6.記憶の誘惑-7
…本当に必死だ。
カッコ悪…
「…あー…笑った…で?どうする気?」
「お前の言う通り、管理事務所に行ってみる。」
「…なんだ。結局行くんじゃん。」
「そんで、また呼べって脅してみる。」
「脅…!?颯汰、あのなーー。」
「もしくはここで張ってるか。」
「…俺のストーカーか。」
「どっちかと言えば、管理事務所を脅す方がいいだろ?」
「…同意を求めるなよ!」
武来の連絡先を教えてくれと言えば済む話。
大道芸人として生きているなら、きっと営業等で自分を売り出しているはず。
個人的なものではなく、経営的な連絡先を管理事務所は知っているはず。
でも、それだけじゃまた逃げられてしまうかもしれない。
どうせなら、今度のイベントにも呼んでもらうように言って、その場であのときと同じように待っていれば、あいつは自分から俺に接触してくる。
自信がある。
あいつは、俺を放っておけない。
「あーらら。生き生きしちゃって。」
「…悪いか。」
「べっつに?」
「お前がメールくれてから、いいこと続き。なんか、辛かった3年が清算されていく感じ。」
「…捕まえろよ。颯汰。お前がここまで執着した一人の女だぞ。絶対に捕まえろ。きっと勇ちゃんも待ってる。お前のことを思ってずっと待ってるはず。」
「…そう願う。」
「何?」
「次に会ったとき、秘密を打ち明けると約束した。多分、それを怖がってる。」
「お前が支えてやれ。元より、そうする気だったんだろ?」
「分かってる。」
「とりあえず、今すぐに行ってこいよ。善は急げだぞ。待ってるから。」
「ああ。ありがとう!」
背中を押されて病院を飛び出した。
トレーニングも兼ねて、公園まで走って。
(武来…!武来…!)
その間に思い出した武来の記憶。
あの一生懸命な告白に、何度も心を打たれた。
ずっと傷付けてばかりだったのに、あいつはそんな俺でも好きだと言い続けてくれた。
俺もあいつが好きだと気付いたあとは、心の中で何度了承の意を唱えたことか知れない。
どんなときでも俺を信じてくれた。
会場や選手全員が逆転を諦めていた試合でさえ、逆転できると信じて疑わなかった。
それが約束だったから。
俺は…バカかもしれない。
そんなあいつを諦めかけていた。
あいつの一途な想いが好きだ。
あいつの笑顔が好きだ。
あいつの仕草が好きだ。
あいつのさりげない気遣いが好きだ。
あいつの俺を見る瞳が好きだ。
少し考えただけでも、俺はこんなにも武来が好きなんだ。
思い返せば、武来がいてくれたから綺羅と別れられたと言っても過言ではない。
俺を長い呪縛から解き放ってくれたのはあいつだ。
初めて自分が好きだと思った女。
ずっと傍にいて欲しいと願った女。
(それを忘れちゃいけない!)
「すみません!この間のイベントで、ここに大道芸人来てましたよね!今度のイベントも見たいんですけど!また呼んでもらえませんか!
…って言うか呼んで!……呼べ!!」
「……は…ハイ……」
…あ。
本気で脅してしまった。
そこまでする気はなかったのに。
カッコ悪…俺…
「…結構人気者なので…定期的にお呼びしてますよ。」
「…マジで…!?」
「ええ。来月のイベントにも。」
…結果オーライ。
意外なところで意外な情報入手。
「孝太郎ーー!!!」
「どわっ!!……颯汰!ビックリするだろ!ノックくらいしろ!」
直ぐに戻って病院に行って。ドアを開けたら怒られた。
…どれだけテンション高いんだよ。俺…
「…収穫あったんだ?何だって?」
「あいつ、定期的にイベント来てるって!こんども呼んでるって!」
「やったじゃん。」
「あとな、俺はあいつが好きだ!」
「…プッ!…知ってるし。」
「俺、諦めちゃいけないんだよ!」
「諦めていたのかよ。」
「半分以上!」
「ハハッ!素直に認めちゃったな!おい。」
「…絶対に捕まえてみせる。何があっても捕まえる。今度こそ。」
気分は、狙いを定めて身を潜めつつ、一歩一歩近付いていくハンターのよう。
「…お前、なんて顔してんだよ。」
「?」
「ウインターカップで優勝した試合の第四ピリオド前の顔に似てる。」
「…俺、ハンター。」
「またワケわからねぇことを。」
「俺、ハンター。獲物、あいつ。」
「…!ああ、そういうことね。頑張れ颯汰。」
「頑張る。…お前も俺が手伝う。」
「何を?俺は婚約者がいる身なんだが?」
「そうじゃなくて。明日からリハビリ一緒に行く。退院したら、俺が家でマッサージしてやるから、やり方覚えなきゃ。」
「…たまに何考えてるか分からなくなるな。お前は。勇ちゃんのことで頭がいっぱいだと思ったら、俺のことも頑張る。とか。」
「腹減った。それ食っていい?」
そこにあったバナナを食べながら、見据えた目標を捉えたら、俄然やる気が出てきた。
負けてる試合で、あいつを見た瞬間に騒いだ血が、今の俺を流れてる感じ。
俺は諦めたらいけない。
単純だけど、一番明快だ。
武来のことが好きだ。
それだけでいいと思う。
あいつだってそうだった。
俺が好きで、それだけでぶつかってきた。
好きだから諦めない。
孝太郎だって好きだ。
こいつはまた、俺と一緒にバスケット出来る。
その気持ちが大事。
バスケすることを諦めない。
俺が諦めなければいい。
俺が支えになるって自分に誓った。
それを実行するまで。
「颯汰?」
「ん。」
「お前はカッコいいな。…お前と一緒でよかった。ずっと親友でいてくれよ。」
「…当たり前のこと言うな。」
「俺、バスケしたいよ。だから頑張る。」
「俺も。」
翌日、朝から病院に向かい、孝太郎とリハビリテーションに行った。
「家で出来るマッサージとかリハビリとか、教えてください。」
技士は、快く応じてくれて。
それが普段やっているスポーツマッサージに似ているものだと言われ、直ぐにあらゆる方法と手順を覚えた。
病室に戻ってからは、孝太郎の上半身の筋トレをやる。
マットを借りて床に敷き、ボールを使ってツイスト腹筋させたり。
背筋を鍛えさせたり。腕立て伏せをさせたり。
それから、元気な方の足の筋力低下を防ぐトレーニング。
片足で立って、その場で立ったり座ったりを繰り返して。
もちろん、武来から教えてもらったバランストレーニングも忘れずにやる。
最後に、使った筋肉を解してクールダウン。
俺も同じメニューを一緒にやって。
一人じゃなく、一緒に戦っているんだと示していく。
「颯汰。…楽しい!」
「俺も。」
「なんかいいな。こういうの。やっぱりお前が一緒にいてくれないとつまんねぇ。」
「俺。モテてる。」
「アハハ!チューでもするか?」
「……………」
「考えるな!否定しろ!」
そうして一日が終わった。
それを退院するまで続けた。
孝太郎と相談して、一時は孝太郎の部屋で俺も寝泊まりすることになった。
「颯汰。ゴメンな?」
「何が。」
「お前をこき使って。疲れてるのに。」
「別に。俺が怪我したらお前をこき使ってやろうと画策中。恩を売ってんの。」
「アハハ!任せておけ。」
「家事は俺がやってやる。お前は筋力落とさないことだけを考えてろ。それから、車椅子は返すぞ。松葉杖だけでいいだろ。」
「ひゃー…キビシイ!」
「明日、病院に行ったあと、ブースに行ってシュート練習すんぞ。」
「マジで!行く!」
試合の時は、ここを離れなきゃいけない。
いるときだけでも、孝太郎のために出来ることをたくさんやって支えてやる。
喜ぶこと、好きなこと、慣れ親しんだ孝太郎相手だから理解している。
その考え得るものを、出来るだけ全部、こいつのためにやってやりたい。
「…俺、尽くす。」
「……は?」
「尽くすタイプ。かも。」
「なんだ!いきなり!キモいぞ!」
「お前、ご主人様。俺、奴隷。」
「…またワケ分かんねぇことを…」
「飯、出来たぞ。食え。ご主人。」
「ハハッ!どこが奴隷!?随分横柄な態度!いただきます!…お。美味い!」
孝太郎が笑うと、俺は嬉しい。
武来が笑うと、俺は嬉しい。
大事な二人。失いたくない二人。
一度失いかけた孝太郎は、今、傍にいてくれている。
武来は失ったまま。
だから、心の隙間も穴が開いたまま。
「颯汰。今度勇ちゃんのとこ行くとき、俺も一緒に行きたい。」
「……ああ。」
結果が最悪だった場合、俺が支える。
多分こいつはそう思っただろう。
武来と別れたプラットホームでそうだったように。
大事な親友は、いつだって俺の支えだ。
翌日は約束通りバスケットブースに行ってシュート練習。
片足でジャンプしながらシュートを打つと、それだけでかなりの筋トレとバランストレになる。
全体重を乗せてジャンプし着地。
片足だけでは不安定だし、着地は困難を極める。
それを簡単にやってのける孝太郎は、さすがというべきか。
ゴールから少しずつ遠くに移動しながら、楽しそうにシュート練習する孝太郎。
俺はそのゴール下に待機して、ボールを待つ。
シュートされたボールを孝太郎にパスする。
その繰り返し。
「ナイッシュー!孝太郎!」
「やべ!楽しい!」
「足、大丈夫か?」
「まだ飛べそう!」
「無理すんな。そっちの足までイカれちまう。」
「あと50本くらい!」
「了解。」
それが終われば、使った足を念入りにマッサージする。
筋肉を解し、疲労を蓄積させないように血流を促し、最後に持ってきた氷でアイシング。
たくさん水分を摂らせて、疲労を汗と尿で体外に出させる。
「今度は颯汰の番!俺がゴール下にいる。」
「いいよ。座ってろ。」
「俺もお前にパス出ししたい。ただし、ゴール下からは動けないからな?」
「…外すなってこと?」
「そういうこと。」
「了解。」
何本もシュートを打って、その度に孝太郎がくれるパスは嬉しいものだった。
一緒にバスケットやってる。
孝太郎が頑張ってる。
これ以上の喜びがあるだろうか?
「…マジでタフだな!お前。」
「……え。ゴメン。夢中になりすぎた。」
「300本越えてんぞ。」
「マジで?悪ぃ。足、平気か?」
「おう。ちょっと座らせて。」
ベンチに腰を落とすと、冷たいスポーツドリンクを飲み干した。
「気持ちいいな!颯汰!」
「ああ。」
「…また、連れてきてくれる?」
「今日みたいな無茶するやつはダメ。右足と腰までイカれるだろ。」
「100で止める!約束する!」
「それならいい。でも明日はダメ。毎日したいなら約束守れよ。」
「ハハッ!分かった!」
事故以来、見ることのなかった清々しい顔。
試合後の孝太郎の顔だ。
それが見れたから、ちょっとはストレスが発散されたと思ってもいいだろう。
「そうだ。勇ちゃん計画はどうなった?」
「何。その計画名。」
「いいじゃん。イベント、行けるの?全日本の試合は?」
「2週間試合がないんだよ。ちょうどその時。そうだ、日程表あったはず。あとで見せる。」
「おう。でもラッキーだったな。日曜なんて、大体試合で潰れるのに。そう考えれば、この前勇ちゃんと会えた日も、金土で試合だったんだろ?運命じゃね?」
「運命?そんなのあるの?」
「さぁな。でも、言いたくなるじゃん?ここまで上手く事が運ぶと。」
「…そうだな。」




