。

 こうやって皆に認めてもらうことができれば、兵士たちを従えることもできるだろう。あとはどう訓練をするかだが。

 俺は劉備と徐庶に相談をしに行った。


「お願いしたいことがございます」

「馬岱、何かあったか?」

「兵士たちと個別に稽古しても良いでしょうか?」

「問題はないが。お前の体は持つのか?」

「燕人張飛殿に鍛えられているのです。体力、気力ともに問題ございません」


 俺は意気込みを見せると、劉備は微笑んだ。


「兵士と交わること。それは大事なことだ。剣だからこそ交わせる言葉もあるだろう」

「はい。私なりのやり方で、もっと兵士たちのことを知りたいと思います」


 百人組手ならぬ、千人組手。どれだけ時間が掛かろうが成し遂げねばならぬ。

 こちらが折れてしまえば兵はついてこないだろう。兵士たちには俺が率いて問題ないことを知ってもらう。

 少しずつ相互理解を深めていくため、この稽古を関羽と張飛に伝えに行った。

 

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