5.別の誘惑-7
一呼吸おいて。
鞄からメダルを取り出した。
そして、ずっと言いたかったことを告げた。
「俺、彼女と別れた。」
「………え?」
「だから堂々と言える。」
約束通り、優勝メダルを武来の首にかけて。
「武来が好きだ。…俺と付き合ってください。」
驚いて、見開いた目。
少し笑うと、一筋涙が溢れた。
その涙がとても綺麗で。
「……先輩……」
「ハハッ!分かってるよ。迷ってるんだろ?」
「……!!」
…多分、断ると思ってた。
だから、そこまで驚きはしなかった。
「アメリカ…行くのか?」
「………?」
「サーカス。」
「……………」
「お前がさ、倒れて後病院にもいなくて。生きてるっぽいけどどうなってるか分からなかったときに、孝太郎が調べてくれた。来年は海外公演だって。だから、武来は日本にいなくなるって。」
「……………」
「でも、ウィンターカップ、約束したから来てくれるって信じてた。だからバスケットに集中して今日を迎えた。お前はやっぱり来てくれて。俺も約束を果たせた。その時に言おうってずっと思ってた。」
「諦めてたのに?」
「…あれは危なかった。お前はもう来ないかもって思った。」
「耳は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。準々決勝でお前を考えてたら、ボールが当たって鼓膜が破れた。」
「…!!私のせい!?」
「お前のせい。早く来てくれなかったから。」
「ごめんなさい。」
「ハハッ!嘘だよ。自分の蒔いた種だ。2,3週間で治るって。……って。話ズレてる。お前はそれを前から知ってて。だから短い期間で俺にぶつかってきて。全力で生きてきたって言えるのはお前だなって思った。」
「…先輩…」
「行くんだろ?」
「……………」
「俺、お前を待ってるから。」
「……え!?」
「お前がここに帰ってくるの、待ってるから。それで再会したら、もう一度言うから。」
そう言って、またポロポロ涙を流し始めた武来を腕の中に閉じ込めた。
「約束して?武来。」
「…何ですか?」
「俺のところに戻ってきて。」
「先輩…先輩っっ!」
「俺、また告白するから。必ず戻ってきて。俺と約束して。……返事は?」
「…はい。」
間髪入れず答えられた。
それを聞いて、腕の力を強めて。
「…武来。」
「はい。」
「嫌だと言わせたくない頼みがある。」
「…また……俺様発言。」
クスクス笑い出した武来を見て、俺もクスクス笑って。
「明日、お前が帰るまででいい。それまで俺たち恋人同士な。新幹線に乗った瞬間別れる。それで、再会して俺がまたコクるから。その時は一瞬の恋人じゃないからな。」
「……えーっと?」
「はい!スタート!」
「……えぇぇーーー!?」
「寒い。ホテルに行こう。」
「は?」
「立って。行くぞ。」
「ちょっと!先輩……えぇッッ!?無理です!ダメです!心の準備が出来てません!やだっ!先輩のケダモノ!」
いきなり叫ばれて、ピタッと止まり武来を見る。
涙目。顔が真っ赤。
多分俺も真っ赤。
「…アホか!!抱くときはもっと時間があるときに抱く!このボケ!!何を考えてるんだよ!もう!お前のホテル行くの!お前の考えてるホテルじゃねぇ!!」
「………!!もう!そういうことは先に言ってくださいってば!ビックリしたー!」
「……別に抱けるけど?」
「ーーーーッッ!?」
「冗談だよ。…行くぞ。」
武来の発言に驚いたのも事実。
それを即否定したのも事実。
でも、心底ホッとした表情を浮かべたから、ムッときて。
意地悪言ったら、また真っ赤になって。
(…クソ。理性持つかな…)
メチャクチャ不安になってきたが、今はどうしても一緒にいたい方が上で。
手を繋いで駅へと向かった。
その間、武来は俺の手をつねったり弾いたり撫でたりと遊んでいて。
それに付き合ってやれば、笑顔が弾けて。
(…やべー…卑怯すぎる可愛さ…)
なんて思ってる俺は終わってる。
ホテルに着くと、チェックインを始めた武来の隣に立って。
「すみません。他に部屋空いてますか?」
「…え?先輩も泊まるんですか?」
「ああ。…出来れば二人部屋。」
「空きがございます。ダブルルームになりますが宜しいですか?」
「はい。こっちキャンセルして、そっちにしてくれます?」
聞いてみたら空きがあってラッキー。
今日、結構金持ってて良かったと思いながら、追加料金を出してると。
「だっ!…ダブル!?先輩!?」
と、また真っ赤にして泣きっ面。
俺を意識してくれてるって分かる。
嬉しいけど、それにつられて俺も赤くなってしまう。
「では、こちらのお部屋をご用意させていただきます。追加料金」
「せ…先輩!!待ってよ!なんでよ!」
「うるさい。…追加、いくらですか?」
「やだやだ!先輩!私、まだ」
「…っだーー!もう!うるさい!今日は抱かないと言っただろ!もっと決定的なこと言ってやる!俺はゴム持ってねぇから!突っ込みたくても突っ込めねぇんだよ!分かったか!」
「ーーーーッッ!ーーーーッッ!」
「……あ。やべ。」
エントランスに響き渡る声で、とんでもないことを口走ったことに気付く。
周りに人影は少なく、カウンターの数人しかいなかったことが幸いした。
でも。やっぱり…メチャクチャ恥ずかしい!
一瞬固まってたカウンターの人たちが、クスクス笑って。
初々しいカップルなんて小声で喋ってるのが聞こえたら、さらに恥ずかしくなって。
鍵を受け取ると、いまだ固まってる武来の手を繋いで、エレベーターに走っていった。
「「ーーーーーッッ!!!」」
急いで部屋に向かったものの、部屋に入って直ぐ、目の前に置かれたダブルベッドを見て、二人してピキーーン!と固まった。
(お…落ち着け!男の俺がリードしねぇと!)
なんてグルグル考える始末。
「…せ!……先輩!」
「なに!?」
「あは!私!汗かいちゃって!お風呂先に使っていいですか!」
「あ、ああ!行ってこい!」
「ありがとうございます!」
(お……男の余裕ーー!!!)
逃げるようにバスルームに行った武来を見て、ガクッとその場で崩れてしまった。
俺、これじゃダメだろ…
武来が緊張しすぎてるじゃねぇか…
咄嗟に鞄を掴み、携帯を出す。
『おう。どしたー?勇ちゃんに会えた?』
「学校にいた。」
『へぇ!スゲーな!お前。…で?なんで落ち込んでんの?告白したんだろ?』
「その話は明日する。それよりピンチ。」
『は?』
「今、武来と一緒。」
『そうなんだ。良かったじゃん。』
「駅前のホテルに泊まってる。」
『………え!?一緒に?』
「そう。」
『……………』
「うるさい。」
『何も言ってねぇよ!』
「成り行きだ!武来にも手は出さねぇよ!」
『…良かった…ちょっと展開早すぎだろ…あの子にとっては…』
「…分かってる。…けど。」
『けど?』
「俺がいっぱいいっぱい!」
『………ブヮハハハハハ!!!』
「孝太郎!真面目に聞けよ!」
『ハハ…ゴメン…とりあえず、落ち着け!お前、女子みたいなことしてんだぜ?切羽詰まって俺にSOSかよ?まったく。』
「…自覚してる。」
『いっぱい話したいことあるだろ?勇ちゃんだって同じだよきっと。…あ、ウィンターカップのこととかでも話してあげれば?聞きたいと思うから。』
「そうする。…また掛けていいか?」
『…ブヮハハハ』
プチっ
あの笑い。結構ムカつく。
ああ。でも、ちょっと落ち着いてきたかも。
やっぱり電話して正解。
部屋の中を物色して、冷蔵庫の場所とか、スイッチの場所とか見たりして暇をもて余した。
「…先輩?…お先です。」
(……って……強烈…風呂上がり……)
顔を覗かせた武来は、少し身体を赤くして、濡れた長い髪をタオルで器用にアップして出てきた。
「武来、俺も入ってくる。後でコンビニ行って飲み物買ってくるから。」
「あ。私も行きたいです。」
「じゃ、それまでに髪を乾かしておけ。ドライヤー、引き出しにあったから。」
「はい!」
ドキドキしながらも、お互い少し時間が出来たことで、ギクシャクしなくなった。
急いで風呂から上がって。
手を繋いでコンビニ行って。
飲み物とお菓子を買って部屋に戻った。
「先輩?ポテチ好きなんですか?」
「…孝太郎と一緒の時は、大体ポテチ食ってるからな。孝太郎の影響。」
「真剣に悩んでましたもんね。」
「そういうお前はチョコ好きだろ。」
「チョコは大事です!原料は香辛料ですからね!頭も良くなりますよ。」
「言い訳染みてんな。」
クスクス笑いながら、テーブルに広げて。
ちょっとライトを落として、夜景を眺めながら、いい雰囲気。
「そうだ。さっき雑誌で先輩載ってました。」
「……そうなの?」
「はい。大阪帰ったら買わなきゃ!」
「……武来?」
「それで、また先輩のファイルが増えて」
「……武来。」
緊張が、手に取るように分かる。
だから、話で誤魔化そうとしてることも。
でも。
今日は怒られないはずだ。
俺たちは、恋人同士。
ゆっくり近付いて、二度目のキス。
「………バカ………」
「…なんで?」
「心臓…飛び出そうです…」
…可愛すぎて。理性抑えるの必死。
やっぱり終わってんな。俺。
離れてた間、ずっとバスケに打ち込んでたこと
ウィンターカップ、開会式直後の試合を引き当てたこと
決勝までの試合
俺の語るものはバスケットばっかり。
でも、それを食い入るように聞いていた武来は、笑ったり怒ったりと表情豊かで、見ているこっちも楽しい。
「…で?お前は?」
「離れてた間?」
「そう。」
「聞いて楽しめませんよ?」
「いいよ。」
「ずーーと、入院生活。以上です。」
「……マジで?」
「はい。」
「やっぱり大阪行けば良かった。」
「…どうしてそうなるんですか。嫌ですよ。自分の情けない姿を見られるのって。」
「何でだよ?それでも、俺が行けば不安になることも軽減すんじゃねぇの?」
「嫌だって言ってるじゃないですか。」
「……あのな。言ってること分かってる?」
「分かってます。お見舞いでしょ?要らないですよ。恥ずかしい。」
「お見舞いもだけど。俺がって言ってんの。」
「……へ?」
「だって、お前は俺の顔見ただけで喜ぶじゃん。それで辛さも吹っ飛ぶだろ。」
「……また俺様の発言して!」
「そうだろ?」
「……!!うるさいなぁ!もう!」
「顔赤い。照れてる。」
会話も慣れてきた。
二人の空間も。
この時間、今までのストレスや苦労から解放された感じがした。
これも武来のお陰かもしれない。




