第13話:【勇者視点】不純物の公開処刑
「クハハハ! チョロい、チョロすぎるぞ! トラップの一つすら発動しないとは。やはり、このダンジョンはハリボテか!」
勇者シオンは、録画石を回させながら意気揚々とダンジョンの深層へと突き進んでいた。 背後の仲間たちも、「さすがシオン様! 幸運の加護ですね!」と、台本通りの称賛を繰り返す。
だが、シオンは気づいていなかった。 自分たちが歩いている床が、九条のプロデュースによって「世界最高精度の集音・高画質マジックミラー」に囲まれた特設ステージであることを。
「……九条様、ターゲットが第3エリア、通称『美しき泥濘』に侵入しました」 「よし、ヴェロニカ。配信を開始しろ。タイトルは【緊急生中継:本物の勇者様が『本気』でダンジョン攻略してみた】だ」
突如、シオンの足元の床が消えた。 「な、なにっ!?」 反射的に着地しようとしたシオンだったが、そこにはただの穴ではなく、特殊な魔導粘液を配合した「最高にヌルヌルするバブルプール」が広がっていた。
「うわああああっ!」 黄金の鎧が泡まみれになり、シオンは無様に手足をバタつかせる。 「く、汚い! 離せ! この不純物が!」
だが、そこからが九条の真骨頂だった。 シオンがもがけばもがくほど、泡の中に仕込まれた虹色の粉末が舞い、シオンの顔をカラフルに染めていく。魔導モニターには、必死の形相で泡にまみれ、白目を剥きかけるシオンの顔が「超高画質」でドアップになった。
『——見てください視聴者の皆様。これこそが、民衆の英雄が見せる「戦いの真実」です。実に躍動感あふれる、醜い……失礼、力強いお顔ですね』
九条の冷徹な実況が、世界中のモニターに流れる。
「やめろ……撮るな! 止めろと言っているだろ!」 「シオン様、マズいです! リアルタイムの支持率が急落しています! 『勇者の顔、芸人みたいで草』『鎧が泡で滑っててダサい』というコメントが止まりません!」
「おのれええええ!!」 シオンは泡の中から聖剣を振り回すが、その刃はヴェロニカが計算し尽くした「最も滑りやすい角度」で弾かれ、自分自身のマントを切り刻んでしまった。
「——不細工だな。それがお前の、脚本のない『実像』だ」
九条の声がスピーカーから響く。 泡まみれのシオンが顔を上げると、そこには、エルナに手を引かれ、イチゴをモグモグしながら自分を見下ろす二頭身の魔王・ルルの姿があった。
「おじさん、おもしろい顔だな! 泡遊び、楽しいか?」
ルルの純粋無垢な——それゆえに最も残酷な問いかけが、シオンの「偽りのプライド」にトドメを刺した。




