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道化師の思惑  作者: 水嶋つばき
6.記憶の誘惑
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6.記憶の誘惑-6

はぁーー!と溜め息を吐いた孝太郎は、再度俺を真っ直ぐ見上げた。


「この切り抜きは、多分勇ちゃん。」

「……え。」

「決定打が二つある。一つは、今言ったこと。3年前の5月。この中途半端な時期からの切り抜きは変だろ。俺は、それ以前からお前と話題になってて、注目選手として名を馳せていた。なぜその時期なんだ?と考える時間は大量にあったから考えてみたら、ちょうどお前と一緒にいた俺が、あの子に自己紹介した頃だ。夏目データなるものに、俺がインプットされた時期だ。」

「……………」


夏目データ

思い返せば、その記憶がある。

俺と友達だと言ったら、とても喜んで聞いていた彼女が目に浮かぶ。


「…もう一つがこれ。…見てろよ。」


指を指された場所を見ると、丸い頭と棒線で描かれた両手足と胴体。

学生の頃、教科書に描いてたパラパラ漫画と同じイラスト。

切り抜きの端に描かれたもの。孝太郎が端だけを見せるようにパラパラ捲る。

主人公は一人。

一生懸命バスケットをしていて。

仲間が一人増えた。

二人でバスケをやり始め、その姿形が大きくなっていく。

子供から大人になったんだ。

それでも、一緒にバスケをしてて。

手を繋ぎ、肩を組んで、歩いていく。


「…紛れもなく、俺とお前だ。勇ちゃんがここに毎日通ってきてくれてる。お前と気まずくなった翌日…翌々日辺りからだ。俺を励ますために。毎日欠かさずこれを持ってくる。」

「……………」

「勇ちゃんは、俺の怪我を知ってる。」

「……………」

「俺の怪我は、月刊バスケット優先に全国に知れ渡るはずだ。スポーツ新聞にも載ってない。

…しかも、俺とお前が気まずくなったことも知ってる。

……お前、心当たりがあるか?」


あの日感じた武来の風はやはり本物だった。


「……クソ……あのピエロ!!!」


俺より少し低いくらいの身長

僕を始めとするぶっきらぼうな言葉遣い

その風貌や歩き方

すべてにおいて、『男』という先入観を持ってしまっていた自分に気付く。


「やっぱり!お前、会ったんだ?」

「会ったことになるのか?」

「……は?何言ってんの?」

「…気付かなかった…」

「…はぁ!?どういうことだよ!」

「いや、俺さ、お前に来るなって言われた翌日に、公園で武来の風を感じたんだよ。そこで会ったピエロが妙に俺に気遣っててさ…」

「それが勇ちゃんだろ。」

「…今思えば…そう…かも?」

「なんだそりゃ。」

「そいつから風は感じなかった。身長だって俺より少し低いくらいだし…3年で成長したのかな…」

「おいおい。しっかりしろよ!」

「…気遣ったと言えば…着ぐるみからも…

……あれ?どっちなんだ…?」

「…俺の話をしたのは?」

「ピエロ。」

「じゃ、そいつだろ。」

「孝太郎の名前は出さなかったぞ?ダチってしか言ってねぇ。」

「アホか。お前のダチって言えば、あの子なら俺を連想するだろ。」

「…そう…だよな…」

「…で?どこに行った?」

「…さぁ。知らない。」

「アホだな。お前は。」


二人して溜め息を吐いた。

でも、考えれば考えるほど武来にリンクする。

いろいろ落ち込んで考えて。いい答えなんて何一つ思い浮かばなかったあの日。

ただ、離れるなという単純な答えは、すんなりと受け入れることが出来た自分。

その時に、俺が一番求めていた答え。

それが最善だと分かっていても、葛藤があって邪魔していた。

それを取っ払ってくれた。

いつだってあいつは、俺の雰囲気や状況を判断して、的確に話してくれる。

道化師っぷりを見破れなかった。

あれだけ豪語しておきながら…

自分が情けない。


「…あれ?…ちょっと待て…」


ふと過った会話の一部。


「…孝太郎…」

「ん?」

「…あいつさ…声を出さなかったんだ。ボードで会話してた。声を出せばバレるからだろうけどさ…あいつの歳を聞いたんだ。22って言ってた。…どういうことだ?」

「カモフラージュじゃない?」

「…そうかな?」

「そうだよ。」


あのピエロが武来ならば、すんなりと返答したのはなぜだ?

カモフラージュだろうが、あいつの嘘ならば見破れる自信はある。


「……………」


何だろう?

記憶の端々に、何か引っ掛かりを感じる。

その答えを探っていると、部屋にノックの音。


「…あれ?夏目くん。…仲直りしたの?」

「こんばんは。」

「仲直りって何っすか。喧嘩してないっす。」

「はいはい。でも良かった。浅野くん?夏目くんは一生懸命やってくれてた。感謝しなさいよ?」

「…分かってますよ。…何か用?」

「ああ、明日、先生から状態説明があるから。リハビリ行く前に、2階のカンファレンス室に行ってくれる?」

「分かりました。」

「それから面会時間過ぎてる。…今日は仲直りしてるようだから見逃してあげる。でも、そろそろ帰るようにね?」

「すみません。ありがとうございます。」


いつの間に過ぎていたんだろう。

慌てて荷物を持った。


「…颯汰!」

「ん?」

「明日、合同トレ行くの?」

「ああ、まだ決めてねぇや。」

「…あ……だったらさ……だったら……」

「了解。自主トレ済ませて、午後からここに来るよ。…なんか欲しいのあるか?」

「…ない。」

「そうか。じゃ、明日な。」


孝太郎の感情が駄々漏れ。

離れてた分、たくさん話したいと。

俺だって同じだった。

軽くなった心を感じながら、病院をあとにした。

家に帰って風呂に入り、一日の疲れと汗を流す。

孝太郎とのことが解決できただけでも、俺にとっては心が晴れやかになるのに、さらに武来が近くにいたという嬉しい事実は、顔が綻んでしまうほど。


「……………」


そうだ。その事を考えていたんだった。

武来が…歳上?

ちょっと驚いたが、そういえば…と記憶を辿っていくと、会って間もない段階でそれとなく触れていた自分を思い出した。

フフと。

嘘をつく間を取りながら笑いで誤魔化した。

俺が先輩で歳上だと言い聞かせるように話したときのことだ。

そして、別れの当日。

朝起きてから直ぐの会話に違和感があった。


『…先輩?おはようございます。』

『おはよ…何してんだよ。』

『頭ナデナデ。』

『ガキでもあやしてんの?』

『…そうする権利はありますからね。』


その言葉を誤魔化すように、彼女という言葉を被せていた。

そしてあの日、声を出すことはピエロとして夢を壊すみたいな言い方をしてたくせに、年齢は間髪入れすに答えていた。

あの反応、そして過去の記憶を思い返すと…


(多分…正解…)


武来は今22歳なんだろう。

学年が下だったけど歳上だったとか。

新たな事実が分かったが、俺としてはそれよりも武来と会話した事実のほうが嬉しかった。

そして、いろんな疑問が浮かんでくる。

武来はなぜ、サーカスを辞めた?

大道芸人になりたかったのか?

俺に会えない理由って?

俺に会ってくれた理由って?

ブルガダ症候群と関係あるのか?


(…クソ…絶対見付けてやる!)


どこか諦めかけていた3年目。

現れた武来の影。

辛くもあり、嬉しくもある。

でも、あいつは俺が本当に辛いときに、いつも傍にいてくれた。

今回だって、孝太郎のことで辛かった。

だから、きっと近いうちに会えるはずだ。


翌日、午前中にジムに行って、午後から病院に向かった。


「颯汰!俺、退院決まった!」

「え?マジかよ!」

「さっき、説明受けてきた!」


俺の顔を見るなり、満面の笑みで迎えてくれた孝太郎が、これまた嬉しい報告。


「俺さ、ずっとバスケしてたじゃん?バスケで培われたその筋肉が、骨を思った以上に守ってくれてたって。」

「へぇ。スゲェ。」

「若いし、治りも早いって。リハビリには毎日通うことになるけど、退院してもいいって。」

「で?いつ?」

「来週の月曜。」


孝太郎が頑張ってたリハビリが項を奏した。

昨日から、なんだか嬉しいことばかり起こる。


「…あ、それから。勇ちゃん来てた。」

「会ったのか?」

「いや。また切り抜きだけ。…本当にいつ来てるんだか。看護師に聞いて回ったけど、誰も見たことないって言うんだよ。あの子、ナースの格好で彷徨いてるんじゃないの?」

「……………」

「想像するな!はにかむな!」

「……え。ごめん。」

「変態か。お前。」

「……強ち、正解かも。」

「…は?変態?」

「バカ。ナースの格好。…ピエロは自分を隠す天才らしいからな。」


メイクで笑った顔を作っては人を喜ばせるのに。

その仮面の下は、汗と涙。

顔すら本来の自分を隠してるんだ。

目的さえあれば、あいつはどんな格好でもやる気がした。


「そういえばお前さ、公園で何してたの?」

「…落ち込んでた。」

「…お……俺のせいか……すまん。」

「いや。もういい。」

「バスケとか、その類いかと。」

「フラフラ歩いてたら着いた。イベントやってて、そこに呼ばれてたらしい。」

「イベント?何の?」

「メインはフリーマーケット。」

「イベントね。…颯汰。そこの管理事務所に聞いてみたら?」

「何を。」

「イベントの日、勇ちゃんが大道芸をしてたってんなら、当然招待されたはずだよ。フリマは自由参加だけど。」

「…あ!そっか。頭いい!」

「どこの公園?名前は?」

「……知らん。駅から20分くらい歩いたとこ。芝生が敷き詰められて、噴水あった。」

「○○公園か。ちょっと待ってろ。」


得意のスマホで即リサーチ。


「あった。…これ。…って、来月もイベントあるじゃん。懸けてみる?」

「武来が来るの?」

「そう。」

「…それより先手打つ。絶対捕まえる。」


武来は確か、すべてを話すことは勇気がいると言っていた。

それを避けるために消えたのなら、無理して話さなくてもいいと思った。

ただ、傍にいて欲しい。

ずっとそれだけだった。


「颯汰。」

「ん。」

「勇ちゃん、まだ好きか?」

「……好きっぽい。」

「ハハッ!そうか。…カッコいいな。お前。」

「何が。」

「勇ちゃんのために必死になってる。…バスケ以外で独占しているものに。その思いさえ持ってれば、勇ちゃんはお前の元に帰ってくるよ。絶対。あの子も一途だし。」

「……………」

「……何?」

「考えてなかった。武来に男がいたらどうしよう。」

「…プッ……ブワハハハハ!!」

「孝太郎!笑い事じゃねぇ!」

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