第15話:【不純物ゼロ】世界一愛されるダンジョンの作り方
「……あ、ああ……。私の、私のキャリアが……完璧な脚本が……」
魔王城の冷たい床に這いつくばり、シオンは砕けた聖剣の破片を虚しくかき集めていた。 配信画面の向こう側では、かつて彼を崇めていた民衆からの罵声と、爆笑のコメントが濁流のように流れ続けている。 『偽物の勇者』。そのレッテルは、彼がエルナに着せたそれよりも遥かに重く、二度と剥がれることはない。
「シオン。お前の負けだ」
九条が静かに歩み寄り、レンズをシオンの絶望の顔に向けた。 「お前は数字のために嘘を重ねた。だが、俺が撮り続けたのは、このルルという『真実』だ。……どちらの画が人々の心に残るか、結果は明白だな」
「……九条様。聖教会の騎士団および、勇者パーティーの不当な契約書、すべて法的に差し押さえました。今この瞬間、シオン様は無一文の不審者として、全領土から指名手配されました」 ヴェロニカが端末を閉じ、無感情に事実を突きつける。
シオンは廃人のように力なく笑い、そのまま警備のゴーレムたちによって城の外へと「不法投棄」された。
数日後。 魔王城は、かつてないほどの賑わいを見せていた。
「ルル様! 今日のライブ配信、同時接続数が過去最高を更新しました! エルナ様の『守護演武』との相乗効果が凄まじいです!」 「ヴェロニカ、硬いぞ! 今日はパーティーなんだから、お前もイチゴ食べるか?」
ルルはエルナの膝の上を特等席にして、山盛りのイチゴに囲まれていた。 エルナは、かつて自分を縛り付けていた琥珀を、今はルルの「髪留め」として改造し、幸せそうに微笑んでいる。
「私……ここに来て良かったです。ルルちゃんがいて、九条さんがいて、ヴェロニカさんがいて……。世界は、こんなにキラキラしてたんですね」
九条は、そんな彼女たちの姿を少し離れた場所から眺めていた。 端末の画面に映るルルは、相変わらず食べこぼし、笑い、転び、造形としては隙だらけだ。
だが、そこには一切の「嘘」がない。
「……フン。まだまだだな。ルル、今の笑い方、左の口角が1ミリ低い。幸福感が100%伝わらん」 「もー! クジョーはうるさいな! ほら、クジョーももぐもぐしろ!」
ルルが小さな手で、九条の口に大きなイチゴを押し込む。 九条は眉をひそめながらも、それを吐き出すことはしなかった。
「……ああ。この画は、悪くない」
カメラのシャッター音が、静かに響く。 世界で一番恐ろしく、そして世界で一番愛されるダンジョンの日常は、これからも不純物ゼロの輝きを放ち続ける。
九条の記録帳の最後には、こう記された。
『最高の演出とは、ありのままを愛することである。』




