38.火花散る作戦会議
一旦自室に戻ったあと、私たちはシャルロッテの宿泊している部屋に集まった。
「広い部屋ですね~」
アルが緊張感のない口調で言った。
彼も先ほどまでの蒼白な顔色が元に戻っているし、どうやらいつもの軽薄な調子も取り戻しているようだ。
「どうやってワイバーンを討伐するか考えましょう」
ベアトリクスが提案する。
「なんであんたが主導するの。だいたい作戦はある程度決まってるのよ」
シャルロッテがすぐに言い返す。
「会長、私から作戦の説明をしてもよろしいでしょうか?」
2人に任せていたら話が進みそうにないので、出過ぎたことだとは思いつつ提案してみた。
「・・・任せるわ。レオンくん、ベアトリクス達にも分かるように、説明してあげて」
シャルロッテの了承を得たので説明をはじめる。
「まず、飛んでいるワイバーンを少数の戦闘員で倒すのは不可能ですので地面に墜とします。墜とす手段は、会長の風魔法です。風魔法でワイバーンの翼を切り裂き墜としたのち近接戦闘にて討伐します。作戦の簡単な概要です・・・ただワイバーンの出没時間がバラバラなためおびき出す手段の必要性があるように思います。」
「なるほど・・・とりあえず地面に降ろさないといけないという意見には同意します。ただ風魔法でワイバーンの翼を切り裂けるの?」
「あんたの風魔法と一緒にしないでくれる?《ゼピュロス》を使うから問題ないわ」
「《ゼピュロス》・・・風の極大魔法ね。禁呪を除けば現存する最強の風魔法、あれなら確かに可能かも・・・」
「翼を破壊して、地上に墜として、地上で討伐する。それが、わたしたちの作戦よ」
「・・・確実を期するため、私も風魔法を使います。。二人で攻撃すれば、より確実に――」
「あら、必要ないわよ」
ベアトリクスの提案の途中にシャルロッテが口をはさんだ。
「わたし一人で十分よ。あなたが手を出したら、ジャマになるわ。だいたい、あんたは何の風魔法を使うつもり?」
「《テンペスト》を使います」
《テンペスト》・・・『ゼピュロス』に次ぐ強力な風魔法だ。
本職の魔法使いでもないのに、『テンペスト』を使えるというのは十分に規格外といえるだろう・・・ただそれ以上にシャルロッテが規格外なだけだ。
「あんたの《テンペスト》が中途半端に当たったら、私の《ゼピュロス》のジャマになるのよ」
シャルロッテが更に追い打ちをかける。
「中途半端、ですって? 私の風魔法が、中途半端だと?」
ベアトリクスが白い秀麗な顔を紅潮させながら言った。
「ええ、そうよ。異なる術者の風魔法が狭い範囲で実行された場合、相互作用で増幅される場合と相殺されてしま場合があるのは知ってるでしょう?あんたとわたしならきっと相殺されるわよ。だから黙って見ておきなさい」
このままでは、言い合いに発展してしまう・・・いや、もう言い合いになっている。
このままでは、作戦どころではない・・・やれやれ。
「お二人ともとも、落ち着いてください。左右の翼をそれぞれ魔法で攻撃するのはどうでしょうか?お2人の実力なら干渉しあわない様に範囲を絞って魔法を使えるのではないでしょうか?それぞれの翼に狙いを絞ればワイバーン全体に魔法を使うより、翼の破壊という点に関しては確実性が高まると思うのですが・・・」
僭越だなと思いながらも提案する。
「会長が右翼を、クラム隊長が左翼を攻撃するというのはどうでしょうか?そうすれば、両翼を同時に破壊できます。より確実に、ワイバーンを地上に落とせるでしょう」
ベアトリクスは、私を見る・・・事なかれ主義の提案にあきれているのか、提案を評価してくれているのか表情ではよく分からない。
「そうね・・・レオンくんのいう通り範囲を絞って魔法を使えば威力は上がるから確実にワイバーンを墜とせるわね。わたしは出来るわよ・・・ベアトリクスはどうか知らないけど」
「私も出来ます!!」
「まあ、わたしが攻撃した翼だけでも、十分に墜とせるでしょうしね」
「何ですって?」
ベアトリクスが再び怒りの表情を浮かべる。
「まあまあ、お二人とも」
アルが割って入る。
「今は、協力しましょうよ。レオンハルト先輩の提案は、理にかなっていますし、帝国始まって以来の才女のお2人が協力し合えば討伐の可能性もぐーんと上がりますよ」
「あんたに言われたくないわ。でもベアトリクス相手に言い合いしていても無駄だし、とりあえず落とした後の作戦を考えましょう」
まだ、二人の間には、まだ火花が散っている。
「それで、地上に落ちたワイバーンをどう討伐するか。その前にどうやってワイバーンとの遭遇率をあげるかよね。」
「さっきの襲撃も見てて思ったんだけど、家畜を連れておびき出すのはどうかしら?牛を奪っていってたから、餌を探して公路に出てきてるように思えたわ」
「確かにギルドの情報でも家畜が奪われたという報告が多く上がってたわね。それで行きましょう。ベアトリクスもたまには役に立つわね」
シャルロッテは余計なことを言いながら、ベアトリクスの案を評価した。
シャルロッテの護衛騎士になって半年以上がたつが、彼女は常に一言・・・いや二言以上多い。
敵を増やす要因になっているが、本人は気にしていない・・・主に巻き添えになる私が気にしているだけだ。
「おびきだす手段はとりあえずそれでいいとして、墜としたあとの作戦だけど、ブレスの対策はわたしとベアトリクスが魔法で何とかするしかないわね。」
「氷魔法で相殺するか、防御魔法を展開するか、でしょうね。今日の様子を見る限り近づいた敵には爪や毒の尻尾で攻撃してたから、墜としたら、すぐに距離を詰めたいわね」
「ブレスの対策ができて、距離を詰めたとして、あの巨体にどうやって攻めますか?ウロコもかなり硬そうでしたよ」
アルが意見を述べる。
「距離を詰めるところから《フィジカルドライブ》を使えばおそらく攻撃が通じるでしょう。あとワイバーン体の部位では長い首が比較的細いから首を落とすのが理想的ね」
ベアトリクスが的確な意見を述べる・・・さすがに優秀だ。
「《フィジカルドライブ》なんて、持って10分程度の短期決戦用の魔法じゃないですか。ワイバーン相手に通用しませんよ」
アルが悲壮な顔で言った。
確かに身体強化魔法は一度使うと、再度使用まで20~30分程度のクールタイムが必要だ。
そのため大型のモンスターを対処する場合は騎士団では数個小隊であたり、1陣から4陣までくみ《フィジカルドライブ》が切れたら次の陣が当たるように対処している。
今回の様に少数の人数で討伐に当たる場合の戦法ではない・・・しかし、
「会長と私は身体強化が常時発動しているので時間の制限はありませんので前線にあたります。クラム隊長とアルはワイバーンの牽制とブレスの対応をお願いできますでしょうか?」
シャルロッテと私はこの制限が当てはまらない。
シャルロッテを危険な前線に出すのは護衛騎士として不本意だが、もともと2人で討伐する予定だったのだ。
牽制や援護が増えただけでよしと考えるべきだろう。
「もともとその予定だったし、わたしの戦闘に連携できるのはレオンくんしかいないからね。ベアトリクス達が牽制とブレスの対処をある程度してくれれば後はわたし達で討ち取るわ」
シャルロッテが宣言する。
「エリカは距離を取って、負傷者が出た場合の回復と解毒をお願いね。ベアトリクス、騎士団の権限で家畜集められるかしら?」
「手配してみるわ。あと風魔法の発動は同時の方がいいわよね。多分あなたの方が発動までの時間が短いでしょうから、私の発動に合わせてくれると助かるんだけど」
ベアトリクスがシャルロッテにお願いする形をとってくれる・・・大人だ。
「いいわよ。さすがに《ゼピュロス》を無詠唱では無理だけどある程度の省略は可能だから、あんたが発動し始めるのを見て合わせるわ」
気分を良くしたのかシャルロッテが素直に承諾した。
「墜としたらレオンくんとアルでワイバーンまで距離を詰めて、わたし達が前線に到着するまで持ちこたえるのよ。その後ベアトリクスとアルはブレス対処及び牽制、わたしとレオンくんで止めを刺す。作戦の大筋は決まったわ。あとは現場で臨機応変に対応よ」
シャルロッテが作戦の概要をまとめて締めくくった。
「そうだ、ベアトリクス、討伐したらワイバーンの首と尻尾はわたし達が貰うわよ。残りは騎士団に譲るから」
「騎士団としては討伐の証拠があれば問題ないから、結構よ」
ベアトリクスが承諾した・・・まあ騎士団は冒険者のように討伐モンスターの素材に固執したりはしない。
「では、各自準備をすすめて明日に備えてましょう」
私たちは、それぞれの準備に当たるべく解散した。
明日、ワイバーンとの決戦が始まる。
やれやれ、シャルロッテを無事に護り、五体満足でいられればいいが・・・・
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




