30.シャルロッテは華麗に笑う
失踪していた船員たちが生還し、黒幕が総督だったという衝撃的な事実が判明したオスティアは大騒ぎになった。
総督が死亡したことで、オスティアは一時的に混乱したが、帝国から新しい総督が派遣されることになり徐々に秩序が戻っていった。
1週間後、新しいオスティア総督が帝都から派遣され、ヴェルザー家の別邸を訪れた。
「ヴェルザー伯爵令嬢、お初にお目にかかります。この度オスティア総督に着任いたしましたニコラウス・フォン・ジャカン男爵です。この度の事件解決へのお力添え、誠に感謝いたします」
ニコラウス総督が深々と頭を下げる。
「貴女の活躍により、多くの命が救われました。帝国は、貴女の功績を称えます。奪われた積み荷についてはいかがわしい魔術を行うための資金を得るために処分されたようですが、これで商人たちも安心して商売が出来ます」
「恐縮ですわ。私は偶然事件の真相に気づいて、たまたま解決できただけですのに」
最初から積極的に事件に首を突っ込んでいたくせに何を言っているんだか・・・
「それでも、結果として帝国に貢献していただきました。オスティアから褒賞をご用意いたしますので、ご要望があれば、遠慮なくおっしゃってください」
「それでしたら、オスティアにシルバーレーヴェ商会の支店を開く許可をいただけないかしら?」
「シャルロッテ様が所有される商会のオスティア支店の開店許可ですか・・・そのようなことでよろしいのですか?」
「ええ、オスティアに支店を出そうと前々から考えておりましたのよ。でも、オスティアは独自の商業組合をお持ちで、帝都の商業ギルド経由では中々許可を頂けなくて困ってましたの」
シャルロッテが特大のネコをかぶりながら上品に要望を伝える。
「わかりました。オスティアを揺るがす大事件解決の立役者でらっしゃる、シャルロッテ様のご要望ならば、オスティア商業組合でも反対は出ますまい。もし反対の声があっても私が責任をもって許可を出すよう取り計らいます」
ニコラウス総督が去った後、私はシャルロッテを横目で見ながら口を開いた。
「会長、最初から狙ってたんですか?」
「まあね。前々から色んなアプローチで開店を模索してたところだったのよ」
シャルロッテが両手を広げなら続ける。
「でも、ヴェルザー家・帝都商業ギルド・貴族のつてどれを使っても色よい返事がもらえなくて打つ手がなかったところだったのよね~」
「それで、今回の事件を利用しようとしたわけですね」
「利用とは人聞きが悪いわね。でも、名前と恩を売るチャンスと思ったのは確かね。オスティアの商人隊は事件が解決して安心して商売ができる。私は念願のオスティア支店が開ける。双方利益があってけっこうなことじゃない」
「やれやれ、会長にはかないませんね」
「あら、今頃気づいたの?」
翌日、シャルロッテは私を連れて港の酒場を訪れた。
「会長、どうしてこんな場所に?」
「ちょっと、会いたい人がいるのよ」
酒場の中に入ると、カルロが一人で酒を飲んでいた。
だが、以前とは様子が違う。
表情に生気が戻り、目には希望の光が宿っている。
「カルロさん、お久しぶりね」
「ヴェルザー伯爵令嬢......!」
「あんたのおかげで、仲間が戻ってきました。本当に、ありがとうございます」
カルロが深々と頭を下げる。
「礼なんていいわ。それより、話があるの」
シャルロッテは、カルロが座っている横の席に腰かけた。
「あなた、もう一度商売をやる気はない?」
「・・・商売、ですか?私にはもう船も資金もありません」
「オスティアに、シルバーレーヴェ商会の支部を立ち上げるわ。そこの責任者として、あなたを雇いたいの」
「わ、私を?」
「ええ。あなたは今回の件で被害にあいながらただ一人囚われることなく無事オスティアに戻れた。それは、あなたに運があるということよ」
「商売に必要なのは、才能と努力、そして運。あなたには少なくとも運がある。」
「運ですか・・・しかし船も財産も失った男に運がありますか?」
「生命がなければ、再起できないでしょう?やり直すチャンスをあげたんだから、このチャンスを生かすかどうかはあなた次第よ」
「ありがとうございます・・・ご期待に沿えるよう頑張ります!」
「礼はいいから、しっかり働きなさい。期待してるわよ」
「はい! 必ず期待に応えてみせます!」
カルロに見送られ、私たちは酒場を後にした。
「良い人選ですね」
「オスティア商業組合は閉鎖的な組織だから、現地の人間を責任者にした方が運営も円滑にいくでしょうしね」
シャルロッテが満足そうに言う。
「それに、今回の件で無事だったということは、運が強い証拠よ。商売に運は不可欠だからね」
「なるほど......」
シャルロッテの判断は打算もあるだろうが、事件の犠牲者に挽回のチャンスを与えるのはいいことだと思う。
オスティアから帝都に戻って10日が経った頃、シルバーレーヴェ商会の執務室で、シャルロッテは満足そうに書類に目を通していた。
「シルバーレーヴェ商会のオスティア支店開店の許可が下りたわよ」
オットーが驚いた表情を浮かべる。
「会長・・・.本当に認められたのですか?」
「ええ。事件解決の功績と、オスティア総督の後押しもあったそうよ」
「これで、ようやく海路貿易の足掛かりができたわ」
「さすがです、会長。事件解決だけでなく、ビジネスチャンスまで掴むとは」
イルゼが感心したように言う。
「当然でしょう。わたしは退屈だから事件に首を突っ込んだわけじゃないのよ。商会のためにオスティアの事件に興味をもったんだから」
・・・ウソだ。様々な打算があったのは確かだろうがきっかけは退屈だったからに違いない。
「それに、現地で支店を任せられそうな人材も確保できたし一石二鳥だったわね」
「カルロさんは、今回の件で仲間を取り戻し、やる気に満ちてるみたいですよ」
「さあ、これからが本番よ。支店開店の準備を進めなさい」
「「「はい!」」」
スタッフたちが一斉に返事をする。
私は執務室の隅に立ち、その様子を見守っていた。
「レオンくん、何か言いたそうね」
「いえ、さすが会長です」
「当然でしょう。面白そうな事件を解決して、さらに利益を得ることが出来た。満足できる結果ね!」
そういってシャルロッテは華麗に笑った。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




