第4話 巨体
「え?クマ?」
いやクマって、ブラックシャウトっぽいなにかを飲んだだけで?
「パット見で分かるくらいはクマよ。体毛が茶色いし爪も長くなって尖っているし」
自分の手を前にしてみてみる。
なんかフサフサしていて、やっぱり爪も長い。
そのまま三十分くらい彼女とともに実験してみる。
まずは爪。この爪は岩ぐらいなら簡単に割れる硬さを持っていた。
とりあえずブンブン振り回してみる。
十回も振り回せば周りにあった木や岩は跡形もなく消え失せている。
「これめっちゃ楽しい!」
毛皮は温かいし爪も強い。このクマに弱点などないのではないかと錯覚してしまった。
三十分と少しが経過すると、視界が縮んでゆく。
彼女が驚きの顔をしているので何事かと聞いてみると、
「もう二度と戻れないかと思っていた」
と言っていた。
そして、実験している間に気がついたことがある。
「そういえば僕たち、自己紹介していませんよね」
「そういえばそうね。けどいるかしら?」
全く彼女は自己紹介重要性を理解していならしい。
「僕の名前はゼンです。日本に住んでいました」
「日本ってあそこね。結構前に潰れたところ。そして私の名前……そうね、好きに呼んで」
そう僕に言葉を投げると、振り返りなにか準備をしている。
「じゃあ、メトさんで。ところで何を準備してるんですか?」
なにかを床において、ガサゴソしている。
「なにって、行くんでしょ?魔法の国へ。その準備よ。魔法の国は遠いから」
準備ってなんだろう。やっぱり魔法があるくらいだからテレポートとかかな?何にせよ結構楽しみだな。
「そんな便利な魔法なんて使えたら苦労しないわよ。私のペットを呼んでるの」
「ペットって、なんの動物ですか?象?虎?ライオン?」
僕はワクワクしながら動物の名前を上げていく。
「そんなんじゃないわ」
そう言い放つとメトは口笛を吹く。
口笛の音が幾重にもこだまし、遠くへと向かっていく。
それから十秒が経った頃。遠くの山の方からドシドシと鳴り響いていた。
さらに十秒待つと、その巨体は姿を表し、メトに膝をついていた。
直感的に分かる。これはヤバイやつだと。
自分が住んでいた時代にもなかったほどのパワーを持っていることは疑いようもない事実だった。
1つしか目がなく、その巨体はアフリカゾウ五匹分ほどの重量はあるであろう。
メトは巨体の手の上に乗りこちらへ来いとジェスチャーをする。
慌てて僕もついていくと、巨体は手を肩の近辺まで上げてくれた。
「メトさん。この子は一体何なんですか?」
「私もよくわかってはないわ。けど、私に服従してくれているわ」
今まででもよくわからない人が、今の出来事で完全に理由のわからない人になった。
「理由のわからない人って、失礼ね」
彼女は巨体の耳元で囁く。その言葉は僕には聞き取れない得体のしれない言語だった。
メトが囁くのとほぼ同時に、巨体は動き出し、魔法の国への道を踏み出していった。




