第14話:【断罪】元・電池の逆襲
「——シオン様! 配信の低評価が止まりません! 『泡まみれの勇者、中身が薄っぺらすぎる』と炎上しています!」 「黙れ! こんなものは不当な編集だ! 私を撮れ! もっと劇的な、逆転の瞬間を撮れと言っている!」
泡と泥にまみれ、見るも無惨な姿となったシオンは、半狂乱で聖剣を振り回した。もはや民衆の救世主としての余裕など微塵もない。
「エルナ! 貴様、どこにいる! さっさと出てきて私の『電池』に戻れ! 貴様の魔力さえあれば、こんな茶番、一瞬で吹き飛ばして……っ」
「——お呼びでしょうか。脚本を汚す『ノイズ』の私を」
静寂の中、凛とした声が響いた。 シオンが顔を上げると、そこには魔王軍の公式騎士としての黒銀の鎧を纏ったエルナが立っていた。かつての、怯えて震えていた「身代わり」の面影はない。
「エルナ……! よくも私の顔に泥を塗ってくれたな! その琥珀を返せ! それは私を輝かせるための道具だ!」
シオンが聖剣を突き出す。かつてならその威圧感に竦んでいたエルナだったが、今はただ、哀れみの視線を向けるだけだった。
「シオン様。貴方の正義は、誰かの犠牲の上にしか成り立たない。……でも、ルルちゃんは違います。彼女は、ただそこにいるだけで、みんなを笑顔にするんです」
「黙れええええ! 聖剣よ、不純なる魔族と共にこの女を焼き尽くせ!」
シオンが放った全力の光の一撃。かつてエルナの生命力を削って放たれていたはずの、身勝手な暴力。 だが、エルナは一歩も引かなかった。彼女はルルから預かった『聖域の琥珀』を高く掲げる。
「——九条様が教えてくれました。私の優しさは、ノイズなんかじゃない。ルルちゃんを、そしてこの場所を守るための『真実』だと!」
琥珀が、かつてないほどの清浄な光を放った。シオンの放った不純な光を飲み込み、何倍もの力で押し返す。
「なっ……魔力出力が、かつての比ではない!? まさか、琥珀の『呪い』を克服したというのか!」
「いいえ。ルルちゃんが、毎日この石を『ピカピカで綺麗だぞー!』って磨いてくれたから……石も、喜んでるだけなんです」
「そんな馬鹿なことが……あが、あああああっ!!」
エルナが放った純粋な聖魔術が、シオンを包み込む。それは肉体を傷つけるものではなく、彼の纏っていた「嘘の鎧」を、魔法のメッキごと剥ぎ取る光だった。
聖剣は砕け、豪華な鎧はただの安っぽい鉄屑へと変わり、シオンは全裸に近い無様な姿で床に這いつくばった。
「……これが、お前の実像だ。実に『映えない』な、シオン」
九条が冷徹にシャッターを切る。その映像は、加工なしの「真実」として全世界へリアルタイムで配信されていた。
「ルルちゃん、終わったよ」 エルナが優しく微笑むと、物陰からルルがトコトコと現れた。
「おねーちゃん、すごーい! キラキラだったぞ!」 ルルは這いつくばるシオンを見下ろし、首を傾げた。 「おじさん、もう脚本(台本)はいらないのか? だったら、これでも食べて反省しろ!」
ルルが投げつけたのは、村のみんなで焼いた、ちょっと形の悪い「失敗作のパン」だった。それがシオンの鼻先に、ボフッ、と当たって転がった。




