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道化師の思惑  作者: 水嶋つばき
5.別の誘惑
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5.別の誘惑-5

シュートカットしたボールが転がり、即座に反応した城がマイボールにすると、前にいる俺へパスを繋げた。

ディフェンスが誰もいない。

完全なオープン状態の絶好のチャンスに、3Pラインの外側で停止する。

数メートルに迫った倉木を見ながら、溜めを十分に取り、それからシュート体勢に入る。

ピィィーー!!!


「イリーガル・ユーズ・オブ・ハンズ!白!4番!

バスケットカウント、ワンスロー!」

「……クソ!」


こういう場面では、ファールしても止めなければいけない状況というものがある。

ゲームの流れが明らかに変わっていると分かる者なら特に手を出してしまう。


「…同じ手を食らうか?単純。」

「…お前!!」


そして再度フリースローレーンに立つ。

大きく深呼吸を2回。

同時に孝太郎の位置を確認。

ホイッスルと同時にボールを放つ。


(寸分の狂いもない!)


その場から動かずに、ボールを目で追う。

リングの手前に当たったボールは、その芯を捉え、綺麗に跳ね返って俺の元に戻ってくる。

キャッチと同時に孝太郎へパス。

孝太郎はそれをリングに叩いた。


『チャージドタイムアウト』


相手チームがタイムアウトを要求し、館内にコールされた。


「何やってんだよ!夏目は左が弱点だって言っただろ!聞こえてねぇんだ!そこから攻めていけよ!」


イライラしていた倉木が、大声で俺の弱点をバラしてしまい、会場内がざわめいた。


「あーあ。バカだな、あいつ。」

「会場内を敵に回したぜ。」

「関係ない。それも戦略だ。集中!」

「残り4分。どうする?」

「変わりない。突っ走るだけ。どっちにしろ、あと4分で俺たちの高校バスケが終わる。全力でぶつかれ。」


そう告げると、肩にパタパタッと水滴が落ちてきて、その元を辿る。

ボロボロ泣いていた武来が、顔を真っ赤にして見下ろしていて。


「先輩ー!耳聞こえないんですかー!どうしてですかー!大丈夫なんですかー!」

「ブハッ!!」

「大丈夫だからその顔やめろ。戦意喪失する。」


変顔と言うに相応しいほどのグシャグシャ顔で、俺を心配してくれた。

でもそれで、メンバーの緊張感が解放。

すると武来は、手摺に足を掛け、上体をコート側に反らせた。まるで蝙蝠。


「…ハイタッチ。先輩。孝太郎先輩。」

「…ハハッ!頑張るよ。」

「俺も。」

「………みんなも………」


それぞれがジャンプして、武来とハイタッチをし、勇気とやる気を貰う。


「……か……監督ぅーー……」

「図に乗るな!さっさと上がれ!」

「ちぇー。ノリ悪いなぁ。監督。」

「コラ!君!さっきから危ないだろう!やめなさい!」

「…ほら。怒られた。」


俺たちは、武来のバランスの良さを知ってるため気にしてなかったが、審判にはそうではなかったらしく、怒られて渋々席に戻った。

そして、ある程度リラックスできた状態でコートに戻る。

点差は5点。

一気に追い上げたが、ここからはファールとタイムアウトの応酬になる。

少しでもゲームクロックを停止させ、攻撃の繋ぎを作る。

乗っているのはこっち。

必死に逃げる構えは見えている。

案の定、得点が動かず、攻防が繰り返されること2分。


「…取らせねぇ!……颯汰!」

「出せ!」


ディフェンスリバウンドを取った孝太郎のアウトレットが、ハーフライン上の俺に通る。

自陣に戻った2人の敵。

全員戻る前に、確実に点を取りに行く。

ピィィーー!!


「チャージング!青!4番!」

「!?」

「…っしゃーーー!!」


2人を一気に抜き去ろうとした瞬間、俺へのファールコール。

同時に相手チームが喜び叫ぶ。


(服がかすっただけだろ!)


そう思うが、これも一つのテクニック。

審判にファールと見せてコールさせ、流れを掴むためのもの。

自分だってやったことはある。と言うか、バスケットをやってる人間なら誰でもあること。

だが。


(…4つ目…)


4つ目の宣告は、俺を追い込んでいく。

相手だってそれを見越してのファール。

フリースローを確実に入れられ、久々に点が動く。


「颯汰。落ち着けよ。」

「分かってるよ。節穴審判が。」

「だよな。当たってなかったろ。」

「…いいぞ。燃えてきた。」


そこから1分間。

2点入れれば、2点失う。それを繰り返す。

食らい付いて食らい付いて、粘って。

パシッ!!

その均衡が破られたのは、孝太郎のスティールだった。


※アウトレット→ディフェンスリバウンド後の最初のパスのこと。

これが上手い人がいると、得点に繋がりやすくなるのだ(^^)d

そのルーズボールを城がキャッチ。


それを見て敵陣に走る。


「颯汰!」

「…っし!!」


残り51秒。追い付くための3Pは、誰にも邪魔されることなく綺麗にリングに吸い込まれた。


「…当たれぇぇ!!」

「死守しろ!ボールを回せ!」


点差は僅か2点。

勝っている相手チームは、時間をフルに使ってボールを回すことに専念する。

負けている俺らは、そのボールを奪うことに専念する。

目一杯時間を使った最後のシュートを阻止できず、また点差が広がった。

だが、ゴール下から動かなかった孝太郎が目に入ると、城は、ロングパスで孝太郎へ繋げ、2点差に直ぐに戻した。

残り18秒。

相手はボールを回すだけで勝てる。

俺たちはそれを奪わなければ勝機はない。

いいタイミングで監督がタイムアウトを要求。

ベンチに戻って直ぐに円陣を組む。


「…最後の18秒だ!全部掛けろ!奪い取って勝つぞ!」

「「「「おう!!」」」」


無駄なことは言わない。

お互いやるべきことは分かってる。

ベンチに座ると汗を拭い、水分を補給する。

そして会場内に呼吸を合わせる。

直ぐに見つけた武来の風。

直ぐ傍にいる。

あいつが見守ってくれている。

ピィィーー!


「両チーム、前へ!」

「…よし!行くぞ!!」

「「「「おおぉ!!!」」」」


気合いを入れてコートに戻る。

同時に沸き上がる声援。

この空気も、あと18秒で終わる。

相手チームからのスローイン。

時計が動き始める。


「回せ回せ!死守しろ!」

「全員前へ出ろ!当たれ!!」


ボールの行方を追いながら、一歩先の行動を読んでいく。

せめてチップさえ出来れば!

隙が出来れば!

そして、残り時間9秒となったとき、転機が訪れる。

プレッシャーをかけてた相手が、ボールを手にした。


「孝太郎!!」

「おう!!」

「うわっ!!」

「バカヤロウ!出せ!」


間合いを詰め、孝太郎とダブルチームで壁を作りボールを出させないようにする。

焦った相手は、味方にパスを渡そうと必死になり、中途半端なパスを出して城にカットされた。


「…っ!!戻れぇ!!夏目を封じろ!」

「城!」

「颯汰!頼んだ!」


残り5秒。

ドリブルしながら、一気にハーフラインまで突っ走る。


残り4秒。

ダブルチームで止めに来たディフェンス。

二人の手前で急停止し、股抜きで一人、スリーシックスティで二人を抜き去る。


残り3秒。

目の前にいる敵は倉木だけ。

距離と体勢を計算しながらシュート体勢に入る。


残り2秒。

ピィィーー!!

ホイッスルで時計が止まる。

それもそのはず。後ろからユニフォームを引っ張られてバランスを崩し、放たれたボールは、ゴールすることなく床に転がった。


「…ホールディング!白!6番!」

「「「「「っしゃーーー!!!」」」」」


時間は1秒88で停止。

第四ピリオド、相手チームのチームファールは5つ目。つまり、2Pシュートを外した俺に与えられるフリースローは2ショット。


※スリーシックスティ→ドリブラーが360度回転してDを抜き去る個人技。

点差は2点。


フリースローを決めて同点。


「……………」


恐らく、考えていることは全員同じだろう。

敵も。味方も。会場内も。

ピッ!

ホイッスルが鳴ると、まずは1つ目のショットを決めた。

拍手が聞こえ、仲間とタッチする。


問題は2投目。

全神経を指先に集中する。

俺の指先からボールが離れた瞬間、ゲームクロックが動き出す。

その1秒88で、狙う最善の方法。

そのために、フェイクを念入りに。

まず、回りを見渡して、敵、味方の居場所を確認。

そして、孝太郎を見ると、深く頷く。

孝太郎も俺に合わせて頷くと、ホイッスルが鳴った。

ボールを構え、リングに向かって放つ。

ゲームクロックが動き出す。


「リバウンドーー!!!」



「浅野を飛ばせるなぁぁ!!!」


叫んだ敵チーム。

孝太郎がスクリーンアウトをしっかり決め、ジャンプ体勢に入る。

同時に孝太郎を取り囲むように、回り込んだ相手チームは3人。

だが、孝太郎は飛ばない。

それを見ながら、フリースローラインから飛び出し、思いっきりジャンプした。


「…俺がオープンだぜ!倉木!!」

「!!」


狙い定めたボールはリング手前に当たり、飛び上がった俺の手に吸い込まれるように戻る。

キャッチするとリングに向かってダンクショット。同時に試合終了のブザーが鳴り響く。


(……!際どかったか!!)


リングにぶら下がりながら審判を見た。

高くあげられた右手は、人差し指と中指を立て、それを振り降ろした。

フリースローを全部決めて同点。

1つ決めて2つ目を外し、普通のシュートにすれば逆転。

そのために、孝太郎にフェイクを入れ、孝太郎が決めるように見せかけた。

孝太郎はそれを察知し、いかにも自分がシュートすると思わせるように、敵を引き付けた。

結果、俺はワイドオープンになり、戻ってきたボールを叩けた。

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