第11話:【勇者視点】正義という名のエンターテインメント
王都にある豪華絢爛な聖教会の作戦会議室。 そこには、かつてのエルナの居場所であった「勇者パーティー」の面々が集まっていた。
「……支持率の伸びが悪いな。直近の魔獣討伐動画、再生数の推移はどうなっている?」
中央の席に座り、魔導端末に映し出されたグラフを眺める男——光の勇者シオン。彼は整った顔立ちに、民衆が好む「清潔感」を絵に描いたような黄金の鎧を纏っている。
「は、はい。エルナを『裏切り者』として追放した直後は同情票で跳ねましたが……最近はマンネリだというコメントが目立ちます。視聴者はもっと、新しい『カタルシス』を求めているようです」
部下の言葉に、シオンは不快そうに舌打ちをした。彼にとって正義とは、己の内から湧き出る信念ではない。魔導ネットワークを通じて得られる、民衆からの「賞賛」という名の数字だ。
「……チッ。あの女、大人しく電池(琥珀の触媒)になっていれば、英雄の犠牲として最高の感動巨編が撮れたものを。逃げ出した上に『不純物』を撒き散らしおって」
シオンは苛立ち紛れに、今巷で話題になっている「トレンド動画」を再生した。 そこには、泥だらけになりながらも一生懸命に笑う、二頭身のちび魔王・ルルの姿があった。
「なんだ、このゴミのような造形は。演出が甘い。逆光の使い方も素人だ。……だが」
シオンの目が、ルルの背後に映り込む人物を捉えて細められる。
「……見つけたぞ、エルナ。それに、あのお菓子缶の中にあるのは……我々の『聖域の琥珀』か。よほど知恵の回るプロデューサーがついているようだが、使い道が重石とは。宝の持ち腐れにも程があるな」
シオンは立ち上がり、背後の鏡で自分の「正義の味方としての微笑み」に1ミリの狂いもないか確認した。
「予定を変更する。次のロケ地は、この『二頭身のダンジョン』だ。タイトルは【緊急生放送!裏切り者の処刑と、偽魔王の最期】。……エルナという悲劇のヒロインを回収し、この不細工な魔王を圧倒的な力で粉砕する。民衆が求めているのは、こういう分かりやすい『勧善懲悪』だろう?」
「さすがシオン様! 最高のシナリオです!」
取り巻きたちの称賛を受けながら、シオンは腰の聖剣を誇示するように構えた。 彼の中には、ルルが村人を救ったという事実も、エルナが流した涙も、一切のデータとして存在しない。あるのは「いかに自分が輝くか」という計算だけだ。
「出陣だ。不純なバッタもんの魔王に、本物の『スター』の輝きを教えてやる」




