それぞれの道
劉備との会合を終えた次の日。
司馬徽の塾で俺と諸葛亮、徐庶、龐統で集まって話をしていた。
「ほえ~、徐庶殿は劉備殿の下に行くのかい。仕官先が決まってめでてぇなぁ」
「劉備殿は、とても立派なお方だと思う。出会えて幸運だったよ」
「徐庶にそこまで言わせるたぁ、余程の人物なんだろうねぇ。馬岱は会ってみてどうだったぁ?」
龐統からの問いかけに俺は少し考えてから返す。
「ただの反曹操の方ではございませんでした。劉備殿の天下がどのようなものか気になりました」
「馬岱にもそう言わせるかぁ。ますます気になるねぇ」
「龐統殿もお会いできると良いのですが……。出立は明日ですよね?」
龐統は孫呉の周瑜から誘いの手紙が来ており、地元に帰ることと併せて孫権の所で働くこととなっている。
正直に言うと、劉備と会って話をしてみるのも良いかと思ったが、本人が決めたことにとやかくは言えない。快く龐統を送り出すだけだ。
「龐統殿、よければ今日はうちでお別れ会をしませんか? 我々のこれからを祝いましょう」
俺が言うと、龐統は照れくさそうな笑みを浮かべた。
「そいつはありがたいねぇ~。じゃあ、今日は馬岱の家で飲み明かすかねぇ」
「そうだな。俺たちの未来に乾杯といこうぜ。諸葛亮もどうだ?」
「私で良ければ参加させていただきます。漬物でも持って参りましょう」
諸葛亮が快諾してくれて嬉しかった。俺達と同じように名残惜しいのかもしれない。
そうと決まれば、新野城で酒とつまみを買いに行かねば。俺は司馬徽の講義が終わるとすぐに新野城へと向かった。
◇
日が傾く頃に諸葛亮と徐庶、龐統が集まった。
改めて見ると誰もが天下に名が上ってもおかしくない人材達だ。
俺は皆に酒をついで回って、音頭を取ることにした。
「えー、今日は徐庶殿と龐統殿の仕官を祝してささやかながら、お祝いをしたいと思います。皆さん、乾杯!」
俺が言うと、皆が口々に乾杯と言い酒を飲んだ。
つまみを食べながら語るのは今後のことについてだ。
「徐庶殿を得たってことはぁ、劉備殿も飛躍するかもねぇ。劉備殿に足りなかったのは軍師だっからねぇ」
「たしかに、一騎当千の武将はいますからね。徐庶殿への期待が高まりますね」
「出仕する前から圧をかけるな。酒が不味くなる」
徐庶は不機嫌そうに言ったが、それがおかしくて笑ってしまった。
次は龐統に話を振ろう。
「龐統殿も軍師になられるのですか?」
「う~ん、どうだろうねぇ? 呉は人材も多いし、周瑜殿がいるから、役人の管理官ってところかなぁ」
「十分じゃないですか。職務中にお酒が飲めなくなりそうですね」
「真面目に仕事するのは大変そうだねぇ」
龐統が言うと皆して笑った。こんなに笑えるのも今日までと思うと、少し寂しくなってきた。
徐庶が隣に座る諸葛亮に話しかけた。
「諸葛亮殿はどうするんだ? まだ仕官をする気はないのか?」
「そうですね。私は軍事よりも政治に興味があります。天下が定まってから、仕官しても遅くは無いかと」
「たしかになぁ。もったいないが、そういう考えも否定はできない。諸葛亮殿の飛躍の時を楽しみに待ってるぜ」
「ありがとうございます。徐庶殿の活躍を、ここで楽しみに聞かせていただきます」
諸葛亮は小さく笑った。徐庶の言う通りもったいないとしか言えない。
政治だけでなく、軍事にも明るい諸葛亮がこのまま埋もれてしまうのではないかと思ってしまったからだ。
馬騰の下で働かないかと何度も誘いたくなったが、諸葛亮の求める主君がどんな人なのか想像できなかった。
「馬岱殿? どうかされましたか?」
思いふけっていたことに気づき、慌てて言葉を発した。
「皆さん、私の事については気にならないのですか?」
口にした言葉がこれとは何とも情けない。が、皆が真剣に悩み始めた。
「馬岱、お前はどこに行っても活躍できると思うぞ。もちろん馬騰殿のところでもな。お前がいればどれだけ心強いか」
「徐庶殿……」
「そうだねぇ~。馬岱は腕はたつし、度胸もあるし、軍事についても貪欲だからねぇ。一緒に連れていきたいくらいさねぇ」
「龐統殿も……。そんなに褒めても何も出せませんよ?」
俺がおどけて言うと、皆して声を上げて笑った。
笑い声が静まると、諸葛亮がゆっくりと口を開いた。
「馬岱殿はこの乱世で様々なことを聞き、知り、体験しました。それは誰よりも多くのことを学んでいると私は思います。この中で最も手強いのは馬岱殿かもしれませんね」
「そんな、大げさな……。でも、嬉しいです。ありがとうございます。ああ、こうして皆さんとお話できるのも最後なんですね」
俺が感慨深く言うと、徐庶も同調してくれた。
「そうだな。俺自身は分からんが、諸葛亮殿に龐統殿は非凡な才能の持ち主だ。そんな人達と学べて、こうして酒を飲んで……。最高の時間を過ごせたよ」
「俺のことを忘れてませんか?」
「当然、お前の事もだよ。何かは言い表せないが、深いものを持っている。それがお前を強くしているんだ」
徐庶が微笑むと、俺も思わず笑みを浮かべた。
「おいらもそうさ~。司馬徽先生に呼ばれて来た時は、こんなに長くいるつもりもなかったし、こんな出会いがあるとも思ってなかったよぉ。皆、ありがとうねぇ」
「龐統殿も泣かせに来ますね」
「たまには真面目なことを言わないとねぇ~」
龐統が声を上げて笑った。俺達も笑い声を上げた。
諸葛亮がおもむろに口を開いた。
「もしかしたら、ここの四人はバラバラな主君を仰ぎ、戦うこともあるかもしれません。ですが、今日、この日のことは私は忘れません。どんな天下になろうとも我々は友でいましょう」
「諸葛亮殿……。俺、やっぱり悲しいです。この時間が続けばと思います。だから、また皆で集まりましょう。それまでとっておきの話を集めておいてくださいね」
「良いな、それ。馬岱に負けないような話を仕入れてくるぜ」
「おいらもだよ~。皆をあっと言わせるようなことを教えてあげるさねぇ」
全員で声を上げ笑った。この日、この瞬間を覚えていれば俺達はどこにいても一緒だ。
また逢う日まで、共に戦おう、学ぼう。体は離れていても想いは通じている。
それを確認しあえた夜であった。




