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道化師の思惑  作者: 水嶋つばき
言葉の誘惑
49/52

7.言葉の誘惑-4

「……限界。……キスさせて。」


その答えを聞かないうちに、柔らかい唇に自分の唇を重ねた。

こいつに関してだけは…どうも抑えが利かない。

結構強引になってしまう自分がいるのに気付く。

それだけ余裕がないってことだろうが。

ただ唇を重ねるだけ

だけど軽くじゃなく密着させて

しばらく重ねてゆっくり離す

頭に

額に

目蓋に

頬に

次々と唇を落としていく

誰より愛しい

求め続けた存在を

自分の身体で確かめるように


「…武来…俺が好きか?」

「…好き…大好き…」

「俺も好き。」


同じことを何度も繰り返して問う

好きと言われることが

こんなに嬉しく思い自分を高揚させる

そして

もう一度唇に触れる

武来の唇全体を覆うように

そして角度を変えて

貪るように吸い付く

少し離すと漏れる吐息が

さらに俺を煽っていく

頬に手を添え

顎に滑らせ

少し下げる

それからキスの再開

今度は舌を絡めて

深く 深く 中に入る

彼女を捉えると

離さないように 逃がさないように

追い掛けて


「……っ……は……ぁ」

「勇…もっと。」

「……ダメ…息……ンン……」


甘い吐息 甘い声

可愛い彼女

……モウ、ハナサナイ……

何度も心で呟いた。


♪♪♪♪ ♪♪♪♪


「……はい。」


キスに夢中になって、武来が苦しさから逃れようと身を激しく捩り始めた頃、俺の携帯が鳴った。

唇を離すと、呼吸の浅い彼女の後頭部に手を当て、自分の胸に押し当てるように抱き締めた。

相手が誰だかも分かっているので、画面を見ることなくそれに出る。


『お邪魔虫です。颯汰。まだですか。』

「今行く。」

『コンビニで不良に絡まられてるので、早く助けに来てね。』

「アホか。」

『あ。ヒドイ。』


こうもタイミングよく電話を掛けてくる辺り、俺の限界時間を理解してるとさえ思ってしまう。

有り難い電話を切ると、ポケットに携帯を突っ込み、武来の頭を撫でる。


「…大丈夫か。」

「……大丈夫じゃないです……」

「ハハッ…そうか。ゴメン。」

「…謝るのは違うと思います。……苦しくてドキドキしたけど…嬉しかった。」


……こいつは、俺の理性を試してるのか?

そう思わずにいられない台詞。

崩壊前に彼女を離すと、正面で向き合う。


「…また明日な。」

「…はい。」


触れるだけの軽いキスを唇に落とす。

熱を持っている頬にも。

そして離れて部屋を出、コンビニに向かった。

孝太郎は、車の助手席に座り、月刊バスケットを読んでいた。

俺に気付くと雑誌を閉じ、運転席に座った俺にコーヒーを差し出した。


「……うるさい。」

「何!何も言ってねぇだろ!」

「目は口ほどにものを言う。」

「…………ケダモノ。口、テカってるぞ。」

「……お前。晩飯。抜き。」

「ごめんなさい。」


覚悟してたが、やはり孝太郎にからかわれながら帰路についた。


翌日、孝太郎を病院に連れていき、リハビリの間に武来にメールを打った。


《起きてる?》


《初メールです!これは保存しました。起きてます。おはようございます。》


ただ、一通のメール。

俺も保存しようかとさえ思うほど。


《孝太郎、12時までリハビリ昼飯、一緒食うか?》

《はい!どこに行けばいいですか?》

《家にいろ。迎えに行く。食いたいのある?》

《分かりました。マックでも、フレンチでも何でもいいです。》

《了解。少し待ってろ》

《はい。気を付けて》


ただのメール。

だけど、近くに感じられるメール。

携帯をしまうと、近くのブースに行って、軽く汗を流す。

今週末には遠征がある。

それに招集されているから、海外へ向かわなければならない。

それまでに、武来のことを考えて。

武来との未来を切り拓く。


「颯汰。お待たせ。」

「お互い汗だくだな。風呂して行こうぜ。」

「連絡とれた?」

「ああ。迎えに行くって言ってある。家にいるから平気だろ。」

「そうか。良かった。」

「お前にも武来の携帯教えておく。」

「個人情報漏洩。」

「構わん。あいつはお前が好きだからな。」

「…嫉妬しないでね?颯ちゃん。」

「アホか。行くぞ。」


急いで孝太郎の部屋に戻り、シャワーを浴びて武来の元へ向かった。


「…わぁー!!お二人とも、カッコいい!

……あ。こんにちは。来ていただいてありがとうございます!」

「「……………」」


(…颯汰。大丈夫か?)

(大丈夫じゃない。)

(だよな)

(慣れるまで時間を要す!)

(押し倒すなよ)

(約束できん!)


「先輩たち?どうかされましたか?」

「いや。何でもない。行こうか勇ちゃん。」

「はい。」


孝太郎がいなければ、確実に部屋に逆戻りさせてた自信がある。

ピンクのキャミソールを覆う小さい花柄のブラウス。

白のショートパンツ。

その明るさを、ベージュのサンダルで抑え、爪先に塗られたワインレッドが大人っぽさを演出。


(…生足アウトだろ!)


と、思わず心で突っ込む。


「カッコいいって?いつも言ってたじゃん?」

「孝太郎先輩。私、先輩たちの私服姿、初めてです。いつも制服かジャージだったから。」

「普通のGパンにシャツじゃん?」

「はい!カッコいい!」


昨日、初めて見た武来の私服。

武来にとっては今日が初めて。

どっちも新鮮に感じる辺り、離れていた時間の長さを思わせる。


「武来。」

「はい。」

「昨日の店でもいいか?」

「はい!大好きです。あそこ。」

「分かった。」


部屋で準備をしながら孝太郎と話した。

やっぱり落ち着ける場所がいいんじゃないかということで、同じ店に決めた。

武来は数あるメニューからまたエビグラタンをチョイスし、俺たちを笑わせた。

食事が終わり、コーヒーを飲みながらゆっくりとした時間を過ごし、武来が口を開いた。


「…昨日の話の続きでしたね。…えっと。死ぬことを諦めた…というのは、昨日の話を包含するものです。私は、手術をして生きることを選んだという意味。生きたいと思ってしまったから。」

「それがどうして諦めなの?」

「考えてみてください。それまで生きることを諦めていた人間が、真逆のことを行うんです。必要なものは生きるための執着心でした。私は、手術をしたからと言って、簡単に生きられるとは限りません。自分の生きる執着心がなければ、簡単に死ねます。なにもすることなく自然に。」

「…自然に?」

「はい。……ICDの電池寿命は約5年。私は5年に一度、この手術をしなければ、生き続けることはできません。」

「電池寿命…?…電池交換のためか?」

「そうです。それは一生続きます。」


確かにそうだろう。

機械が動くのは、その原動力があってこそ。

それが電池ならば、必ず寿命がある。

それを交換する作業をしなければ、武来が動かない機械のように停止してしまう。

一生続く手術。

本当に、生きたいと思わなければ。

その覚悟を保たなければいけないだろう。

何度も身体を切られる恐怖。

死を受け止めていた人間が、生きるためにその恐怖と戦う覚悟。

執着心と簡単に言ってるが、考えれば考えるほど簡単なことじゃない。


「武来は、その執着心を持てたと捉えていいのか?」

「…正直に言えば模索中です。」

「模索中?」

「はい。諦めた日…ウインターカップ優勝した日、先輩の言葉で決めたのは事実です。それだけで手術しました。…でも、手術したあとの喪失感は、今でも拭えないのが現状です。」

「…それは、サーカス?それとも颯汰?」

「…どちらもです。」


孝太郎の質問には意味がある。

武来の言った3つの諦めが、恐らくここで繋がると思っていいはず。

すると武来が顔を上げて俺を見た。


「夏目先輩に告白してぶつかっていったのは、ちゃんとした理由があります。」

「……うん。」

「私、先輩と付き合いたかった。」

「「……………」」

「死ぬ前に、好きな人と付き合いたかった。」

「「……………」」

「先輩みたいに、人生を語れるように精一杯生きて死にたかった。」

「「……………」」

「付き合ったら、そのすべてが出来る。キスもそれ以上も。」

「「…………ん?」」

「先輩に抱いて欲しかった。」

「「ブッッ!!!!」」


問題発言!!爆弾発言!!

孝太郎と二人、思わず動揺した。

孝太郎と見合うと、顔が真っ赤。

多分、俺も真っ赤だろう。

クスクス笑う声が聞こえ、そこに目を向けると、口元に拳を当てて押し殺した笑い方をする小悪魔の姿。


「…先輩たち。可愛いです。」

「「うるせーな!!」」


…本当。こいつには敵わない気がしてきた。


「…あ…あのさ…勇ちゃん。」

「はい。」

「抱かれたかったって…マジで?」

「もちろん!」

「け…経験は?」

「そんなこと、女の子に聞くものじゃないですよ。孝太郎先輩。デリカシーないですね!」

「すみません…」

「ないだろ!バカ。」

「「は!?」」

「処女全開ですって顔すんな!」

「あるかもしれないですよ!」

「嘘つけ。キスでビビってたくせに。」

「…あ。そういうこともありました。」

「昨日だって逃げ腰」

「わーーー!わーーー!ちょっと!夏目先輩!孝太郎先輩がいるんですよ!なんてこと言うんですか!」

「事実だろ。」

「孝太郎先輩。今聞いたことは嘘です。何かの間違いです。スルーしてください。」

「ゴメンね?勇ちゃん。俺は颯汰の味方だから颯汰の言葉を信じるよ。昨日、颯汰の口がテカってたし?」


ゴンッッ!!!

自分から話を始めたくせに自爆した。

テーブルに思いっきり頭をぶつけながら項垂れた姿を見て、また爆笑した。


「…だって…」

「「ん?」」

「本当に…抱かれたかったんです…」

「「……………」」

「…綺麗な身体…見て欲しかった…」

「「え?」」

「死が近付くと入院が増える…それも覚悟してたんです…たくさん管を通されて…点滴とか注射の跡とか…それをやり過ぎて、真っ青にアザができたり…検査のためのカテーテルの穴を開けたり…傷がどんどん増えていくのも分かってた…その時期も近かった…だから…綺麗な身体を好きな人に見てもらいたかったんです…」


…女の子って感じの理由。

純粋な切なる願い。

聞いた瞬間、自分との戦いを始めるために、心の準備をしていた武来の心情が伝わった。

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