第6話 命懸け
「へあ?この化け物…かたちが?」
唐突に入ってくる情報に脳の処理が追いつかない。
そんな僕をお構いなしに化け物は腕を振り上げ、僕に振り下ろそうする。
視界の九割が鋭く尖った鎌で覆われた時、僕は死んだ。
いや、死ぬはずだった。目の前に振り下ろされた鎌が目の前でとまる。
化け物の腕が、何者かに掴まれている。
「巨体君!」
足を切断されてもなお僕たちを守ろうとしてくれている。
「グァグガ」
何を言っているか意味は分からないがそれでも意図は通じる。巨体君が命をとして守ってくれたんだ。絶対に生き延びる。これは約束だ。
僕はメトさんの方を振り向く。驚愕したような、理解したような顔をしている。これは理解したと取って良いのか?まあ理解したと思っておく。
そんな事を考えていると、巨体君が化け物を圧倒しているように見える。
「ゼン君!今のうちに逃げるわよ!」
不意に聞こえた声に驚きながらも反論する。
「そんな!巨体君をおいていくんですか!」
頭ではおいていかないきゃいけないとわかっていても、からだがそれを拒否する。
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!今は生き残るのが最優先よ!」
口論が白熱した時、後ろで何かが切り刻まれるような音がした。
僕とメトさんは慌てて後ろを振り向くと、最大の攻撃打点である右腕が切り落とされていた。残っているのは左腕だけ。これ以上失ったら死んでしまう。
僕は怒りで目の前が赤く、いや、茶色く染まる。
「え?茶色?」
思わぬ事態に声が溢れる。
視界が茶色く染まり、視線も高くなる。あの時と同じ、クマ化したときと同じ様になっていた。
「ちょっとゼン君!?何でクマ化してるの!」
焦るメトさんの声が遠くで聞こえる。僕の意識が深いところへ沈んでいくのを感じる。このまま身を任せたいほどの心地よい気持ち。
もう戻れない。このまま沈んでゆく…
「ゼン君!聞こえてるの?!」
「ガグァグ!」
巨体君が片腕になっても戦っている。メトさんや僕を守るために。
意識を戻したい。このままだと、僕のせいで死んじゃう。そう思う。けど何もできない。
意識の中に、一つの欠片があった。
心がほんのり暖かい。大切な約束。
巨体君との約束だ。
「ゼン君!本っ当に大丈夫?!生きてる?」
声。誰かの声が聞こえる。誰だっけ。ああ、そうだ。メトさんだ。
メトさんの声と巨体君の犠牲を無駄にしないという意思。その一つの約束が僕を深い意識の底から蘇らせる。
僕は巨体君の方にダッシュする。勢いづいた鋭い爪を化け物の鎌に突き刺す。けどダメージなんて無いように見える。
僕はその事に心を折られそうになりながら、蹴り上げ、爪で引っ掻く。
一連の行動が終わった。僕はかなり体力を消耗したが、化け物はノーダメージ。ヤバい。
このままだと負ける。次で決めなければ。
僕は化け物にタックルしようとする。
どれだけ、地面を蹴っても前には進めなかった。何かに掴まれている。
僕は後ろを振り返る。後ろにいたのは…メトさんと巨体君だった。
メトさんは僕の体に掴まっていて、その僕の体を巨体君が掴んでいる。
「何やってるの巨体君!君はもう死んじゃうかもしれないんだよ!逃げなきゃ!」
「グガグギグゥ」
優しい声でそう言うと、僕の体は持ち上がっていく。
「えっちょっと、なに?」
僕はそう言うが巨体君は聞いていない。
そのまま最高高度に到達すると、僕の体は宙へと投げ出された。
凄い勢いで投げられ、僕の体は空を切る。
最後に見た顔は、優しい笑顔をした巨体君だった。




