第12話:【勇者視点】狂い始めた台本(シナリオ)
「——いいか。カメラ(録画石)は常に私の右斜め45度をキープしろ。そこが私の最も『正義』が際立つ角度だ」
魔王城のふもとに広がる村。勇者シオンは、従者たちが捧げ持つ魔導録画石に向かって、完璧に作り込まれた「憂いの表情」を浮かべていた。 彼のシナリオでは、今頃この村は魔王軍の横暴に震え、飢え、勇者の救いを求めて泣き叫んでいるはずだった。
「さあ、可哀想な村人たちよ! もう安心……」
「あ、勇者様? すみません、今ちょっと忙しいんで横にどいてもらえます?」
シオンがマントを翻して村の中央に立った瞬間、声をかけてきたのは、怯えるどころか丸々と太ったカボチャを抱えた農夫だった。
「……なんだと? 貴様、魔王に怯えてはいないのか?」 「魔王様? ああ、ルル様のことならあっちの広場で『お昼寝会』の準備をしてますよ。あ、勇者様もパン食べます? ルル様直伝のレシピで焼いたやつ。今、村で大流行りなんですよ」
シオンの頬が引きつる。録画石には、平和そうにパンを頬張る村人たちと、手持ち無沙汰に突っ立っている「救世主」の滑稽な構図が収められていた。
「……カットだ! 止めろ! こんな画が使えるか!」
シオンはカメラを止めさせると、村人の胸ぐらを掴み上げた。
「おい。お前たちは洗脳されているんだ。いいか、魔王は邪悪で、お前たちは苦しんでいなければならない。それが世の中のルールだ。……ほら、泣け。絶望しろ。そうすれば、私が助けてやる動画が撮れる」
「そんなこと言われても……。実際、ルル様が来てから腰痛も治ったし、税金はイチゴ一粒でいいって言われるし……」
「……チッ、汚染が想像以上に深刻だな」
シオンは村人を突き放すと、忌々しげに魔王城を見上げた。 彼にとって、村人が幸せかどうかなどどうでもいい。自分の「正義」という商品価値を上げるためのセットが、汚れ、使い物にならなくなっていることが許せなかった。
「エルナめ……。あの女、余計なアドリブ(善行)を教え込みおって。……いいだろう。村人が泣かないなら、私が泣かせてやる。魔王に村を焼かれたという『真実』を、今から作ってやればいいだけの話だ」
シオンが腰の聖剣に手をかけたその時。 ダンジョンの入り口にある巨大な魔導モニターに、映像が映し出された。
『——やあ、不純な脚本家さん。お前のその安い演出、うちのプロデューサーが全否定してるぞ』
モニター越しに不敵に笑う九条と、その横で「おしりぺんぺんだぞー!」と短い手を振り回すルルの姿。
「……不細工な二頭身め。私のシナリオを汚した罪、その命で償わせる」
シオンの瞳に、救世主らしからぬ冷酷な光が宿った。




