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義の人

 孫権より手厚い送り出しを受けて、俺は荊州へと戻った。

 家へ着くと一年以上放ったらかしになっていたので、傷んだところもある。そこの修繕もしなければだが、真っ先に無事を伝えたい人がいた。

 俺は諸葛亮の元へ訪れた。


「諸葛亮殿、ご無沙汰しております。馬岱、ただいま戻りました」

「馬岱殿、お元気そうで何よりです。司馬徽先生がお戻りになって、馬岱殿が呉に残ったと聞いたので、もしかしたらと思ってしまいました。取り越し苦労で良かったです」

「ご心配をお掛けしました。お詫びと言ってはなんですが、土産話ならば沢山ありますので、聞いていただけますか?」


 諸葛亮は微笑を浮かべて、こくりと頷いた。

 その顔を見て荊州に戻ってきたのだな、と感慨深く思ってしまう。

 孫策や孫権との出会いと別れ。長江解決団の活躍などを話すと、諸葛亮は少し驚いたり、笑みを見せてくれた。


 長々と居座ったため、夕方になってしまった。

 諸葛亮に家に帰ることを伝えて、また司馬徽の塾でと言って家を出ていった。

 家に帰ると誰かの気配がした。ツバメを呼び出そうとした時、懐かしい声が聞こえた。


「馬岱様、冥です」

「冥か。すまない。しばらく家を空けていた」

「呉に行かれたのは聞いております。呉に出向いて、直接話をとも考えていたのですが、あちらでも忙しそうでしたので、今日まで度々訪れていました」

「それはすまないことをした。わざわざ気を使ってくれてありがとう」


 俺は礼を言い、頭を下げた。


「冥が来たということは、筆跡が分かったのだな?」

「はい。筆跡は成公英のもので間違いございませんでした」

「そうか。ならばやはり韓遂が首謀者か」

「間違いないかと」


 やっとだ。やっと仇を見つけることができた。

 小蘭。君を追い詰め、死に追いやった者を見つける事ができたのだ。あとはいつ、韓遂を葬るかだが。

 それが悩ましい問題だった。今の馬騰と韓遂は友好関係にある。裏では策謀が渦巻いているだろうが、表面上は仲良くしている。


 となると韓遂を討つ機会は今ではないということだ。

 やつを討つ事ができる機会はかならず訪れる。そう信じて今は待つ他ない。


「冥、ここまで仕えてくれてありがとう。これからは君達の思うまま生きていくと良い」

「そう言われると思っておりました。ただ、大恩を受けた身です。あなたに仕えることが、それのお返しになると考えます」


 恩義を感じてくれているということだ。その思いを無下にしたくはない。

 だが、俺の求めている仇を探すことは満たされた。では、どうするのが良いか。

 俺はひとつの事を思いついた。


「冥、お前達にお願いしたいことがある」

「なんでしょうか?」

「俺が推挙した者を荊州から涼州に安全に案内してくれないか?」

「そのような事で、良いので?」

「今はそれで良い。時が来たらまた力を貸してもらいたい」


 俺の言葉に冥は微かに笑みを浮かべた。それが何なのか気になった。


「冥、どうかしたか?」

「更にたくましくなられましたね」

「そうか? 自分では変わっていないように思うが?」

「自分のことを測るのは難しいことです。ですが、外から見れば馬岱様は大きくなられたと感じました」


 冥の言葉は嬉しい反面、少し面映ゆい気持ちにもなった。

 色々な人と出会い、別れ。それが俺を強くしているのかもしれない。

 冥と久しく話してなかったので、今日は夜遅くまで語らった。



 司馬徽の塾に戻り、勉学に励んでいると徐庶と龐統が声を掛けてきた。


「馬岱、今日の夜は空いているか?」


 徐庶の問い掛けに俺は頷くと、龐統が笑みを浮かべた。


「それなら良かったよぉ~。どうだい? 久しぶりに語り合おうやぁ」

「良いですね。諸葛亮殿も誘いますか?」

「先に誘ったんだが、断られちゃったんだよぉ」

「そうだったんですね。俺で良ければ、お付き合いします」


 俺は龐統に合流する店を教えてもらうと、一旦、家へ戻ると伝えて塾を去った。

 龐統は酒好きなので度々誘われる。呉から帰ってきた俺の話を聞きたいのだろう。俺は家へ戻ると新野城へと向かった。



 龐統のお気に入りの店に着くと、中では龐統と徐庶がすでに飲み始めていた。

 俺の姿に気づいた徐庶が手招きをした。


「馬岱、こっちだ」

「龐統殿、徐庶殿、お待たせしてしまい、すみません」

「さっき来たところだ。龐統殿が酒が待ちきれなくてな。飲み始めてしまったって訳だ」


 徐庶が肩をすくめると、龐統が声を上げて笑った。


「馬岱の話を楽しく聞きたいからねぇ~。酒を飲まなきゃ始まらないよ~」

「いつもの龐統殿で安心しました」

「褒めてくれているのか、難しい返しだねぇ~」

 

 龐統が言うと、俺と徐庶も笑い声をあげた。

 俺が酒を飲み始めると、待ってましたと言わんばかりに徐庶が語り掛けてきた。


「司馬徽先生に聞いたぞ? 孫権と一緒にいたんだってな?」

「はい。しばらく共にいました。素晴らしい方ですよ」

「そうなのか。色々話せることがあるだろう? 今日はそこのところをじっくり聞かせてもらうぞ」


 これはしばらくは帰れなさそうだ。だが、俺も二人に聞いてほしい話がたくさんある。

 俺は呉に行くところからの話を始めた。



 気づけば日は落ち、夜が訪れていた。

 俺の話は終わり、二人から質問されたことにも答えたところで、そろそろ解散になろうとした。

 店員に勘定の話をしようとしたところで、隣の席にいた中年の男が呟いた。


「孫権……か」

「えっ?」

「すまない。盗み聞きになったな。詫びにここの勘定は任せてくれ」


 男が懐に手を入れたので、俺は慌てて首を横に振った。


「そんな詫びだなんて。こちらが勝手に話していただけですし」

「天下に名を連ねた孫策の弟、孫権の話だ。聞いてタダで帰るのは義理に欠けるってもんだ」

「そこまで仰るのなら。とはいえ、ここにはかなりののんべぇがいますので、酒代は高くつくかと」

「馬岱、聞こえてるよぉ~」


 龐統が何かを言っているが事実なので、無視を決め込んだ。

 店員に俺達の勘定を聞くと、男は眉を少しひそめた。


「これはまた、たっぷり飲んだものだな」

「でしょう? お気持ちはありがたく受け取ります」

「いや、ここで名が廃るようなことは粋じゃない。しっかり出させてもらうぜ」


 男はそう言うと、懐から銭袋を取り出して店員に渡した。


「釣りはいらないぜ」

「ありがとうございます。お名前だけでも聞いて良いですか?」

「俺か? 俺の名は劉備 玄徳」

「劉備 玄徳? あの有名な?」


 劉備と名乗った男に俺が問うと、男は頭を軽くかいた。


「どういう意味の有名かは、そっちに任せる。今日みたいに天下のことを話す日にまた会えたら、ゆっくり飲もうや」


 劉備はそう言うと、提灯の灯りに照らされた繁華街を後にした。


「馬岱、今のって?」

「劉備 玄徳……。たぶんですが、本物だと思います」


 俺にはなんとなく分かった。天下の器を持つ、一人の男だと。

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