6.記憶の誘惑-8
ほぼ試合で休みがない日曜。
たまたま行った公園で、たまたまイベントがあって、たまたま武来がいて。
そして、今度のイベントの日も、たまたま試合がない。
「イベント始まる時間から行こうな!」
「…朝、早いんじゃね?」
「お前な。勇ちゃんのためだろ!」
「お前が熱くなってどうすんの。」
「あ!お前なーー!俺の言ったこと、全然覚えてないだろ!クソ!」
「…何。」
「あの子、化けるって言っただろ。」
「化け………あ。ああ、言ってたな。」
「絶対いい女になってるぞ。」
「だから。彼氏いたらどうしようって言っただろ!それだけでも不安。」
「だから捕まえておくんだよ!早目に!」
あれから3年。
高校の時に会ったっきり、一度も見ていない。
武来が可愛いと思った記憶も、綺麗だと思った記憶もある。
どんな女に成長しているんだろう?
俺をまだ好きでいてくれてるだろうか?
期待と不安でいっぱいの自分。
「…颯汰。」
「ん。」
「絶対捕まえろよ。」
「ああ。」
俺は、諦めないと決めた。
仮にフラれても、追い掛ける。
あいつがそうだったように、振り向いてもらえるまで告白してやる。
毎日武来のことと孝太郎のことだけを考えて過ごし、やって来たイベント当日。
朝から照りつける日差しに目を覚ます。
「…颯汰!起きろ!」
…俺よりテンションが高い孝太郎に蹴られて起こされた。
「…お前な…よく考えてみろよ…午前中は病院だろ。焦るなって。」
「病院は病欠にしておく!」
「はぁ!?アホか。ダメ。」
「なんでだよ!勇ちゃん来てるかもよ!早く行こうぜ!」
「大丈夫だって。落ち着け。」
管理事務所から手に入れたスケジュール。
そこには、イベントの内容が事細かに書かれていて。
武来が来るであろう大道芸は、11時から16時までの予定で組み込まれている。
それを孝太郎に見せると、大人しくなった。
「…早く見せろよ。こういうのは!」
「ああ。悪ぃ。忘れてた。」
「まぁいいや。じゃ、早く準備して病院行こうぜ!」
ケンケンしながら部屋の中を自由に動き回る孝太郎を見ながら、自分でも興奮してきたのが分かった。
「俺。ちょっと緊張してる。」
「アハハ!かわええのぅ。」
「…誰だよ。お前。」
大の男が二人、テンション高い状態で朝食を食うなんて。なんか面白い。
俺も孝太郎も準備を済ませると、まずは病院に向かって車を走らせた。
リハビリを終えて公園に向かう。
そこは前回同様、たくさんの人で賑わっていた。
時間は12時30分。
既に武来が来ているはず。
「颯汰、勇ちゃんいた?」
「その前にやりたいことある。」
「何?」
「疑惑の払拭。」
駐車場から公園に入ると、入り口に立っていた熊が先に目に飛び込んできた。
そいつに近付いて話し掛けた。
「…お前さ、俺を覚えてる?」
そう言うと、頭を縦に動かした。
こいつも、この前と同じ中身だ。
そして、腕をガシッと掴む。
熊はビクッとして固まった。
(…こいつ、男だ。武来じゃない)
結構筋肉質で太い。
でもムダな贅肉などない。
女の柔らかさなど欠片もない。
「悪い。この前はありがとうな。熊。」
また首を数回縦に動かすと、手を振った熊。
あいつがどうしてあんな行動をしたのか分からないが、今はそれより…
「あの熊、何者?」
「ここに来たとき、風船もらった。」
「…は?」
「そんで頭撫でられた。…一瞬だけど、武来だと思った。その確認。中身は男だ。」
「なるほどね。」
「…足は平気か?」
「おう。松葉杖も慣れてきたし。
…で?勇ちゃんはどこ?」
「多分あっちにいる。」
建物の裏から回り込み、この前座っていた花壇の近くを覗いてみる。
「……いた。」
「……あのピエロ?」
「ああ。この前と同じ。」
そこには多くの人に囲まれたピエロの姿。
恐らく、武来であろうピエロ。
「…確かに分かりづらいな。180弱はあるぞ。どうやって伸ばしてんだ?あの身長。」
「男だろ?歩き方も行動も何もかも。」
「…うーーん。さすが道化師と言うべきか。」
「まだ時間はある。飯でも食おうぜ。」
飲食ブースに向かうと、適当に買ってテーブル席に座って二人で食いまくった。
少し腹が落ち着いた頃、孝太郎が話し掛けてきた。
「勇ちゃんかどうか、混乱してきた。」
「お前が言ったんだろ。」
「実際見ると、颯汰が気付かなかったのが分かったよ。」
「俺、お前を信じる。自分も。」
確かに感じた風は、武来以外の何でもない。
抑えてた自分を一瞬解放した。
きっと、俺が落ち込みすぎてて心配だったから。
自惚れだと言われても構わない。
「孝太郎。」
「ん?」
「あいつと別れる前、俺は約束したんだ。」
「何を?」
「本物の武来を見せてくれって。武来はいいよって言ってくれた。でも、帰ってきて近くにいても姿は見せない。道化師ぶりを見破れと条件つけてきた。それを飲んだんだ。本物のあいつを知りたい一心で言った一言だったけどさ、武来は勇気がいるって言ったんだ。」
「…本物の勇ちゃん…?」
「そう。本来は大人しい女なんだと。」
「ハハッ!考えられねぇな!」
「まぁな。でも、ふとした瞬間に感じることがたくさんあった。だから、多分本当だと思う。同時に武来も俺に言ってきた。闇を見せろって。
…俺の闇と言えば綺羅のことだろ?」
「…勇ちゃんは気付いてたのか?」
「さぁな。勘のいいあいつのことだ。もしかしたらそうなのかも。それに、俺があいつを好きだと気付き、俺からも告白したのに付き合えないと繰り返し言ってきたからな。何か抱えてると分かったんだと思う。」
「そうかもな。」
「ああ。…あいつの本当の姿を言う勇気が要るならば、俺から先に言おうと思う。あったこと全てを。それできっかけを作ってやる。」
なぜだか分からないけど、そうした方がいいような気がした。
武来と会いたい。話したい。
やっと見つけた。
全てを見せるから、お前も見せてくれ。
そして、傍にいて欲しい。
「…そんで。シャチハンティングしようと思う。」
「…何それ。」
「シャチは獲物を仲間と狩る。俺、あの日と同じ場所で座る。武来は必ず俺のところに来る。お前をことをちらつかせて聞かせれば、俺の隣に座って聞くだろう。それでほぼ完了。あとはお前が登場して、逃げ場をなくす。」
「なるほど。確かにシャチハンティング。追い込み漁って感じ?」
「そ。15時までは、ここらでブラブラしてようぜ。あとは別行動。俺、1時間は花壇のとこで座ってるから。」
「了解。」
スルッとフェードアウトしてしまう武来。
俺は何度も見てきた。
そうはさせない。今日こそ絶対に捕まえる。
15時になると孝太郎と別れて花壇の縁に座る。
直ぐ傍で、ピエロが一生懸命パフォーマンスをしていた。
1時間。その様子を、目を離さず見ていた。
俺に気付いてる?……なんて愚問。
あいつは俺に気付いてる。
……ほら。な。
パフォーマンスを終えて。片付けを終えて。
集まってた人だかりが消えた頃、ピエロが荷物とボードを手に近付いてきた。
「…よう。久し振り。」
《自殺してなくて良かった》
《またなんかあった》
「…ダチのことはもういいって思って。それを言いに来た。この前励ましてくれたのに、散々な結果になってしまって悪かったな。」
《なぜ》
《離れたらだめだ》
「いいんだよ。もう。」
すると、餌が餌に食い付く。
俺の隣に座った道化師。
まんまと引っ掛かってくれて、顔が緩みそうになる。
直ぐに腕を掴むと、あの細い武来の感触。
そして、俺の言葉に動揺して、目を丸くして見上げた。
同時に感じた武来の風。
「……捕まえた。見付けたぞ。……武来。」




